...翌日。
火葬は真昼間に行われた。
太陽は煌々と輝き、鳥は元気よく鳴いていた。
私はそんないい天気とは裏腹に、泣きそうになっていた。
それは、両親との最期のお別れが近かったせいだ。
火葬の前に、私達はもう一度故人となった2人に挨拶ができる時間が設けられた。
2人の顔は死化粧で多少は明るくなっていたが、その反面血色が無く、
ただ白粉とほんの少しのチークが施されているだけだった。
沢山の綺麗な花と、3人だけの家族写真を腹の上に置き2人は黙って焼かれるのを待っていた。
私はそんな2人の枕元に折り鶴を置いた。
これが、私からの最期の贈り物だ。
自分の声とは信じ難いほど、か弱く小さな声だった。
「...それでは火葬に移らせて頂きます。御親族の方々はこちらに。」
火葬場にバスで移動した後、両親が眠っている棺は火葬室に入っていった。
そこは何だか仄暗く、灰色に包まれていていた。
2つの棺桶が、焼かれる為に小さな部屋に入っていく。
これでもう、2人には永遠に会えなくなる。
...嫌だよ。私の事置いてかないでよ。
棺桶がその小さな部屋に入って完全に見えなくなった時、そんな事を思ってしまった自分がいた。
2人が焼かれて骨になるまでの間に、私達は控え室で支給されたお弁当を食べた。
味がしない、出来ることなら食べたくない。
目の前にある鯖の押し寿司をゴミ箱へ入れたくなった。
何とかそれを耐え、口へ運び咀嚼をする。
吐きそうで、泣きそうで、嗚咽しかけた。
何故他の大人達は平気な顔してこれを食べているのだろう。
理解し難い行動だった。
これじゃまるで私が心の弱い人間みたいじゃないか。
この場にいる全員が化け物のように思えた。
仮面を被って人間面してるだけの得体の知れない化け物だと思えてしまった。
助けて欲しい。あわよくば死なせて欲しい。
一人ただそう思う私がこの中で一番の化け物だと、私は何処かで分かっていた気がする。
まだ半分も食べ終わっていない寿司を箸で突くと、
何処か聞き覚えのある声が私の頭の上から聞こえてきた。
その人物は甲斐田さんだった。
今日も喪服に包まれて、ピアスは付けられていて、髪も相変わらずハネていた。
やったぁ〜と言いながら甲斐田さんは私の隣の席に座った。
パイプ椅子はしっかりと音を鳴らして軋んだのが少し驚いた。
ヒョロヒョロしてそうに見えて体重は普通にあるんだ。
甲斐田さんは手元にあったペットボトルのお茶を飲み、私の寿司の方を見た。
大人にこんな心配をされるのは久しぶりだった。
一口だけ、寿司を頬張る。
やっぱり"美味しい"という感想は浮かんでこなかった。
気を紛らわそうと手元にあったペットボトルの水を少量口に含み、それを飲み込んだ。
甲斐田さんは自身の口角を両手の人差し指で押し上げた。
その表情に笑いが込み上げてきそうになる。
どうやら私は昨日からこの人の行動がツボに入っているらしい。
甲斐田さんの発言で少し幼少期の頃を思い出した気がする。
優しい母と、少しおどけた父の顔。
そして輪郭がぼんやりとしてきたあの頃の記憶。
それが何だか懐かしくて、冷たい寂しさが心を伝った。
つい口を滑ったその言葉に反応するかのように、甲斐田さんは目を見開いた。
だって昨日が初対面でしたし〜、とブツブツ私から目を逸らして甲斐田さんはそう言った。
まぁ確かに久し振りと言えば久し振りに笑ったけれど。
軽くペットボトルの水をあおる。冷たい水が生温い口内を冷やした。
甲斐田さんが里親だったらきっと他の親戚よりかは楽しい生活が送れそうだ。
そう思って軽い気持ちで口にしただけだった。
「なんて、冗談ですよ」
と言葉を付け加えた後横を見ると、そこには少し顔を赤らめた甲斐田さんがいた。
甲斐田さんの手元にあったペットボトルは少し凹んでいた。
中にあるお茶は少し波打っている様に見えた。
と、丁度その時葬儀屋のスタッフの方からアナウンスが入った。
どうやら2人が完全に骨になったらしい。
食べかけの寿司はゴミ箱に捨てた。
少々罪悪感が湧いたがまぁ許して欲しい。
私が席を立つタイミングで甲斐田さんも立ち上がり
「一緒に行きましょう」と私に手を差し伸べた。
酷くお姫様扱いの様な事をするのだなと驚きながらも、私はその甲斐田さんの手に自らの右手を重ねた。
その言葉が私の心を余計に締め付けた様な気がした。
...2人の骨の量は案外少なかった。
火にかけたらこんなに量が少なくなるのかと少し悲しくなった。
私は祖母と二人で両親の骨を1つづつ拾い上げていった。
この骨が、そしてさっき焼かれた肉が、私をここまで育て上げてくれたんだ。
また寂しさが私の喉まで追い上げてきたが、不思議と悲しみは攻めて来なかった。
多分、2人がもう顔も無くなって骨だけになったから、そんな感情も湧かなくなったのだと思う。
慣れって恐ろしいな。
一人でやっている訳でもないのに不思議と一人で部屋の中に居る感覚になった。
私を気遣ったのか、親族の中の1人が私にそう呟いた。
変なところで気を使う人だなと思った。
もう親が死んだ所も、死に顔も何もかもをもう見たんだ。
今更泣いて誰かに変わって貰うだなんて有り得ない。
何とか笑顔を取り繕った。
先程の私を気遣ってくれた親族の方は私から目を逸らし、「そう...」と呟いた。
変わる訳が無いだろう。
2人は私だけの親だ。代わりなんて居ないんだ。
沢山の親族が見守る中、
私と祖母は誰からの手も借りること無く二人で二人分の骨を拾い終えた。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。