黒い服は思ったより重かった
鏡の前でネクタイを締める指先が
震えてるのに顔は静かで
会場の前には白い花が並んで
白ユリの匂いが強くて頭がぼんやりする
人が多い
親族 , 友達 , 知らない大人 __
案の定 俺は端に立ったまま動けない
分かっているのに分からないふりをする
棺の前まで来たとき , 足が止まった
白い布 , 静かな顔 。
眠ってるみたいなんて思わなかった
ただ動かない
この前まであんなに必死に目を開けてたのに
小さな声で名前を呼ばれて振り向く
彼女のお母さんだった
深く頭を下げられる
違う 。
ありがとうなんて俺が言う側なのに
それしか言えない
涙は相変わらず出ない
胸の奥が空っぽのまま花を一輪棺の中に入れる
指が触れそうで触れない
触れたら本当に終わる気がして 。
周りのすすり泣く声が遠い
時間がゆっくり進む
焼香が終わり , 蓋が閉じられる音がした
その音だけがやけに現実的に感じて
何かが剥がれ落ちていく
病室も点滴の音も夜に歌ったあの時間も
ほんとに 、全部 。
外に出ると空は晴れていた
こんな日に限って青すぎる
スマホが着信で震える
世界は本当に容赦がない
ポケットの中で拳を握る
__ 泣かない 。
もう泣いたから
ただ一つだけ胸の奥で思う
蝉がうるさくて日差しが強い
あの言葉が 今になって重くのしかかる
振り付けの先生に声をかけられた
結構おかしいらしい 。
身内でもまだ経験した事がないことで
動揺してるのかもしれない















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!