第13話

夏祭り 【黒尾鉄朗】 3話
66
2026/04/06 11:43 更新



美琴「ほら、! あなた背筋伸ばして! 帯締めるよ!」



あなた「ふぐっ……! み、美琴、苦しい……っ」







美琴の部屋に集まった私たちは今、夏祭りに行くための「戦支度」の真っ最中だ。


室内は、広げられた色とりどりの浴衣に、ヘアアイロンの熱気、さらには制汗スプレーの香りが混ざり合い、独特の熱気に包まれている。








由希「あ゛ー! 髪型決まらない! 誰かこの後れ毛留めてーーー!!!」




杏子「あれ、私の巾着どこー? さっきそこに置いたのにー」




夏月「落ち着きなさいって。はい由希、ピン。杏子、あんたの巾着は鏡の前」





夏月が手際よくみんなをさばく横で、私は美琴に借りた大人っぽい紺色の浴衣に身を包んでいた。
鏡に映る自分は、いつもの制服姿とは別人みたいで、なんだか落ち着かない。





陽葵「あなたすっっっごく綺麗……!めちゃめちゃ大人っぽくて、モデルみたい!」





隣で淡い桃色の浴衣を着た陽葵が、目を輝かせて言ってくれる。
陽葵自身も、いつも以上にふわふわした雰囲気で、守ってあげたくなるような可愛さだ。





あなた「え?!ありがとう〜!陽葵こそ可愛いよ〜!!!」




あまりの愛らしさに、私は思わず彼女をぎゅっと抱きしめた。





あなた「.........湊くんが見たら倒れちゃうんじゃない?」




そう耳元で言うと




陽葵「えぇ!? そ、そんなこと…......っ///」



真っ赤になって震える陽葵。反応が相変わらず可愛いくて、ついからかいたくなってしまう。






美琴「ちょっと、もう!動かいちゃダメでしょ、結べないじゃない!」





美琴にピシャリと咎められ、じっとしてと言われてしまい、ピタッとTポースをしながら止まった。











美琴「............よし、完成!あなた、ちょっと立ってみて!」






言われるがままに立ち上がると、美琴が満足げに腕を組んで頷いた。

髪は綺麗にアップにまとめられ、うなじに触れる夕方の風が少しだけスースーする。







美琴「うん、完璧!......ふふっ、黒尾くん、これは見惚れちゃうんじゃなーい?」





あなた「っ!?っちょっと?!美琴まで変なこと言わないでよ! ……あ、そろそろ時間だ!」




スマホの画面を見ると、出発しないと間に合わない時間だ。
私たちは忘れ物がないか何度も確認して(主に杏子の忘れ物を夏月がチェックして)賑やかに美琴の家を飛び出した。





















由希「おーーーい! みんな、お待たせー!」




由希の弾んだ声に、スマホをいじっていた蓮や湊くん、翔太たちが一斉にこちらを振り返る。



その瞬間、まるで見えない壁にぶつかったみたいに、男子たちの動きがピタッと止まった。






由希「あれ?しんだ?おーい!あっ、もしかして〜________、」






翔太「うおっ!? !?全員浴衣じゃん!!!」



恭平「すげぇ、めっちゃ雰囲気変わるなー!めっちゃ別人みたいだわ」



蓮「おー、みんなおしゃれだな〜」





口々に騒ぎ出す男子たち。陽葵は湊くんに「すごい可愛い」と直球で言われて、今にもキャパオーバーで倒れそうになっている。







(ほおおおおお!!頑張れ!倒れるな、耐えろ陽葵ー!!!)







心の中で陽葵に応援を送っていると、少し離れたところで、黒尾くんが呆然と立ち尽くしているのが見えた。






黒尾「................」





いつもなら真っ先に茶化してくるはずの彼が、一言も発さず、ただ真っ直ぐに私を見つめている。






あなた「……あっ、ごめん待ったよね?..........って、く、黒尾くん? あれ、.......あっ、もしかして、変......?」





不安になって浴衣の袖をぎゅっと握りしめると、黒尾くんがハッとしたように瞬きをした。
彼は視線を泳がせながら、片手で後頭部をかく。







黒尾「……いや、…………すげぇ、かわ……」



あなた「.........っ!」







「かわ」……のその先。
期待と緊張で心臓が口から飛び出しそうになった、その時だった。







恭平「よっしゃ! 全員揃ったな! 黒尾、行くぞ!」




ガシッ!! と、背後からやってきた蓮
恭平くんが、黒尾くんの肩に腕を回して強引に歩き出させた。







黒尾「っ痛ってぇ、.......っておい!」




蓮「ほらほら、屋台混む前にリンゴ飴買いに行くぞー! 行くぞお前ら!」


恭平に引きずられるようにして人混みの中へ消えていく黒尾くんの背中。




私は呆然とその場に取り残された。












(……え? 今、なんて……?)







「かわ」……いい?





それとも「変わった」?






いや、あの顔は、絶対「可愛い」って言おうとしてたよね!?私の見たものが間違いじゃなければ!あれはもう!!!






(あーーーーー!! あと一文字! あと一文字だったのに……!! 最後まで聞きたかったぁぁぁぁ!!)






心の中で地団駄を踏みながら、私は悔しげ表彰を浮かべて走り出した。




















屋台がずらりと並ぶ賑やかな通り。香ばしいソースの匂いとお囃子の音に包まれながら、私たちは一際盛り上がっている射的屋の前に陣取った。






由希「いよし勝負だ男子諸君! 景品の数で負けた方が、後のリンゴ飴をおごるってのはどう!?」





由希が威勢よく宣言すると、蓮と恭平が不敵に笑う。





蓮「のった。バスケ部の動体視力、舐めんなよ?」



夏月「いや、動体視力あんま関係ないでしょ」




翔太「サッカー部の集中力も見せてやるぜ!」



美琴「頑張れ〜!!」








【射的バトル、開幕!】





杏子・由希 VS 蓮・翔太の、負けられない戦いが始まった。








由希「とりゃっ!!」



パシュッ、と虚しく空を切るコルク弾。





夏月「ちょっと由希、狙ってる方向と全然逆にいってんじゃん! 銃口が右に流れすぎ!」




由希「えぇー!? 狙ってるつもりなんだけどなー! .....っおっかし〜な、この銃曲がってるよ!」




夏月「銃のせいにしないの。ほら、脇締めて!」






迷走する由希とは対照的に、隣の杏子は完全に「スナイパー」の目になっていた。







杏子「……..........ふっ、見えた!!!」








パシュッ! ゴトッ。

パシュッ! ゴトッ。










「「「 おおおおお!!!!!! 」」」






陽葵「すごい!杏子!めちゃめちゃ無双してる....!」




杏子「ふっ、私の才能が開花してしまったようだ.....」




陽葵におだてられた杏子は右手を顔に当てる。





蓮「なんだか厨二病臭いな」



夏月「真面目にやれーーー」




恭平「な、なぬっ封印されしダークソリティアが放たれてしまったのかッ!!!」





蓮「............」





杏子と恭平が厨二病ごっこをしている間に
蓮くんが黙々と撃ち落としていく。










由希「あ゛ーー!!!杏子の馬鹿あ!!途中までは圧勝だったのにー!!!!」




杏子「いやぁ〜盛り上がっちましましたな」



翔太「ふっ、すまんな俺の蓮が」



蓮「お前も真面目にやれ」





そんなバトルの後ろで私は、少し離れたところで会話している湊くんと陽葵の姿を見逃さなかった。

「恋愛センサー」がビンビンに反応する。







湊「陽葵ちゃん。何か欲しいものある?」



陽葵「えっ?!……ええと……。うーん……あ!あの....あの隅っこの、白いインコの人形……とか? かな?」





恥ずかしそうに、でも一生懸命に指差す陽葵。




湊「わかった。ちょっと待ってて、取ってくる」




湊くんが少しだけ照れくさそうに、でも頼もしく微笑んで銃を構えた。








(……っっっ!! きゃああああああああ!! なに、今の!? なにその自然な『取ってくる』の流れ!!)





私の心の中は、もう打ち上げ花火が100発くらい上がったようなお祭り騒ぎだ。





(いい..........いいよ湊くん! その真っ直ぐな感じ!!!陽葵も頑張ったね......!!!私泣いちゃいそう!!ってか、これはもう……これはもう!今日中に付き合う確定演出じゃない!?)







あなた「ひゃ〜〜〜!!!」




ニマニマが止まらない。完全に自分のことを棚に上げて、親友の恋路の進展に悶えまくっていると、ふいに隣から声が降ってきた。






黒尾「よりさっきから足バタバタさせてますけど、何かいいことでもありました? ……...あー、もしかしてそのインコ、自分も欲しい感じ?」





黒尾くんが、手にしたラムネの瓶を軽く振りながら、ニヤニヤと私を覗き込んできた。







あなた「え……?....ち、違うよ!インコじゃなくて……あっ、今の流れ! 見た?!湊くんの『取ってくる』からの陽葵のあの顔! 見た!? あれはもう、今日中に何かが起きる確定演出でしょ……!」






興奮のあまり、近くにあった腕を掴んでブンブンと振ってしまう。










(きゃーーー!!!陽葵、本当におめでとう……!ほんと感無量だよ!!!!)





まだ正式には付き合ってはいないが、私の脳内ではお祝いのくす玉が割れ、何千人の私が涙を流しながら感動のスタンディングオベーションをしている。



















……ん?




ふと手元を見る
大きな手を握っている私の手..........








あなた「うわっ!!!……ごっ、ごめん! 違うの、!.....いや違わないんだけど........。ついテンション上がっちゃって……!」








弾かれたように手を離すと、一気に血の気が引いた後に、今度は顔が沸騰しそうなほど熱くなった。
あんなに力強く、しかも全力で黒尾くんの腕をブンブンと振り回してしまった自分。恥ずかしすぎて、今すぐ地面にめり込みたい。







(........やってしまった................、2人の恋路に夢中になりすぎたあまり........あぁ、消えたい.................)






慌てて謝罪する私を見て、黒尾くんは掴まれていた方の腕を軽く回しながら、相変わらずの飄々とした笑みを浮かべていた。





黒尾「……ククッ。元気があってよろしいですね〜」




あなた「…....!っ、//....笑わないでよ、!」



黒尾「いやぁ、あんまりにも必死だったもんで。……そんなに今の、ヤバかった?」




そう言いながら、黒尾くんが少し腰を落として、横から私の顔を覗き込むように覗いてきた。提灯のオレンジ色の光が彼の瞳に反射して、いつもの意地悪そうな、でもどこか優しい視線と至近距離でぶつかる。





あなた「……っ、//....うん」



心臓が跳ねて、思わず一歩後ずさる。
見られただけで、一瞬で自分の余裕がゼロになる。









黒尾「…….で?」




黒尾くんはニヤリと口角を上げると、顎で射的の棚をしゃくった。






黒尾「…...あなたは、何か欲しいものないんです?」





あなた「え……?」




黒尾「ほら、インコでも何でも。」







そう言い、屋台の方を指さす。








あなた「え!?........えっ、っとー....、」






私は慌てて射的台の棚に並ぶ景品をじっと見つめた。



おもちゃの指輪や小さな箱が並ぶ中、二段目の隅っこに、一匹の黒猫のぬいぐるみが座っていた。












(……あっ)





少し目つきが鋭くて、頭の毛がぴょこんとハネている猫のぬいぐるみ。











(……誰かさんに、そっくりだな〜、)





あまりに隣の本人に似ていて、私は無意識にその猫を指差していた。









あなた「……あの、黒い猫のやつがいいな....!」




黒尾「猫? ああ、あれね。……了解。ちょっと待ってろ.......」







黒尾くんはラムネの瓶を置くと、ひょいと手慣れた様子でコルク銃を手に取った。
さっきまで面白がるように笑っていた顔が、すっと真剣なものに変わる。










パシュッ








乾いた音が響いた瞬間、コルク弾は真っ直ぐに猫の眉間を捉えた。


ぬいぐるみはふわりと宙を舞って、一発で手前のネットに落ちる。











蓮「うおっ、マジかよ!」



翔太「すげぇ、一発!? 」



恭平「エグい!!!杏子より上手いんじゃねぇ?」



杏子「んな!!!?」








男子たちが「おぉー!」と騒ぐ中、黒尾くんは店主から猫を受け取ると、そのまま私に差し出してきた。








黒尾「どーぞ」




あなた「!あっ、ありがとう……! すごい!一発でで取るなんて……!!」





黒尾くんから貰った猫は思ったよりふわふわで、抱きしめると少しだけ彼の匂いがした気がして、また顔が熱くなる。





その直後、翔太たちに「なぁ!次あっちの屋台行こうぜ!」と肩を叩かれ、黒尾くんが少し離れたところに行った瞬間。
ずっと後ろでニヤニヤしながら見ていた女子たちが、一気に私を囲んだ。









由希「きゃあぁぁああーーーー!!あなた、見た!? 今の見た!?」



杏子「あやつやりよる......。あなたのハートも撃ち抜きやがった........」




夏月「しかもあなた。その猫、完全に黒尾くんに寄せて選んだでしょ。……愛だねぇ」





美琴「ふふ、よかったね〜あなた!....あなたのために取ったってことは.....」



あなた「ちょ、ちょっと! みんな声が大きいってば……っ!」






必死にみんなをなだめるけど、ニヤニヤした視線は止まらない。
抱きしめた猫のぬいぐるみの感触が、今の私の心臓のバクバクを全部吸い取ってしまいそうだった。























「「「 じゃんけん……ぽん! 」」」






一斉に突き出された手。その瞬間、私の視界には無情な「パー」の群れと、私たちが出した「グー」が映り込んだ。





あなた「……負けた」



陽葵「私も負けちゃった〜、」



恭平「くそぉ〜......。......んじゃ行ってくるわ!」







由希「あなた、陽葵〜! 頼んだぞー!」



杏子「たこ焼き! たこ焼き忘れるなよーーーー! 舟盛りで!!!」



翔太「お前らに託したぞーーー!!!!」







「はいはーい!」と手を振り返し、私たちは人混みの奥へと歩き出した。









あなた「.........ふふふ」





(本当は、黒尾くんと一緒に回りたかったんだけど、でもこれはこれで.....)






前を歩く二人を見るとそこには、人混みでぶつからないように陽葵を内側へ誘導しながら、穏やかに笑い合っている湊くんと陽葵の姿があった。








陽葵「〜、!」





陽葵も、さっきまでのガチガチな緊張が少し解けたのか、楽しそうに湊くんの顔を見上げている。








(……ふぅ〜! !二人の世界、出来上がっちゃってるねぇ。これは邪魔しちゃ悪いわー!)







あなた「ふふっ」






恭平「たこ焼きってどこだー? あっちか? ……あ、あそこにデカい提灯出てるぞ! ......なぁ、湊ーあれたこ焼き屋だよなー?」





一方、隣を歩く恭平は、ロマンチックの「ロ」の字もなく、野生の勘だけで屋台を探し回っていた。







恭平「.........あなた、おーい。早くしないと杏子に怒鳴られるぞーー」




あなた「ハッ、!分かってるよーーちょっと恭平、歩くの早いってば!」





私は3人の背中を追いかけた。



















「ほーい、たこ焼き3個。暑いから気をつけろよ〜」



「ありがとうございまーす」





おじちゃんからたこ焼きを受け取る。

袋からソースの香りがぶわっと広がり、お腹がすいていく。片方からはリンゴ飴の甘い匂い。
両手にずっしりと買い出しの品を抱えて、私たちは人混みをかき分けながら歩き出す。







(……よし。今だ。今しかない……!)



私は機を逃さず、隣を歩く恭平の肩を指先でツンツンと叩いた。





恭平「ん? どしたあなた?あ!たこ焼きつまみ食いすんなよ?」



あなた「しないってば! ……ちょっと耳貸して!」




私は恭平をぐいっと引き寄せると、湊くんと陽葵に聞こえないように、ごく小さな声で耳打ちした。






あなた「……ねぇ。ここから先、二人をわざと先に行かせて。その後ゆっくり行かない?




恭平「は〜?なんでだよー。杏子たちが大きな胃を空かせて待ってんだろー?」





あなた「……そうだけど、..........いいから!二人をくっつけるため。以上!」





それ以上言うと、湊くんが好きだということが広まることを好まないであろう陽葵のため、私はあえて言葉を切り上げた。
杏子たちも陽葵のためだと言ったらきっと仕方あるまいと言ってくれるはずだ。ごめん皆!(特にお腹を空かせていた杏子!由希!)





恭平「……? なるほど?....んまぁよくわかんねーけど、作戦なら協力するぜ!」



分かっているのかいないのか、恭平は「合点承知!」と言わんばかりに親指を立てた。


この単純さが、今はありがたい。





恭平「おーい! 湊、陽葵ちゃん! 俺らちょっと忘れ物思い出したから先行っててくれ! 蓮たちのとこで合流な!」







湊「え? 忘れ物? ……一緒に探そうか?」



陽葵「え?大丈夫.......?一緒に探すよ?」







(おぉーーー!2人とも言ってることほぼ一緒〜!相思相愛的じゃんー!!)






あなた「大丈夫大丈夫! すぐ追いかけるから、冷めないうちにたこ焼き届けてあげて! はい、行って!」






私は陽葵の背中を、湊くんの方へ向かってグイッと一押しした。




「あっ……」と小さく声を上げた陽葵の隣に、自然と湊くんが並ぶ。人混みの中で二人がはぐれないよう、湊くんがそっと陽葵の側に寄るのが見えた。







(……ナイス、私……!)







遠ざかっていく二人の後ろ姿を、私は満足感たっぷりに見守る。











恭平「……で、忘れ物って何なんだ?」



あなた「恭平が言ったんでしょ。……ほら、私たちも行くよ!ゆっくりでね!」

























恭平「........もういいよな!んじゃ、俺、冷めないうちにこれ蓮たちに届けてくるわ! 先行ってるぞ!」





作戦実行後からじばらく経ったあと恭平が、私の持った袋を受け取り、人混みの間を縫うように走り去っていった。
きっとゆっくり歩いていたのがムズムズしていたのだろう。動いてないと死ぬと言われているマグロみたいだなぁ....。






あなた「え?!ちょっと! 走ると危ないって!」





呼びかける声も虚しく、彼の背中はあっという間に人波に消えてしまう。













あなた「先に行っちゃった.........」





一人取り残された私は、黒猫のぬいぐるみを抱きしめたまま、ゆっくりと屋台の並ぶ通りを歩き出した。












(陽葵と湊くん、今頃いい感じになってるといいな)







友達の恋路を支えることができた満足感と、ほんの少しの心細さで心がギュッとなる。













提灯の明かりに照らされた石畳を見つめながら歩いていると、ふいに前方から、聞き慣れた足音が近づいてきた。









「お、居た居た」





人混みの向こうから聞き慣れた声がして顔を上げると、そこには少し心配そうに眉を下げた黒尾くんが立っていた。
彼は私を見つけると、ホッとしたようにふっと表情を緩めて、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。







あなた「んぇ?!黒尾くん……?!.....どうしてここに?」





黒尾「あまりに遅いから、迷子にでもなったかと思いまして」





いつもの飄々とした感じでそう言う。
たしかに買い出しに向かってから軽く30分は経ってるかも..........、






あなた「うわ、ごめん!遅くなっちゃって、!....杏子たち怒ってるかもな、





黒尾「.....そういえば、他の奴らは?」






黒尾くんは首を左右に動かして辺りを見回す。





あなた「あー、えっとね、湊くんと陽葵は先に行かせて......、恭平はさっき、たこ焼き届けに走ってっちゃったんだよね」






そう答えて、私は恭平の向かった方向を指さす。






黒尾「…...恭平あいつ、.........会えたわけだし、俺らも蓮たちの所まで行くか」




あなた「えっ、あ..........」






黒尾くんが前を見据えて、ゆっくりと歩き出す。その後ろ姿を見つめながら、胸の奥がキュッとなった。










(……もう少しだけ。あと数分でいいから、こうして二人で歩いていたい)





そんな欲が、ふいに出てしまった。







あなた「あの……っ!__________、うわっ!」




呼び止めて、何を言おうとしたのか。
その瞬間、横から走ってきた男の子と肩がぶつかり、私の浴衣に冷たい感触が走った。









「あわわっ、ごめんなさい!.......こらっ!前見て走りなさいって言ったでしょ! すみません、大丈夫ですか……!?」





お母さんが慌てて駆け寄り、何度も頭を下げる。
かき氷の鮮やかなシロップが、美琴が選んでくれた紺色の浴衣にべったりと付いていた。







あなた「いえ、大丈夫ですから! 気にしないでください。……はい、大丈夫です、!」




精一杯の笑顔で対応して、ようやく親子が去った後。
ふと隣を見ると、そこにいたはずの黒尾くんの姿がなかった。












あなた「あれ........?」










(……黒尾くん、どこ......?)






人混みはさっきよりずっと増えていて、波に押されるように体が流される。
パニックになりそうな心を落ち着かせようと、私は這い上がるように近くの小さな公園へ移動した。
























あなた「お願い.....出て、!」




街灯の下、ベンチに座って震える手でスマホを取り出す。







美琴、由希、夏月……誰でもいい。


私の願いは届かず、回線が混み合っているのか、それともギガが足りないのか、一向に繋がらない。




黒尾くんの番号も呼び出し音すら鳴らずに切れてしまう。













(……欲を出したからだ)







一緒にいたいなんて、柄にもないことを思ったから。

バチが当たったんだ。






私は自販機で買ったペットボトルの水でハンカチを濡らし、必死に浴衣のシミを叩いた。









あなた「落ちて……お願い、落ちてよ……、」





美琴が私に似合うって、一生懸命選んでくれた浴衣なのに。

汚しちゃうなんて、最低だ。





視界がじわじわと滲んでくる。

慌てて上を向いて、必死に涙を堪えた。






(……駄目。メイクもしてもらったんだ。これ以上、惨めになりたくない)







ドーン、と遠くで大きな音が響いた。
打ち上げ花火が始まったんだ。




楽しそうな喧騒が遠くから聞こえてくる公園で、私はたった一人、ぽつんと座っていた。











(恭平が荷物、全部持ってってくれててよかった。私が持ってたら、みんなに届けられなかったし……)




せめてもの救いを探そうとするけど、虚しさが募る。












今頃、陽葵と湊くんは二人で綺麗な空を見上げているんだろうな。













(……いつも、こうだな)






友達の恋愛を応援するのは得意で、嬉しいことにみんな幸せになっていく。
なのに、自分のことになると、途端に全部が上手くいかなくなる。







(私の恋愛より、友達の幸せの方が大切だから……これでいいんだ。これで…….......、)







そう自分に言い聞かせるほど、膝の上でぎゅっと握りしめたハンカチが、じっとりと冷たく感じられた。



























あなた「…….戻ろ」





湿ったハンカチを握りしめたまま、私は重い腰を上げた。
いつまでもここで一人で泣きそうになっていても、シミは消えないし、せっかくみんなで来たお祭りの時間を無駄にしてしまう。









あなた「..........」






立ち上がったはずみで視線を落とすと、全然消えないシミが視界に入った。









あなた「美琴、本当にごめんね................」







申し訳なさでいっぱいになってまた涙が込み上げてくる。


........でも、このままここで立ち止まるわけにはいかない。







あなた「よし……!」




気合を入れ直して、公園の入り口に向かって一歩踏み出した、その時。











「_________あなた!」







聞き慣れた、少し息の切れた声が背後から降ってきた。









あなた「……えっ?」






心臓が跳ねて振り返ると、そこには肩を上下させて、乱れた髪のまま立ち尽くす黒尾くんの姿があった。手には、コンビニの袋があった。





彼は私を見つけると、手に持っていたスマホを耳に当て、誰かと話し始めた。








黒尾「……あー、いたわ。……あぁ、大丈夫。後で合流する、じゃあな






ぶつりと通話を切り、彼は先ほどよりさらに早歩きでこちらへ向かってくる。
その足取りの速さに、彼がどれだけ焦って私を探していたのかが伝わってきて、胸の奥がツンとした。










あなた「黒尾、くん……? なんで……、ここが」







黒尾「一番人がいない所がここだったから.....ハァ....ハァ、.....人混みから逃げるとしたら、ここしかないと思いまして........あと、それじゃ落ちないでしょ」




彼は私の持っているハンカチを見ると、隣まで歩み寄り、袋の中からシミ抜きシートを取り出し、私の前に膝をついた。






あなた「.......え?」





それを見て驚いて固まる私なんてお構いなしに、真剣な目つきで浴衣の裾に付いたシロップの跡をシートで丁寧に叩き始める。









あなた「?!あ、あの!自分でやるよ?!ごめんね....、!」




黒尾「いや、............、俺があの時、庇えなかったから汚れた訳ですし、やらせてくださいな」




あなた「えっ、......あ、....ありがとう......」






そう言われたため、手持ち無沙汰になった私は、ただ黙って彼の頭頂部を見つめていた。

















(……なんで。なんで、こんなに優しくしてくれるんだろ)





ただのクラスメイト。......よくて友達.........のはずなのに。なのにわざわざあんな人混みをかき分けて、私一人のために走り回って、挙句の果てには、こうして地面に膝をついてまで私の汚れを拭ってくれている。








............いや、私のためではなく、みんなのためか、



私が迷子になったから、みんなが心配すると思ったから。だからこうして来てくれた。










そうだとしても申し訳なさすぎる……走って探してくれただけでなく、シートを買って貰っちゃってるし.......それに拭かせてもらっちゃってるなんて.........
それに、さっき言ってた、俺のせいで....ってあれは明らかに見てたとしても防げなかったし、前をちゃんと見てなかった私が悪いのだ。










あなた「.........」





こんなにしてくれる理由が分からない。それどころか、自分の情けなさが際立って、どんどん胸がいっぱいになっていく。
彼の優しさに甘えていいはずがないのに、その温もりが心細かった心に染み渡って、堪えていた感情が決壊しそうになる。








黒尾「……急に居なくなってごめんな」





ぽつりと、彼が呟いた。





あなた「.....え、?あ、……いや! 全然……大丈夫だよ、!」




平気なふりをして答えようとしたけれど、鼻の奥がツンとし、抑えてた感情が溢れて、一気に視界が急に歪んだ。









(……あ、もうだめだ.........)












あなた「.....ングッ、.....ふっ、......







黒尾くんが立ち上がり、私の顔を覗き込んだ瞬間、彼は目を見開いて「……え?」と声を漏らした。









黒尾「……...ちょ、え? …… あなた?....っ、 ごめんな....そんなに不安にさせて......悪かった、ほんと……」




いつも余裕たっぷりな彼が、見たこともないくらい慌てて、ポケットから清潔なハンカチを差し出してくる。その戸惑った、けれど真っ直ぐな心配の眼差しが、余計に涙を誘った。








あなた「……っ、ふ……っ。ちがう、の……っ」






黒尾くんの差し出しが、目元の涙をそっと吸い取っていく。その仕草があまりに優しくて、私は俯いたまま消え入りそうな声で溢してしまった。






あなた「……ごめ、んね........。私に付き合わせちゃったから……お祭り、全然楽しめなかったよね……。美琴たちが私のために選んでくれた浴衣なのに、汚しちゃったし……っ、黒尾くんとの、せっかくの時間だったのに……はぁ、私、黒尾くんの前では……もっと、可愛くいたかったのに……..............あっ....、」





ハッとして、慌てて両手を振って否定する。







あなた「あ、えっと…...、!..ズビッ........い、今のは、その! 違うの、......!わ、忘れて……!」





慌てて顔を隠そうとあたふたする私。
けれど、目の前の黒尾くんは、ピタッと動きを止めてフリーズしていた。








あなた「えっ、とー..……黒尾、くん……?」





あまりの無反応に、嫌われたんじゃないかと不安が押し寄せる。すると黒尾くんがハンカチを引いて、私の目をじっと覗き込んできた。







黒尾「……...えっと、あの、それって....もしかしてですけど...。いや、違ってたら本当に申し訳ないんだけど..........俺のこと........」








あなた「……っ!!」




何を言おうとしているのか気づいた瞬間、顔をがボッと熱くなる。赤くなりすぎた顔といい、先程の発言が恥ずかしすぎたあまり顔を手で覆う。





(……やばい!!!!ちゃんと告白もできずにバレた。せめてもっと可愛い状態で言いたかったのに! 困らせたよね..........どうしよう、このあと絶対気まずくなる、なんでポロッと言っちゃうかな???ほんと馬鹿なの????!)





脳内でドタバタと悶絶している私を見て、黒尾くんはふいに「え?」と声を漏らした。
すると、彼はガクッとその場にしゃがみ込み、片手で顔を覆って耳まで真っ赤に染めている。








黒尾「……まじか






何かを呟いているけれど、小さすぎて聞こえない。ただ、彼も見たことがないくらい動揺しているのが分かって、胸の鼓動が耳の奥まで響いてくる。








黒尾「……はぁーーー……」




彼は一つ、天を仰ぐように大きなため息をつくと、ゆっくりと立ち上がった。
そして、私の目を真っ直ぐに見据える。












黒尾「……先に言われるとはね、笑」




彼は自嘲気味に、でもどこか嬉そうに軽く笑って顔を上げた。










(……先に言われた?)





どういうことかと混乱する中、私は指の隙間から恐る恐る彼を見つめる。
すると彼は片膝をついて、私を優しく見上げるような姿勢をとった。

私は顔を覆っていた手を少しだけ離し、震える指先を口元あたりまで持っていく。













黒尾「俺も、あなたのことが好きです。......その、....付き合ってくれませんか?」





穏やかな、けれど芯の通った声で、そう言った。











あなた「……………….......エ?」





頭が真っ白になった。
あまりの衝撃に、声が上擦る。








あなた「..........え、.......ま、待って?き、聞き間違い? .......それとも、人違い……?」





黒尾「幻聴じゃないし、人違いでもないですよ」





あなた「え、でも……だって……黒尾くんが、私を……? うそ……、信じられない……。からかってるとかじゃなくて、いやそんなことしないか...........」






黒尾「……っ、ククッ」






それまでの緊張した面持ちが嘘のように、吹き出すように短く笑った。






あなた「……わ、笑わないでよー......こっちは心臓止まりそうなのに……」




黒尾「こっちも心臓バクバクですけど?」





彼は片膝をついたまま、いつもの飄々とし少しだけ目を細めて私を見上げる。







あなた「え.....?」





黒尾「そんなに信じられないなら......」







と言い私の手を優しく掴むと自分の胸に当てた。ドッドッドッと強く脈打っていた。







あなた「わぁあああ!!!!」





あまりにダイレクトに伝わってきた彼の鼓動の速さと力強さに、私は弾かれたように手を引っこめた。





黒尾「……そんな全力で拒否らなくても、」






黒尾くんは空いた自分の手を所在なさげに動かすと、少しだけバツが悪そうに私を見上げた。いつもの食えない笑みは影を潜め、そこには余裕なんてこれっぽっちも残っていないかった。







黒尾「……まぁ、これで嘘じゃないって分かっていただけました?」





あなた「……わ、わかった。わかった!....だから、そ、そんな急に近づいてこないで〜.......、




顔を伏せ、両手で頬を押さえながら消え入りそうな声で答える。前方から服が擦れる音が聞こえた。







黒尾「.......それで、お返事を伺ってもよろしいでしょうか?」




ちらっと見てみると、小さく微笑んだ黒尾くんがいた。私は、いつもと違う黒尾くんの様子を見てようやく、本当の本当に。夢じゃないんだと確信した。





あなた「…………よ、よろしく、お願いします……////



私は俯いたまま、絞り出すように伝えた。






















その後、私たちは近くのベンチに並んで座った。

体がふわふわと浮いているみたいで、隣にいる彼の存在が、現実のものとは思えない。






黒尾「……すごいボーッとしてますけど________、」



あなた「うわっ、はい! ......だ、大丈夫です!」




黒尾くんがなにか言い切る前に返事をしてしまう。話しかけられるたび、こんな感じで過敏に反応してしまう。












あなた「……あの、何度も聞いて申し訳ないんだけど.....。聞き間違いじゃないよね? 私の幻聴だったら、どうしよう……」




黒尾「幻聴じゃなくて、本当ですよ〜。........そうだな...。......今度は抱きしめてみます?そうしたらさっきより_______、」





そう言い隣で両手を軽く広げる。





あなた「だ、抱きしめっ.......!?....む、無理!近すぎて死んじゃう........





私は頭を抱えて、膝の間に顔を埋めてしまった。頭上から短い笑い声が聞こえてくる。



















ドーン!!!










しばらくして、空に一際大きな音が響いた。
黒尾くんが立ち上がり、私にそっと手を差し出す。





黒尾「……折角ですし、一緒に花火、見に行きません?」








私が顔を上げると、立ち上がった彼の背後で、木々の隙間から夜空を彩る大輪の華が咲き誇っていた。


深い夜の青を背景に、黄金の火花が幾筋も枝垂れ落ち、その淡い光が彼の輪郭を優しく縁取っている。







あなた「……うん、!」




震える手で差し出された大きな手に置くと、離すことなく、優しく包み込んでくれた。
重なり合う手のひらの熱が、この瞬間のすべてが本当なのだと教えてくれる。




遠くで上がる花火の光に照らされて、私たちは夜の静寂の中、ゆっくりと歩き出した。






















二人の指が絡み合ったまま、私たちはゆっくりとみんなの待つ待ち合わせ場所へと向かった。
遠くからでも、夏月や美琴たちがソワソワと辺りを見渡しているのが見える。







夏月「あなた! 黒尾くんー!!」





真っ先に気づいた夏月が、駆け寄ってきて安堵の溜息をついた。






夏月「もう、どこ行ってたの!? 黒尾くんから連絡が来たからまだ良かったけど……本当に心配したんだから______________え?」



由希「そうだよ、全然戻ってこないからー!いやでも良かった黒尾くんが見つけてくれ.................て」




口々に心配してくれるみんなの言葉が胸に刺さる。けれど、ふと夏月と由希の視線が泳ぎ、私と黒尾くんの繋がれた手に止まった。










夏月「……って、えっ!? ちょっと、何その手!?」











あっ.........





その声に反応して、美琴や杏子も一斉に視線を下げる。














「 「 「 ええええっ!?!?!? 」 」 」












夜の広場に、女子たちの絶叫に近い驚きが響き渡った。








美琴「ちょっと待って、どういうこと!? 二人、いつの間に!?」




美琴が近づいて抱きしめてきたため、私は黒尾くんの手を離す。あちらも男子軍団に囲まれている。






あなた「あ、えっと、その……! あ、そうだ美琴! ごめんね、せっかく選んでくれた浴衣、かき氷で汚しちゃって……。すぐにクリーニングに出して返すから!」




美琴は少し驚いた目で見つめた後、ふいっと表情を緩めて私をぎゅっと抱きしめた。






美琴「……そんなのいいよ!.....もう! 本当に.........心配したんだから!......でも、ふふっ。まさか私たちがいない間に、そんなことが起こってたなんてね〜.......」




杏子「これで黒尾くんの彼女ですな〜〜」




ニヤニヤと笑いながら冷やかしてくる女子たちに、私は顔から火が出そうなほど真っ赤になる。


黒尾くんの方を見ると、彼は男子たちに「ひゅ〜! 黒尾やるじゃん!」「お前もついにリア充かよ〜」と囃し立てられていた。



















帰り道、少し落ち着いた私たちは、集団の後ろを二人で並んで歩いていた。
いつもよりも近い距離に心臓は未だにバックバクだ。










(……夢じゃないんだよね、本当に)




幸せを噛み締めながら前を歩く仲間たちの背中を眺めていると、ふと、ある二人の姿が目に留まった。













あっ!!!!!




少し前を歩く陽葵と湊くん。人混みに紛れるようにして、二人の手が……ぎこちなく、でもしっかりと繋がれている。








あなた(きゃあああああ!!!ついに......ついに!!!付き合ったんだね〜......!!!....ふふふ。これは後日事情聴取しないとね〜)








「おめでとう!!!!!」と今すぐ叫びだしたい気持ちを必死に抑えて、私は隣の黒尾くんをそっと見上げる。





こちらの視線に気づいたのか、「何か?」とでも言うように、片方の眉をひょいと上げた。









黒尾「ん?」





その目は私から目の前のふたりの方へ移動する。











黒尾「..........あー.....。俺たちも、繋ぎます?」





あなた「__________っ!?!? ////」






心臓が跳ね上がり、顔が「ポンッ」と音を立てそうなほど真っ赤になる。




あなた「え、えっと、その……..................ハ、ハイ……っ。お願いします……っ////」




しどろもどろになりながら、震える手をごく自然に差し出す。そっと手のひらを重ねるだけのつもりだったのに、次の瞬間、長い指が私の指の間にぐいっと入り込んできた。






あなた「……へ? 」







絡められた指先。手のひらがぴったりと密着する、確かな「恋人繋ぎ」。
驚いて彼を見上げると、黒尾くんは少しだけ耳を赤くしながらも、前を見据えて飄々と歩き出した。








少し先では、杏子が「お腹空いたーー!!!」と夜空に響くような声で叫び、翔太くんが「……あんだけ食ったのに?!?!」と素で戦慄している。


由希や蓮たちもそれに混ざって、「次何食べる?」「お前、まだ食うのかよ! 底なし沼か!」「焼きそばの匂いが俺を呼んでるんだって!」なんて笑いながら、みんなで夜の縁日を賑やかに練り歩く。



恭平「あ、チョコバナナ!食べてなかったわ!蓮、奢れよ!」


蓮「なんでだよ! 自分で買え!」






大好きな友達たちのそんな騒がしい声が遠くに聞こえる中で、繋いだ手から伝わる確かな熱が、私の世界を優しく、強く照らしてくれている。










二人の歩幅が重なるたびに、言いようのない幸せが身体中に広がっていった。
すると、黒尾くんがふいにもう一段、私の方へ顔を寄せた。






黒尾「……そういえば会った時、恭平に邪魔されて言えなかったんだけど」



あなた「え……?」





あの時って..........あぁ、あのことか!



数時間前の光景を思い出す。







黒尾「可愛すぎやしません?」




一瞬、思考が止まった。
「え……?」と間抜けな声が漏れる。



すると、彼は口角をスッと上げて、いつもの余裕たっぷりな笑みを浮かべながら、逃がさないと言わんばかりに繋いだ手に力を込めた。






黒尾「その大人っぽい紺色の浴衣もそうだし、.....まつ毛のキラキラしたやつとか、絶妙な色のリップとかさ」






彼は至近距離で私の顔を覗き込み、細かな変化を一つずつ拾い上げるように囁く。






黒尾「髪の編み込みの感じも、その赤い髪飾りとか........。いつも下ろしてるから見えなかったうなじも.....」





あなた「ひゃっ....!?///」





急に長い指が首にサラッと当たり、ビクッとしてしまう。






あなた「っっ!!?? ////」




黒尾「……というか、もう全部。もうほんと可愛いにも程があります」






繋いだ手から伝わる彼の鼓動が、一気に跳ね上がったのが分かった。その様子に私までもが伝染していく。







あなた「……......うぇぇ〜、//.....それ、今、言う〜...?」






顔をこれ以上ないほど真っ赤にして、私は繋いでいない方の手で熱い頬を必死に押さえた。

黒尾くんは「ククッ、」と喉を鳴らして、少しだけ意地悪に、けどいつも以上に優しい目をしていた。








大好きな仲間たちの賑やかな声が夜の空気に溶けていく中で、私たちの手は、もう二度と離れないほど強く、優しく結ばれていた。
















    

想像以上に第3話が長くなってしまいました…!
完全に自己満足の内容になってしまいましたが
やっぱり恋愛は切なければ切ないほど
最後に報われる瞬間がたまらなく大好きです。

上手くいかない恋愛ほどいいものはないですし
それが学生特有の甘酸っぱい距離感であったら
なお良し!もはや主食にしたいくらいです。

ここに五大栄養素がすべて詰まっていると
言っても過言ではありません (※諸説あり)


ここまで読んで下さりありがとうございました🍀

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