side : 鈴木
スタッフ「 2人ともありがとうね~! 」
佐「 ありがとうございました、 」
鈴「 … ありがとうございました~ … (苦笑) 」
撮影終了後。
久しぶりに 勝利と2人きりでの撮影。
終了後は2人で買い物でもしようと約束していたはずなのに、今 私達を纏う空気は最悪なものだった。
きっかけは 勝利の初心な反応が面白くてちょっとからかっただけ。
もうこんな撮影何回もしてるはずなのに、ちょっと耳が赤くなるのが可愛くて、さあ、、
まあでも好意ないのにアレは思わせぶりすぎるよね、
… 意地悪しすぎたな、コレ 私が悪いよね。
鈴「 ねえ勝利、 」
佐「 … ごめん 」
鈴「 … いや、私もごめんね 、その、勝利の気持ちとか何も考えずに、 」
佐「 … いや、あなたの言ってること なんにも間違ってないし、おれがぜんぶ悪いから、 」
鈴「 … ちゃ、そういう事じゃなくて、さあ? 」
佐「 … 気付いてないフリ も 疲れるよね 」
鈴「 …… いや、 」
ああああああああ 、、なんでこうなっちゃうかなあ
… 確かに私はずっと、勝利の気持ちに気付いてる。
気付いているのに、何も知らないフリを続けてる。
もう何年かわからない。
勝利がいつから私のことを好きなのか知らないけど、私もいつから勝利の気持ちに気付いているのか覚えてない。
苦しそうなのも、切なそうなのも、
私のことを諦めようとしても、諦めきれないのも、
ぜんぶぜんぶ知ってる。
知ってるけど、知らないフリをしないといけない。
だってアイドルだから。私達メンバーだから。
メンバーだから、それ以上の関係にも、気まずい関係にもなってはいけない。
仲のいい、友達のような、そんな関係じゃないと、
なんて。全て私の押し付けでしかない。
鈴「 最低、だよね 」
佐「 なんでよ 」
鈴「 わかんないけど 」
佐「 もう…… 、 」
呆れたようにため息をする勝利。
2人きりの楽屋で、晴れない顔で荷物をまとめていて。
… そんな顔をさせたいわけじゃないのに。
鈴「 … 私のどこがそんなにいいの? 」
佐「 … 言ったら そこを直すつもりなの? 」
鈴「 … なんでそんな 、そんなことしたところで勝利の気持ちは変わんないでしょ 」
佐「 ほんと、おれのことは全部お見通しだよね 」
それは、勝利がわかりやすいだけだと思うけど。
そこまで口にすると 更に拗ねてしまいそうなので喉奥で留める。
鈴「 勝利だって私のことよくわかってるよ? 」
佐「 いや、全くわかりませんけどね 」
鈴「 体調悪い時だってすぐ気がつくし 」
佐「 それは、いつもうるさいのに 調子悪かったら嘘みたいに静かになるからでしょ 」
鈴「 ちょっと弱気になってネガティブなこと考えてても すぐ気付かれるし 」
佐「 それも、いつもより明らかに不安そうな表情してるから 」
鈴「 ほら、よくわかってるじゃん。 」
佐「 … それくらい誰でもわかるでしょ… 」
鈴「 ねーもうそんな顔しないでよ、勝利はずっと私の隣にいるんだから 他の人より私のことわかってくれてるよ!私がそう言ってるんだから間違いないの!! 」
いくら言っても認めないから、勝利のほっぺたを むぎゅ、とほっぺをつまむ。
柔らかい。勝利ってほんと赤ちゃんみたいだよな~~~、、
、、きっとこういうボディタッチも、本当は良くない。
良くないけど、他のメンバーと同じようなことをしている以上、勝利にわざと距離を置くのは ちょっとあまり気が乗らない。
むぎゅむぎゅと引っ張ってたら 勝利はいつも、ふっ、と笑ってくれる。
佐「 んん…わはったはら、はなひて (笑)」
鈴「 … うん 、その方がいい 」
佐「 へ? 」
鈴「 やっぱり笑ってる勝利がすき 」
さら~っと出てしまった言葉の重みは、勝利の耳が赤くなり出してから初めて気がついた。
ああ、無意識。ダメだ、ごめん勝利。
鈴「 っあ 、いや、違うよ?その、 」
佐「 もう… やだ、この人 ……… 」
鈴「 あああっ、ごめん、こういうとこだよね?!やめたほうがいいよね そうだよね、、 」
こういうところから直していかないと。
思わせぶりにも程がある。
ぼふ、と楽屋のソファに身を投げた勝利は、小さく縮こまって、顔を腕で覆う。
不覚にも可愛いと思ってしまう。
もちろんそれは、メンバーとしての"可愛い"だけど。
佐「 っや、もう、ほんと …… 」
鈴「 ごめん マジでよくないよね、帰る!!1人で家帰って頭冷やして反省しますごめんなさいすみませんでした!!!!! 」
ああもう早く帰らなきゃ。
これ以上勝利を傷つけてらんない。
ガサガサと適当に荷物をまとめ ガチャリとドアノブに手をかける。
その時、
佐「 そういうとこも すき、なんだって …… // 」
私が楽屋を出ようと扉を開けた瞬間、何か小さく呟いた勝利の声。
鈴「 … っ 」
その可愛さと素直な声に、思わず足が止まりそうになったけど。
また、気付かないフリをして楽屋を出てしまった。
鈴「 はぁっ、もう… 」
ガチャりと音を鳴らしドアを閉め切れば、その場にうずくまる。
小さく縮こまって、耳まで赤く染めて、絞り出された「 好き 」。
あんなにも素直な勝利を見たのは初めてだった。
直接"好き"と聞いたのも、はじめてだった。
胸が痛い。苦しい。
私はただ、勝利とメンバーとして仲良くしたいだけなのに。
なんで、なんでこうなっちゃうんだろう。
結婚どころか、恋愛なんてする気はない。
なのに、なんでずっと私のことを、
鈴「 … 好きとか言わないでよ 、 」
脈が早くなっているのがわかる。
胸の奥が どくどくと鳴り響いてるのはきっと、多分、くるしいから、で。
くるしいから、だから、心臓がうるさい。
さっきの勝利の小さな声が、頭から離れないのも、くるしいから。
メンバーとして仲良くしたいのに、すきとか言われちゃったから、だから、
身体の奥が、顔が、あたまが、 熱い。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。