⚠前話よりご閲覧ください。
翌日。目が覚めた瞬間思った。
ダメだ─────と。
いつも寝起きが悪いのに、その嫌な予感がやけに私の目を冴えさせた。今日は、ダメだ。ダメな日だ。怖い、どうしてだろう。体が動かない。遅刻したらペナルティなのだから、さっさと起き上がって支度をしなきゃいけないのに。今日は、ファイナル前最後のダンスレッスンの日なんだ、行かなくちゃ。行かなくちゃ!
その気持ちに反して、自分の中の本音が溢れ出す。
…起き上がりたく、ない。レッスンに出たくない。否、部屋からも出たくない。1歩も。怖いんだ、また頑張ったって否定されるだけなのが。ただ呆然と、天井を見つめる。怖い。人前に出ることが、死と同等に怖い。
「んー、おはよ。…優希ちゃん?起きてる?」
もう1人のルームメイト、百加から声をかけられる。恐怖で動けないなど、言えるわけがない。困り果てた私は、目を瞑ると彼女に背を向けるように寝返りをうった。まぁ簡単に言えば、寝たフリである。
「朝弱いよね〜。優希ちゃん、起きて〜!菜乃ちゃんも!」
百加ちゃんは、私の体の下に手を滑り込ませて、私の上半身を起こしてくれた。どうしても起き上がれなかったので、ラッキーだ。
「…優希ちゃん?どうした?」
彼女は、無表情な私の体を軽く揺さぶる。…ああ、何をしているんだ私は。どうにか気力をふり絞り、急いで微笑みを浮かべる。
「…ん、おはよぉ」
「びっくりした、元気ないのかと思った。おはよう!」
百加は、安堵の笑みを浮かべている。良かった、騙せた。え〜元気だよ、なんて笑いながら返しておく。
どうにか起き上がり、騙しきれたことに安堵し、ふっと息を吐いた。頑張ろう、頑張らなくちゃいけないんだ私は。人前に出るのが怖いとか言っている場合じゃない。そもそも、アイドルはそういう職業ではないか。
『努力してんのかな?笑』
瞼の裏に不意に浮かんだコメント。ほんと、こういうところだよね。自嘲し覚悟を決めて立ち上がると、菜乃さんと百加ちゃんと共に支度を始めた。
……が、しかし、覚悟を決め、支度をし始めたとは言ったものの。やはり調子の悪い日であることに変わりはない。朝食も昼食も、食欲が出ずあまり食べられなかった。周りに人がいることが怖かった。
練習生たちから、今日は休んだらどうかと口々に心配されたが、ここで逃げてはいけない。逃げるなんて、許されない。
ビジュ担ってほど、ビジュアルは良くない。ダンスだって昔からやってきたけど、もっと上手な練習生なんて沢山いて、ボーカルやラップなんて初心者同然。ユーモアもなければ、周りを盛り上げるのも上手くできない。欠点だらけで、何も秀でるものがない私なんかが、休んでいいわけがない。
周りが練習している姿が目に入って苦しくても、自分がいる意味を自問自答しながら、歯を食いしばって練習し続けた。そして迎えた、ダンスレッスンの時間のこと。
私の恐怖感は、ピークに達した。
「はい、じゃあ想像以上ね。最後のレッスン、やっていこう」
「「はい!」」
YUMEKIさんとのレッスンもこれで最後。もしも次、YUMEKIさんと踊れるとしたら、アイドルとしてなのか、それともデビューできずに────
『デビューして欲しくない』
『いまいち刺さんないんだけど』
『シンプル下手』
『得意なものあんのコイツ』
前触れもなく、心ないコメントが頭の中でエコーする。忘れろ、私。今は集中しなくちゃいけないんだ、分かるでしょ。自分に言い聞かせてみるが、無駄に良い記憶力が私を追い詰める。
『デビュー圏内の順位入ったことあったっけ』
『邪魔』
『ずば抜けて上手いとか感じたことない』
「…き、ゆうき?」
「優希ちゃん?どうしたの?」
「……え?あ、」
しまった。頭の中の声にすっかり思考を支配されていて、周りの様子に気付かなかった。どうやら、ぼーっと突っ立っていたようで、皆心配そうに私のことを見つめている。
─────今、周りから見られている。
どうしてだろう。その事実が、怖い。
「優希、どうした?何かあるなら、今話しな」
YUMEKIさんからそう催促されるも、私の体はさらに硬直する。体全体に力が入って、息が浅くなっていくのを感じる。
見られている。皆から注目されている。カメラが私をズームしている。みんなの視線が、私の体に槍のように刺さっている。固まっている惨めな私を、みんなに見られている。
その現状を認識した体は、さらに拍車をかけておかしくなっていく。
多分、今の私は顔が真っ赤になっているし、手だって震えている。次第に視界がいやに揺れ出して、世界が波打っているようだ。視線が痛くて、恥ずかしくて。キィンと耳鳴りがうるさくなって。
いっそのこと、消えたいぐらいで。
「はぁっ…はっ、はぁっはあっ」
「ゆ、ゆうきちゃん…?」
ぜいぜいと必死に息継ぎをするが、いつまでも酸素が入ってくる感じがしなくて焦りが募る。こういうときこそ深呼吸だ、深く息をしろ、心の中の自分がそう言うが、体が言うことを聞かない。冷や汗が背中を伝う。視界がチカチカと黒くなったり、戻ったりを繰り返し始める。
「はあっはっ、はっはぁっ………」
視界がぐるっと回って、体が床にに叩きつけられた。…あ、倒れたのか。自らが倒れたことを認識した瞬間、私の意識は途切れた。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。