※ワンクッション!
入浴シーンがあります。
翌日セナが目を覚ますと、枕元には昨日冥霊に貸したブランケットと木の実が幾つか置かれていた。
何ともメルヘンチックな出来事に朝から遭遇したセナ。それを目撃した先輩たちにからかわれることになったが、昨日と比べて互いに親しみを持てるようになっているように感じた。仲間意識が芽生えたのはいいことだ。
目を覚ましてから移動するまでは、世話になった老人のために家事を手伝ったりして過ごした。外で薪割りをしていると、男女の二人組が村に姿を現した。
その話には強い既視感を覚えた。冥霊がこの村に来るのは初めてではなく、老人が冥霊を恐れなかったのは幼い頃から知っていたが故だったと。二人の態度を見て感じたものの正体をセナたちはようやく理解した。
村人は特に冥霊を恐れているわけでもなく、ひょっこり姿を現す野良猫のような感覚で話していた。
戦場を渡り歩く義勇兵。何を目的にそうしているのかは不明だが、戦場がなくなればどう生きていくのだろうか。この村に戻り余生を過ごすか、あるいはその霊皇に召し上げられるのか。
見知らぬ訳ありすら受け入れているこの村は、友好的であると判断して間違いなさそうだ。薪割り、水汲みも終えて外で一休みしていると一匹の飛竜が降り立った。
その背中から降りて姿を見せたのは相変わらず血まみれの冥霊だった。飛竜には鞍が付けられており、人が乗れるようになっている。飛べるかどうかは別として。
そんな驚きが脳裏に過ぎったが、すぐに掻き消える。
乱雑に鼻血を拭い、痛がる素振りもせず、顔色一つ変えない冥霊は村長の家の中に入っていく。
勝手知ったる、といった様子で冥霊はさっさと物を準備して再び外に出てきた。
その言葉に冥霊は不思議そうに首を傾げた。温泉には先に冥霊とセナが向かい、二人が戻ってから他のメンバーが入れ替わりで向かうことになった。
知らない相手に背負われることに慣れていないのか、冥霊は酷く緊張していた。背負われ慣れていない様子からありありと感じ取れる。
内臓入ってんのかな、と思わず声に出してツッコんでしまうほど、冥霊は軽かった。
冥霊の話によれば三十分ほど歩けば着くそうだ。だが、怪我人にはあまりに遠い距離だろう。
温泉までの道のりはそう険しいものでもなく、時たまに野生動物を目撃しながら散歩のような感覚でたどり着いた。そこだけ岩で囲んだような造りになっており、隙間を抜けると秘湯が目に飛び込んできた。
動物たちもここを利用しているらしい。すでに先客がいたが、彼らはこちらに視線を向けるだけで威嚇することはなかった。
セナは冥霊を地面に降ろし、持ってきた物を平たい岩の上に乗せる。
背を向けて話をしていたセナの思考が停止する。
何かの聞き間違いかもしれない。一応確認しておかねば、とセナは聞き返す。
思わず振り返って──セナは両手で顔を覆うと女子のような悲鳴を上げる。
容姿のあらゆる部分が性別を誤認させてくる。お前のような男がいるか!とツッコむ余裕すらないセナ。
ちょっと自信ありげに感じるのは気のせいだろうか。セナが悶絶している間に冥霊は温泉から上がり、体を拭く。
名前を呼ばれたことで我に返ったセナは、一緒に持ってきていた薬を冥霊に渡そうと視線を向ける。ひゅっと呼吸が詰まった。
白い肌に刻まれた、おびただしい数の傷痕。打撲痕や火傷の痕、引きつった切り傷の痕。新しいのから古いもの、命に関わるような場所にまで痕が残っている。それに加えて、見たこともない紋様まで。
この時自身がどのような表情をしていたかは分からないが、きっと酷い顔をしていただろう。
冥霊はセナが持っていた薬をそっと奪い、慣れた手付きで傷の手当てを行う。セナが衝撃から立ち直ったのは、冥霊が身支度を済ませて帰る用意が出来た頃だった。
戻ったセナは今後の予定について隊長たちと話し合っていた。本人は大丈夫だと言うが、セナが見た限りとてもそうとは思えない具合だったのだ。
冥霊もまたそうなんだろうか、と一同に同じ考えがよぎる。暗殺者でないにしろ、そう躾られたのでは、と。
渦中の人物の声がして、一同は揃って飛び上がり視線を向けた。まさかそこまで驚かれると思っていなかったのか、冥霊も瞳を丸くしている。
冥霊の頼み事には、皆協力する気満々のようだ。その様子を見た冥霊はほんの少しだけ口角を上げた。
まるで太陽を見上げる無邪気な子供のような表情に目を奪われる。同時に違和感を覚えた。具体的にはまだ分からないが。
協力が得られると分かった冥霊は話したいことを話して再び姿を消した。
先輩二人は胸元を握りしめて呻き声をあげる。効果は抜群だったようだ。
ニコ……と希望を打ち砕くように、困っているのかいないのか微妙な笑みを浮かべてセナは告げる。
ばったりと横に倒れた先輩が真剣な顔で言い放つ。
先輩方による、魂の慟哭。よほど青春に恵まれなかったのだろうか。
いわゆる少しかっこいい平凡顔、と言ったところだろうか。
一度出てしまえば止まらない不満。隊長は隊長でそんな会話を懐かしいなぁと言ったふうな表情で見守っていた。歳は違えど、修学旅行に来た男子生徒並みの結束力が生まれた瞬間であった。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。