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第3話

温泉
12
2025/03/11 15:03 更新
※ワンクッション!

入浴シーンがあります。
翌日セナが目を覚ますと、枕元には昨日冥霊に貸したブランケットと木の実が幾つか置かれていた。
セナ・フォルティニス
セナ・フォルティニス
(妖精か何かかな?)
何ともメルヘンチックな出来事に朝から遭遇したセナ。それを目撃した先輩たちにからかわれることになったが、昨日と比べて互いに親しみを持てるようになっているように感じた。仲間意識が芽生えたのはいいことだ。
目を覚ましてから移動するまでは、世話になった老人のために家事を手伝ったりして過ごした。外で薪割りをしていると、男女の二人組が村に姿を現した。
村人
こんにちは
村人
見慣れない顔だな
ドルクル・イータ
初めまして。もしかしてこの村に住んでいた方でしょうか?
村人
ああ、あそこの家に住んでたんだ。戦が近いってんでこの村の奴は村長以外逃げたんだよ
セナ・フォルティニス
セナ・フォルティニス
村長……あのおじいさんが村長だったのか
村人
村長には家族もいないし、俺たちだけでも逃げろってさ……。けどあんたたちがこうして居るってことは、あの人守られたんだろう?
ドルクル・イータ
えっと、また……というのは?
村人
冥霊さ。冥霊は村長がどこかから拾ってきた子供で、しばらくの間この村にいたんだ。拾われた時は全身傷だらけで、明らかに暴力を振るわれたような痕もあったよ
村人
冥霊ちゃん、同じ子供に対しては警戒心があってね。いつも村長の手伝いをしながらひとりぼっちだったの。それがある日突然姿を消して……
村人
あの時もちょうど今回と同じだったなぁ。村長は逃げる体力もないって俺たちに逃げるよう指示して村に残ったんだ。で、戦も落ち着いて一度村の様子を見に戻ったらびっくり、村中盗賊の死体だらけだったんだよ
その話には強い既視感を覚えた。冥霊がこの村に来るのは初めてではなく、老人が冥霊を恐れなかったのは幼い頃から知っていたが故だったと。二人の態度を見て感じたものの正体をセナたちはようやく理解した。
村人
冥霊なりの恩返しだったんだろうな。その時から村長は冥霊に守られてるんだなって思うようになった。相変わらず近くで戦が起こった時くらいしか姿を見せないけど、二人にとってはそれくらいがちょうどいい距離感なんだろう
村人は特に冥霊を恐れているわけでもなく、ひょっこり姿を現す野良猫のような感覚で話していた。
村人
戦がなくなれば盗賊の数も今よりは減ると思うんだけどな……そればかりは、霊皇様に委ねるしかない
ドルクル・イータ
そうですね……。
戦場を渡り歩く義勇兵。何を目的にそうしているのかは不明だが、戦場がなくなればどう生きていくのだろうか。この村に戻り余生を過ごすか、あるいはその霊皇に召し上げられるのか。
村人
っと、冥霊が帰ってきてるんならもう大丈夫ってことだよな。俺たちは村の奴らを連れ戻してくるよ。じゃ、また後で
セナ・フォルティニス
セナ・フォルティニス
はい
見知らぬ訳ありすら受け入れているこの村は、友好的であると判断して間違いなさそうだ。薪割り、水汲みも終えて外で一休みしていると一匹の飛竜が降り立った。
セナ・フォルティニス
セナ・フォルティニス
って冥霊!?
その背中から降りて姿を見せたのは相変わらず血まみれの冥霊だった。飛竜には鞍が付けられており、人が乗れるようになっている。飛べるかどうかは別として。
そんな驚きが脳裏に過ぎったが、すぐに掻き消える。
セナ・フォルティニス
セナ・フォルティニス
いや傷だらけ!そんなのでよく来れたな!?
征 冥霊(せい めいりょう)
征 冥霊(せい めいりょう)
すぐ治る
乱雑に鼻血を拭い、痛がる素振りもせず、顔色一つ変えない冥霊は村長の家の中に入っていく。
征 冥霊(せい めいりょう)
征 冥霊(せい めいりょう)
今帰った
老人
手酷くやられたな。化膿止めと傷薬は棚の中じゃ
征 冥霊(せい めいりょう)
征 冥霊(せい めいりょう)
いつものあいつだ。温泉に行ってくる
老人
おう
勝手知ったる、といった様子で冥霊はさっさと物を準備して再び外に出てきた。
ヴィクトル・シリス
そんな状態で今度はどこに行くんだ?
征 冥霊(せい めいりょう)
征 冥霊(せい めいりょう)
すぐ近くに温泉がある。あんたたちも来るか?
ヴィクトル・シリス
温泉につかれるのはありがたいが……
セナ・フォルティニス
セナ・フォルティニス
俺が背負っていくから道案内を頼めるか?
征 冥霊(せい めいりょう)
征 冥霊(せい めいりょう)
自分で歩いて行ける
セナ・フォルティニス
セナ・フォルティニス
いいから大人しくしてなさい。怪我人なんだから
その言葉に冥霊は不思議そうに首を傾げた。温泉には先に冥霊とセナが向かい、二人が戻ってから他のメンバーが入れ替わりで向かうことになった。
知らない相手に背負われることに慣れていないのか、冥霊は酷く緊張していた。背負われ慣れていない様子からありありと感じ取れる。
セナ・フォルティニス
セナ・フォルティニス
かっる……
内臓入ってんのかな、と思わず声に出してツッコんでしまうほど、冥霊は軽かった。
セナ・フォルティニス
セナ・フォルティニス
よし、じゃあ行くか
冥霊の話によれば三十分ほど歩けば着くそうだ。だが、怪我人にはあまりに遠い距離だろう。
温泉までの道のりはそう険しいものでもなく、時たまに野生動物を目撃しながら散歩のような感覚でたどり着いた。そこだけ岩で囲んだような造りになっており、隙間を抜けると秘湯が目に飛び込んできた。
セナ・フォルティニス
セナ・フォルティニス
サル……
動物たちもここを利用しているらしい。すでに先客がいたが、彼らはこちらに視線を向けるだけで威嚇することはなかった。
セナは冥霊を地面に降ろし、持ってきた物を平たい岩の上に乗せる。
セナ・フォルティニス
セナ・フォルティニス
えっと、それじゃあ後ろ向いてるから……
征 冥霊(せい めいりょう)
征 冥霊(せい めいりょう)
あんたは入らないのか
セナ・フォルティニス
セナ・フォルティニス
俺男だからね?怪我人だから近くにいるけど、そうじゃなきゃ女の子と同じ空間に居ること自体リスクがでかいと言うか、謂れのない誹謗中傷を受けると言うか……
征 冥霊(せい めいりょう)
征 冥霊(せい めいりょう)
ああ、確かに彼女はメスだな。いい毛並みだ、今年はきっと栄養があるものをたくさん食べたんだろう
セナ・フォルティニス
セナ・フォルティニス
いやそうじゃなくて
征 冥霊(せい めいりょう)
征 冥霊(せい めいりょう)
しかし、それなら他にはもういないぞ
セナ・フォルティニス
セナ・フォルティニス
君のことだよ……
征 冥霊(せい めいりょう)
征 冥霊(せい めいりょう)
俺は男だが
背を向けて話をしていたセナの思考が停止する。
セナ・フォルティニス
セナ・フォルティニス
(おと……今俺って、男って言った?)
何かの聞き間違いかもしれない。一応確認しておかねば、とセナは聞き返す。
セナ・フォルティニス
セナ・フォルティニス
今なんて?
征 冥霊(せい めいりょう)
征 冥霊(せい めいりょう)
俺は男だと言った
セナ・フォルティニス
セナ・フォルティニス
嘘だぁ!
思わず振り返って──セナは両手で顔を覆うと女子のような悲鳴を上げる。
セナ・フォルティニス
セナ・フォルティニス
きゃああああ!なんて格好してんのよ!
征 冥霊(せい めいりょう)
征 冥霊(せい めいりょう)
あんたの方が男なのか女なのか分からなくなってるぞ
容姿のあらゆる部分が性別を誤認させてくる。お前のような男がいるか!とツッコむ余裕すらないセナ。
セナ・フォルティニス
セナ・フォルティニス
俺そんなに可愛い顔した女子知らねぇよ!絶対神様性別の設定間違えてるだろ!
征 冥霊(せい めいりょう)
征 冥霊(せい めいりょう)
容姿の美醜はよく分からないが、父が気に入っている自分の姿は俺も気に入っている
セナ・フォルティニス
セナ・フォルティニス
うんそっか!いい子だねっ!
ちょっと自信ありげに感じるのは気のせいだろうか。セナが悶絶している間に冥霊は温泉から上がり、体を拭く。
征 冥霊(せい めいりょう)
征 冥霊(せい めいりょう)
セナ、薬を取ってくれ
セナ・フォルティニス
セナ・フォルティニス
あ、ああ……悪い、取り乱した
名前を呼ばれたことで我に返ったセナは、一緒に持ってきていた薬を冥霊に渡そうと視線を向ける。ひゅっと呼吸が詰まった。
セナ・フォルティニス
セナ・フォルティニス
それ……
白い肌に刻まれた、おびただしい数の傷痕。打撲痕や火傷の痕、引きつった切り傷の痕。新しいのから古いもの、命に関わるような場所にまで痕が残っている。それに加えて、見たこともない紋様まで。
セナ・フォルティニス
セナ・フォルティニス
痛いだろ、さすがに……
この時自身がどのような表情をしていたかは分からないが、きっと酷い顔をしていただろう。
征 冥霊(せい めいりょう)
征 冥霊(せい めいりょう)
しばらくすれば綺麗に消える。最近は頻繁に戦場に出ていたから、治る前に新しい傷を増やしてしまっているが
冥霊はセナが持っていた薬をそっと奪い、慣れた手付きで傷の手当てを行う。セナが衝撃から立ち直ったのは、冥霊が身支度を済ませて帰る用意が出来た頃だった。
戻ったセナは今後の予定について隊長たちと話し合っていた。本人は大丈夫だと言うが、セナが見た限りとてもそうとは思えない具合だったのだ。
ジェイ・ラックマン
ふぅむ……まるで暗殺者に仕立て上げられた子供だな
ヴィクトル・シリス
闇市場の襲撃の時にわりと出くわしますよね。俺、結構トラウマです
セナ・フォルティニス
セナ・フォルティニス
護衛として雇われてるってことっすか?
ジェイ・ラックマン
その場合もあるし、商品にされている時もある。向こうからすれば俺たちは略奪者みたいなもんだからな。そりゃ抵抗するさ
セナ・フォルティニス
セナ・フォルティニス
そっか……
冥霊もまたそうなんだろうか、と一同に同じ考えがよぎる。暗殺者でないにしろ、そう躾られたのでは、と。
征 冥霊(せい めいりょう)
征 冥霊(せい めいりょう)
少し良いだろうか
渦中の人物の声がして、一同は揃って飛び上がり視線を向けた。まさかそこまで驚かれると思っていなかったのか、冥霊も瞳を丸くしている。
ジェイ・ラックマン
お、おお、すまんすまん!我々に用か?
征 冥霊(せい めいりょう)
征 冥霊(せい めいりょう)
ああ、逃げた村人たちの帰宅を手伝ってほしい。今文が届いて、五日後に集団で戻ると書かれていた
ジェイ・ラックマン
我々に出来ることなら何でも力になろう。なあ?
ヴィクトル・シリス
もちろん!世話になってる身だしな
ドルクル・イータ
それに、一度窮地を救われてるんだ。相応の働きをしないとな
冥霊の頼み事には、皆協力する気満々のようだ。その様子を見た冥霊はほんの少しだけ口角を上げた。
征 冥霊(せい めいりょう)
征 冥霊(せい めいりょう)
あんたたちは善い人間だな
まるで太陽を見上げる無邪気な子供のような表情に目を奪われる。同時に違和感を覚えた。具体的にはまだ分からないが。
協力が得られると分かった冥霊は話したいことを話して再び姿を消した。
ドルクル・イータ
ぐ……ぉ……あの時送れなかっ三年間あおいはるが……
ヴィクトル・シリス
ちゃんと青春しておけばよかった……
先輩二人は胸元を握りしめて呻き声をあげる。効果は抜群だったようだ。
セナ・フォルティニス
セナ・フォルティニス
いやホント、男に産まれたのが間違いかってくらいですよね。あの容姿は
ドルクル・イータ
は?
ヴィクトル・シリス
今なんて?
セナ・フォルティニス
セナ・フォルティニス
男ですよアイツ……
ニコ……と希望を打ち砕くように、困っているのかいないのか微妙な笑みを浮かべてセナは告げる。
ヴィクトル・シリス
今から不敬なこと言うけど聞かなかったことにしてくれ。スゥ……
ばったりと横に倒れた先輩が真剣な顔で言い放つ。
ヴィクトル・シリス
うちの王女でも霞むだろあんなん
ドルクル・イータ
はい不敬罪。牢獄行きな
ヴィクトル・シリス
だから聞かなかったことにするんだよォ!
先輩方による、魂の慟哭。よほど青春に恵まれなかったのだろうか。
セナ・フォルティニス
セナ・フォルティニス
(別に見た目が致命的に悪いようには見えないんだけどな……)
いわゆる少しかっこいい平凡顔、と言ったところだろうか。
セナ・フォルティニス
セナ・フォルティニス
いやでも、先輩たちが言いたいことは分かるなぁ
ヴィクトル・シリス
だろ!?うちの王女方なんて……あの通りだからな!
ドルクル・イータ
性格で損してるよな。まだ幼い第七王女が健やかに育つことを祈るばかりだよホント
セナ・フォルティニス
セナ・フォルティニス
国王様がさらにやつれなきゃいいっすけどね
ドルクル・イータ
収まるところに収まらなきゃ無理じゃね?
ヴィクトル・シリス
あのわがまま姫を受け入れられる奴なんているか?筋金入りの博愛主義者か変人くらいだろ
一度出てしまえば止まらない不満。隊長は隊長でそんな会話を懐かしいなぁと言ったふうな表情で見守っていた。歳は違えど、修学旅行に来た男子生徒並みの結束力が生まれた瞬間であった。

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