第2話

新しい仕事
12
2024/02/27 09:00
僕は強い人間なほうだと思う。幼いころに両親を亡くし、中学生までは祖父母の家で暮らしてきたが、高校の試験も頑張って合格した。その努力は人の数倍はやってきたと自負している。ただ、面接には苦戦した。やはり両親が亡くなっているというのは調べられるし、時間がかかる。ただ中には肉親が犯罪者で刑務所に入っているなどというと、就職の時も採用してくれないところも多くある。そう思うと楽なんだと思う。自分が罪を犯していないのに家族のせいで人生に支障が出るのは辛いことだろう。
高校にはなんとか入学し、3年間は何事もなく過ごした。そろそろ一人暮らしをしなければとも思っていたので、定時制で、昼間働き、夜は学校という過密スケジュールで、体調を崩すこともあり、ストレスなどが溜まっていたのだろう。
だが、今日からは新しい生活が始まる。保険会社に勤めるのだ。
就職ではもちろん面接などで苦労した。しかし、自分の今までの苦労に深く同乗してくれ、ここで働くのはいいのではないかという思いからもここで働くことに決めた。
今日から初出勤ということで、張り切って外を出る。僕が住んでいるマンションから徒歩でニ十分ほどに駅があり、そこから電車で二駅のところにある。
強い期待感からか、徒歩ニ十分があっという間に感じ、体感的にはすぐに会社に到着した。唯一戸惑ったのは今まで電車に乗っていなかったからか、切符を買って改札に行くのに時間がかかったくらいだ。しばらく続けていればすぐ慣れるだろうと別段気にしてもいなかった。
建物内に入るとまずは初めての仕事なので4階にあるお偉いさんたちがどかっと座っている部屋にあいさつをしに行かなければならない。
ドアを3回ノックする。と同時に緊張が高まる。「どうぞ。」とだけ言われて自分でドアを開ける。そこにはむすっとした顔の男性たちが僕を迎え入れてくれた。これは皮肉も入り混じっているような表現だが、まさしく僕の気持ちを表現してくれていると思う。普通もっと笑顔で迎え入れてくれてもいいだろうが、なぜこの人たちはこんなに不機嫌そうな顔をしているのだろうか。
僕とお偉いさんたちの間には謎の距離感と異様な雰囲気が漂っている。やっとの思いで「おはようございます」を絞り出した。
そのあとは特に違和感なく詳しい仕事の説明を受けた。
僕の仕事は、保険に関する商品の販売やお客さんへの対応という簡単なものだった。だが、出勤して職場を目の当たりにすると、とんでもない光景が飛び込んできた。

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