そこからはバスに乗り、私は父の骨壺、祖母は母の骨壺を抱え昨日の葬儀場まで戻った。
外の空気は湿っていつつも何処かカラッとしていて気持ちが良かった。
祖母の声は昨日よりも遥かに弱々しくなっていた。
祖母ももう歳だし、
老いた体に2日間の法事と喪主、...そして、
自らの子供を失った事により負った心の傷も癒ていないだろうに、こんな大役も背負って疲れただろう。
葬儀が終わった後の御食事会は無理そうだと判断した私は葬儀が終わった直後に祖母に話しかけ、
「タクシー呼ぶから先帰ってて?」と祖母を帰宅させた。
祖母は私を気遣ったが、
私は「良いおばあちゃんを持ったなぁ」と思うだけだった。
そう言い、頬を人差し指で掻くと祖母は腑抜けた顔をした後笑った。
良かった、安心してくれた。
足元がふらついている貴方が何を言ってるんだか。
黄色いタクシーは祖母を乗せた後、ゆっくりと走り出した。
私はその後ろを見て、その黄色い車が見えなくなるまで手を振り続けた。
葬儀場から徒歩数分の居酒屋を貸し切って、御食事会と言う名の「飲み会」が始まった。
喪服姿で厳かな雰囲気を醸し出していた大人達は途端に騒ぎ出し、お酒を煽り、焼き鳥を貪り食い出した。
さっきまで2人の葬式だったのにも関わらず、なんでこんな大人達は切り替えが早いのだろうか。
きっと2日間で溜まりに溜まりきったストレスをここで解放しているのだろう。
...少し大人になるのが怖くなった。
甲斐田さんとは葬儀が終わった後、少し立ち話をしてその流れて隣の席に座った。
正直甲斐田さんと一緒に行動できるのは安心だった。
祖母以外で唯一話せるのが甲斐田さんだったし、話しやすいのも甲斐田さんだけだったから。
甲斐田さんの声は綺麗で、店中によく通る声だった。
多分甲斐田さんが居なければ私はお通しの水だけを飲んで帰っていただろう。
甲斐田さんの有難みをしみじみ感じる。
甲斐田さんの手元にはノンアルコールのビールが置かれていた。
お酒を飲むと性格が変わるタイプなのか...。
お通しの水を飲み、私は甲斐田さんの顔をまじまじと見る。
...この人は偉く顔が整っているな。
鼻筋は通っているし、輪郭もシャープで、何より目が綺麗だ。
こんな綺麗な顔を持っている人間が酔っている所なんて、私には想像出来なかった。
でも、宝石に少しだけヒビが入っても綺麗な様に、
きっと酔っている所も醜態と呼べる物なんかじゃないのだろう。
ガヤガヤとうるさい店内で、2人きりの様な感覚に陥った。
...甲斐田さんもそうだといいなと、ふと思った。
と、その時だった。
親族らしき喪服の中年男性がこちらに寄ってきた。
もう随分飲んでいるのだろう。顔全体が朱色に染まり無駄にテカテカしている。
表情は溶け、だらしない服装だった。
その手には追加のお酒がなみなみと注がれていた。
このご時世そんな言葉を言われると身の毛がよだつと言うもので、
私はその男性にかなり強い警戒心を抱いた。
制服のスカートをぎゅっと掴み、握り締めた。
私の行動に気づいたのか、甲斐田さんはわざと高い声を作ってその男性に話しかけた。
私と男性の間を隔てるようにして甲斐田さんの腕が回されたのは甲斐田さんのちょっとした気遣いだろうか。
わはは、と豪快に笑う男性の顔を軽蔑した目で見る。
と、甲斐田さんがこちらを向いて『ちょっと たえてね』と口パクで言ってきた。
お酒が回っていない甲斐田さんの口は滑らかにそう言葉を発した。
その言葉に、少しイラッとした。
祖父の事については良く知らないが、
少なからず、祖父と甲斐田さんの容姿を見比べて何か物事を発するのは些か失礼な事だと思ったのだ。
そう言いかけた私の口元に甲斐田さんの大きい手が被さる。
口元さえ笑っていたが、表情は笑っていなかった。
甲斐田さん今怒ってる。
私でも分かるような表情の変化だったが、
男性は「少し怒らせちゃったかな(笑)」と半笑いでそれを流した。
話の矛先がこちらへと切り替わる。
何処まで自分勝手なのだろう。
お酒のせいでもあるだろうが、きっと元からこの様な性格なんだろうなと悟る。
そして、この男性は私の地雷を踏んだ。
身の毛がよだつ程の嫌悪感。
初めてだった。こんな他人に「気持ち悪い」のみの感情だけが強火で炊かれたのは。
その目は慈愛とは言い難い、...何か親切心以外の別の目的も絡んだ感情を含んでいる様な気がした。
その代わり、...。
その目線が私の顔から下にズラされる。
気持ちが悪い。さっさと失せて欲しい。そして、二度と私の前に現れないで欲しい。
どっか行ってよ。
そう言いかけた時だった。
...え?
私と男性の口から同じ言葉が出た。
足早にそう立ち去る男性の後を見送った後、私は甲斐田さんに押しかける。
私と甲斐田さんの声が重なる。
それに反応するかの様に飲み物の中の氷がカランっと動いた。
...どうやら、あの虚言は私を守る為のものだったらしい。
口の乾きを潤す様にお冷を飲む甲斐田さんをずっと見つめていたかった。
...これが、嘘じゃなかったらどれ程幸せなのだろう。
でもきっとそれは傲慢で我儘な事だ。
「優しいですね、甲斐田さんは」
甲斐田さんに目を合わせることすら出来ないまま、私はそう呟いてオレンジジュースを1口飲んだ。
甘さの中にあるほろ苦さが、舌の上で爆ぜたのを感じた。
短編からコピペしてるので結構高頻度更新になってる。楽。
冬休みがもうすぐ終わります。もう今週の水曜からだよ三学期。泣くよ。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。