第41話

月の代行者
2
2025/11/04 08:22 更新
世界が沈黙した。
その静けさの中で、ルナだけが立っていた。

彼女の身体は光と闇の境界にあり、
そのどちらにも属せないまま、
ただ黒い月の下に立ち尽くしていた。

「……わたしが……光になるんだよね?」

ルナの声は震えていた。
だが、その手のひらに宿る力は、
かつての神にも等しいほどの輝きを放つ。

ひかりのストーンの欠片が、
彼女の胸の奥でゆっくりと溶けていく。

「神の少女の力……これが……」

ノクティスが、崩れゆく世界の中から姿を現す。
その瞳は黒曜石のように冷たく、
しかし、どこか慈悲を含んでいた。

「光は人を導く。だが、同時に焼き尽くす。
月よ――おまえはその残骸を照らす者だ。」

ルナは静かに頷いた。
月光が彼女を包み、
その髪が白く、瞳が銀に染まっていく。

だが、その光の下――
大地の影がざわめいた。

祈りを失った世界は、
新しい“神”を拒絶するように、
影を生み出し続けていた。

「これが……人の絶望……?」

影の中から、かつての魔法少女たちが姿を現す。
彼女たちは、祈りの残滓を抱いたまま、
ゆっくりと黒い形に歪んでいく。

「ルナさま……どうか……わたしたちを……」

その声に、ルナは息を呑む。

ノクティスが囁いた。

「見ろ、彼女たちはまだ祈っている。
だがそれは、救いを求める祈りではない。
“神を縋(すが)り殺す”祈りだ。」

ルナの胸が痛んだ。
祈りを受けるたびに、
彼女の体に黒い線が走る。
それはまるで呪いのように、月の光を蝕んでいった。

「やめて……そんなの、わたし、望んでない……!」

彼女は叫ぶが、世界は応えない。
祈りを集めれば集めるほど、
彼女の中で“神”が“影”へと変わっていく。

やがて、ルナの背に六枚の黒い翼が生える。
その姿は、美しくも恐ろしい。

ノクティスが低く笑う。

「神は、祈りによって生まれ、祈りによって堕ちる。
おまえはその証明だ、ルナ。」

彼女はもう、否定できなかった。
涙を流しながら、
世界を照らす光を放つ。

だがその光は――黒かった。

黒い月が完全に満ちる。
そして、次の夜、
ルナは「月の代行者」ではなく、
「闇の主」として覚醒する。

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