「お先に失礼します!」
「お疲れ様でした〜!」
マネオンニ達の挨拶が聞こえる
3時間ほど続いた打ち上げはようやくお開きになり、私も帰宅の用意を始めた
外に出ると、涼しい空気が顔に当たった
春とはいえ、まだまだ夜は冷える
通りに人は見当たらなくて、その静けさに、先ほどまでの熱気が吸い取られていくようで心地良かった
スマホでタクシーを探していたオンニが、んー!と伸びをした
オンニにつられて頬を緩めるツウィ
我らの可愛いマンネは、相変わらずお酒に強かった
くるりと周りを見回して、眉を下げて苦笑する
その視線の先には、ナヨンオンニ
ジョンヨンオンニにもたれかかって目を閉じている
ぽつりとミナオンニが呟いた
10年目を迎えた私達
ここ数年では個人の仕事も増えてきて、少しずつメンバーが揃う日は減っていた
寂しくないといえば嘘になる
宿舎生活だったときは、常に皆んなと一緒にいた
VLIVEで馬鹿騒ぎしたり、夜中に泣きながら語り合って、翌朝お互いの顔の酷さに笑ったり
なんでもないことで笑って、泣いて、それが幸せだった
9年もあれば、変わってしまうのはきっと当然のこと
だけど
ふとした瞬間にあの頃が懐かしくなる
____みんな、同じ気持ちなのかな
今日、珍しくお酒を一杯だけ飲んだミナオンニ
いつもは見えないオンニの本心を覗けた気がして、嬉しかった
そう言って、2人は呼んでいたタクシーに乗り込んだ
先ほどのしんみりとした空気を破ったのは、まさかのナヨンオンニ。私はてっきり寝てると思っていたので、「ミナや、あんた本当に可愛い」とオンニが顔をあげたときは、もう心臓が止まるかと思った
そのナヨンオンニとミナオンニを座席に押し込んで、ジョンヨンオンニがこちらを振り返る
3人の姿を見送る
そして、その場に残されたのは私とモモオンニとチェヨンだった
…その場に。
今日は酔っ払いのサナオンニ
____そんな気はしてました、けど
2人は歩いて帰るみたいだ
「ダヒョナ頼んだで〜」と言うモモオンニに、任せなさい、という意味を込めてマッチョポーズをしてみせた
遠ざかる2人にしばらく手を振って、ひとつ深呼吸をしてお店の入り口に戻った
珍しく酔って、座り込むサナオンニ
その肩を、ぽんぽん、軽くとたたく
たたくだけじゃ起きなくて、揺するような動きに変えてみる
すると、長いまつ毛がふるりと揺れて
オンニの目がゆっくりと開いた
ゆっくりと顔をあげたオンニは、酔いのせいか目が少し潤んでいた
そのまま、私を見たオンニがふにゃっと笑うから、あまりに綺麗な笑顔から目が逸らせなくなる
____ほんとに、罪な人
無防備すぎるその姿に
呆れなのか諦めなのか、よくわからない気持ちを感じつつ、それがオンニにバレてしまわぬよう、小さく息を吐く
私より少し暖かいオンニの手をとり、立たせようと引っ張った
____これだから酔っ払いは
逆に私の手が引っ張られる
予測していなかった抵抗に体が反応できず、よろめいてしまった
うるうるとした目で見上げてくるオンニ
頬を膨らませた赤ちゃんのような表情を見て、流石国民的アイドル、なんて妙に冷静になる
でも、その瞳の奥は艶めいていて
かすかに挑発の色を感じとれた気がして、この人は全て分かってやっているのかも、なんて思う
私の想いも、願いも、全て。
ぜんぶ、気のせい
愚かな期待をのみこもうと、首を振る
その時、ふと、さっきのミナオンニの言葉が浮かんだ
「まだしばらくは……」
私は、こうしてオンニの側に居れるだけで良かった
仲間として、私を好きでいてくれればそれで充分だった
だけど
それすらも許されなくなるかもしれない
もし、私達の活動が落ち着くとすれば
それは私がオンニの側に居る理由がなくなるということで
そして
その日は、そんなに遠くないのかもしれない
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!