私は今びしょぬれだ。
しかもここは書庫である。
あぁ、本が濡れてしまう!湿気は本にとって最大の敵であるというのに!!
何故このような状況になったかって?
私は毎日のように本を読んでいた。
今日もいつも通り、本の世界の虜になっていたのだ。しかし、突如鳴り響いたピシャーン!という大きな音で、私の意識は本の世界から現実世界へと引き戻された。突然、雷雨が降り始めたようだ。
しかし急な天候の変化は、ここら辺じゃ日常茶飯事だ。
ならば雨が降ったからびしょ濡れになったのかだって?
バカを言うな。この書庫はちゃんとした家の形をしている。すなわち屋根がある訳で、雨なんかが入り込めるはずがない。
じゃあ、なんでびしょ濡れなのかだって?それは私が聞きたい。
何故、屋根に突然穴が開いたのだ!!しかもピンポイントに私だけに雨が降り注ぐという不親切極まりない穴設計!!!
何たる不幸か!!…いや、他の大量にある本が無事だっただけ不幸中の幸いと喜ぶべきか?
しかし私が手にしていたこの古びた本はもう瀕死だろう。
ただでさえ年月の変化により風化が進んでいたのに、そこに水分が加わるなんて……。
まだびちょびちょという訳でもないから乾燥させたら良い感じに戻るかな?
屋根を修理するにも本を乾燥させるにも、まずは雨が止まないとどうしようもない。
私は、とことん雨男な自分を恨むことにした。
そしてもう1人、恨むべき人物がいる。
そう言いながら睨む私の先、つまり屋根に空いた穴の先には金髪の派手な男が立っていた。
わざとらしく肩を抱いて震える素振りをする彼は、同じ街の幼馴染であり、親友でもあるカインだ。
見た目こそチャラく見えるものの、心根はとても優しい人なのだ。
しかし、この人は昔から何を考えているのか分からない時が多い。
今もなぜ度々屋根に穴を開けるのかが分からない。
ただ分かっている事としては、とても頭が切れ、よく仕事するということのみだ。
だからといって彼の行動を許していい理由にはならないのだが……。
そう言ってケラケラ笑う彼に少しムッとしたが、これ以上反論しても無駄だということを悟ったため、とりあえずこの無意味な論争は辞めることにした。
私がそう声を張り上げると、彼は素直に屋根から降りて床に足を付けてくれた。
そう言いながら大きくため息を吐くと、彼はまぁまぁと私を宥めてきた。どうやら調子が良いらしい、鼻歌まで聞こえてきそうだ。
私がふてぶてしくそう言うと、彼は「任せて」と言って嬉しそうに頬を緩ませた。
𓐄𓐄𓐄𓐄𓐄𓐄𓐄𓐄𓐄𓐄𓐄𓐄𓐄𓐄𓐄𓐄𓐄𓐄𓐄𓐄𓐄𓐄𓐄𓐄𓐄𓐄𓐄
カイン side
エリックに屋根修理を任された後、外に出てみると空はもう晴れていた。
そう独り言を呟きながら屋根に登ると、遠くからでも分かるようなポッカリ穴がそこに残っていた。
この書庫は代々受け継いでいて、いろんな資料があるらしいのだが、そのせいもあって湿気に関しては特にうるさいのだ。
でもこの穴は、彼の身を守るために出来た穴なのだ。
彼の家は代々殺しを営んでいたそうで、その血はもちろんエリックにも色濃く受け継がれている。
しかし、彼は「殺しよりも読書の方が好きだ」と言って、いつからか殺しを辞めていた。
殺しの対象となったのは、魔女や悪魔などが多かったため、雨の日に彼らが具現化した魂が、よくエリックを襲いに来るのだ。
魂は一度壊してしまえば、二度と復活することがないのだが、その分なかなか手強い相手であることが多い。
僕はそんな彼らからエリックを守るために呼び出された、言わばボディーガードのようなものなのだ。
エリックには、悪魔のことも、僕のことも、まだ何一つも教えていない。
彼は無邪気に本を読んでいる姿が1番似合うから。
声に出したら叶いやすくなるかなと思いながら呟いたものの、自分で言っておいてすごく虚しく思えてきた。
終わりのない毎日の中で、いつか終わりが見えてきた時に、彼の隣には私が付いていたいと強く願った。
ぽっかりと開いた屋根の穴は、前にどんな穴が開いていたのか分からないほど綺麗に修復されていた。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!