病室は、静かだった
さっきまでの会話が
嘘みたいに消えている
ベッドの上
テヒョンは、壁の方を向いていた
何も言わない
何も聞かない
完全に、閉じている
その背中を見ながら俺は立っていた
動けない
何を言えばいいのか分からない
今までなら
指示を出せばよかった
決断すればよかった
それで、すべて動いた
でも今は違う
口を開こうとして止まる
“治療を受けろ”
その言葉が頭に浮かぶ
でもそれを言って何になる
さっきの言葉が、頭から離れない
あれは
間違いじゃない
何もしてこなかった
何も見てこなかった
拳を、ぎゅっと握る
どうすればいい
初めて、本気で分からない
一歩 、近づく
名前を呼ぶ
反応はない
少しだけ、待つ
でも
動かない
もう一度、呼ぼうとして
やめる
何を言えばいいのか
分からないまま呼ぶのは
違う気がした
静かな時間が流れる
そのまま
何もできずに、ただ立っている
こんな時間、今までなかった
何もできないまま立ち尽くすことなんて
そのとき
ベッドの上で、
小さく動く気配
小さな声
振り向かないまま
言葉が、刺さる
淡々とした声
責めてるわけじゃない
ただ当たり前のことを言っているだけ
何も言えない
その一言
完全な拒絶
息が詰まる
でも
否定できない
今まで、ずっとそうだったから
しばらく、黙る
そして
低く、はっきり言う
テヒョンの肩が
ほんの少しだけ揺れる
振り返らない
でも
聞こえている
それは
初めての言葉だった
でも
すぐに返ってくる
冷たい声
また、言葉が止まる
どうしていいか
本当に分からない
この日
完璧だったはずの男は
初めて
“父親として何もできない自分”を知った













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。