カタ...カタ...
奇妙な音が後ろから聞こえる。
いや、横からも、斜め右、左からも。
その音を聞いて、後ろを振り向いた。
そして、また追いかけっこが始まる。
無数のマネキンが俺に向かって走ってくる。
さっき通った道を戻って、あの扉に着く。
何度も何度も蹴った。最大限の努力を尽くした。
開かなかった。
追いつかれてしまった。呆気ない最後だと諦めた。
追いついて来た1人(?)のマネキンが、あるアタッシュケースを渡してきた。
死ぬと思っていた。正直の所。
鍵穴に、奥村さんから貰った鍵をさす。
中に入っていたのは
左からフラッシュライト、ハンマー、ナイフ
黒手袋、マスクだった。
丁寧にしっかりしまってあったその持ち主の几帳面さが目に見えてわかった。
きっと、この持ち物の持ち主は廻徒だろう。
彼は非常に几帳面だ。血液型がAの中のA。
本当に几帳面な性格だ。
マネキンが大きな扉を開けてくれて、僕はそこを通って戻った。
エレベーターについて、下のボタンを押す。
もう聞き慣れた声を聞いて、到着したエレベーターに乗る。
荷物を取りに、5階のボタンを押す。
なんか嫌な予感がしながらもあの階に着くのを待つ。
ドアが開く。
さっき見たあの廊下を歩いて、廻徒の部屋に入る。
幸いにも、荷物はそのまま見たいだ。幸いにも。
スーツケースの中身をバックに詰めて、背負う。
この奇妙な空間から、家から、逃げ出さなくてはならない。
僕はそう、決心した。
立ち上がり、部屋から出ようとした。
その時、廻徒の机に置かれた本が一冊、目に入る。表紙には「日記」と書かれていた。適当なページを開いて中に目を通す。
「やっとわかった。この奇妙な家から出る方法が5つの鍵を見つけて、56階の電車から地下室に行く。そこで、その鍵をはめて、この家から出るんだ。1つ目の鍵は24階にあった。相当危険な場所だった。今日はここで、辞める。いつあのガキに撃ち殺されるか分からないから。」
それは廻徒の字じゃなかった。もっと歳が上の、大人が書くような字だった。「あのガキ」とは、廻徒のことだろうか?そしてこの日記はここで止まっていた。
ついでにその日記もバックの中に入れる。
エレベーターに戻り、24階のボタンを押す。
待ってる最中に思ったが、24階に丁寧に鍵が戻してあるのだろうか?もし戻してあるとするのなら、廻徒は一体何が目的なのだろうか。
本来なら、もう見つかっていてもおかしくは無い。
もしかしたら、何処かで監視されているのかもしれないし、もしかしたら、今も血眼で探し回っているのかもしれない。
そんな事を考えてるうちに、24階に着く。
ドアが開いた途端、異臭が鼻を貫いた。
鼻がよじれるような、酷い臭い。
まるで、肉が腐ったような。
嫌な予感がしながらも、真っ直ぐに続いた回廊を進む。
少し歩いていたら、臭いが強くなったと共に、ある扉が見えてきた。
またこのパターンかと思いながら、たどり着いたその扉を開ける。
そこは、寝室のような場所だった。
多分、寝室に使われていた場所なのだろう。
だが、その事を思わせないくらいの衝撃的な情景。
死体があった。
この腐った臭いの正体はこれだったのかと、1発でわかった。
「コロ...シテ...」
死体が喋った。
腰が抜けるとはこういう事なのだろう、恐怖で立ち上がれなかった。
「タス...ケテ...」
尻もちをついた僕の下に、ある紙があった。
「死は救済である。」
こう、書いてあった
俺は、目の前の喋る死体を見て
こう、呟いた
そしてよく見たら、死体の胸に、青い鍵が無理やり、力づくで雑に入れられたように、埋め込まれていた
俺はバックから手袋とナイフを取り出して、死体に向けた
手が震える。
体が、震える
そして、僕は手に掛けた。
完全に息の根を止めた。
これは、救済。
仕方の、無いこと。
これは、救済。救済。救済。救済。救済。救済。救済。救済。救済。救済。
これは、仕方の無いこと。仕方の無いこと。仕方の無いこと。仕方の無いこと。仕方の無いこと。
これは、救済なんだ。
「自分」に言い聞かせて、鍵を取り出しその場を去った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!