第63話

#61.5 『届け、僕の想い』
3,313
2024/03/10 15:00 更新
今回のみ類サイドです(番外編ではありません)
あなたの下の名前にチケットを渡してから、

僕は今までのどの舞台よりも緊張していた。
……ついに今日が来てしまったね
あの日からの時間は、

真夏のアイスクリームのように

瞬く間に溶けてしまった。

そして今日が、本番だ。
………
舞台裏で準備をしていても、

スタッフや仲間と話していても、

台本や器具の最終確認をしていても、

心が落ち着くことはない。

舞台を楽しもうと思う気持ちは、

全て緊張に塗り替えられてしまっている。
類、大丈夫か?
かなりナーバスな表情だが
流石に緊張しているよ
まぁ、そうだよな……
司くんが同情をくれても、

鼓動は高鳴っていく一方だ。
しかし、舞台の上に
私情は持ち込み禁止だ
厳しい言葉をかけることになるが…
しっかりしろ、類。
お前は我らが自慢の演出家なんだからな
ぽん、と肩を優しく叩かれる。
……ありがとう、頑張るよ
そう答えると、司くんは少し安心したように笑った。
では僕は小道具の最終確認に行こうかな
オレは音響の確認に行ってくる
また後でな、類
あぁ、また後で
そこで司くんとは一旦別れた。

小道具が置いてある方へ向かうと、

今度は寧々に声を掛けられる。
寧々
類…昨日寝てないの?
日が変わる頃には横になったさ
ただ……寝付けなかったよ
寧々
……かなり緊張してるんだね
流石にね
まるで心臓を掴まれているような気分だ。
寧々
でも、しっかりしてよね
寧々
あんたがいなきゃ始まらないんだから
司くんにも言われたばかりだよ
苦笑いすると、寧々は溜息をついた。
寧々
わたしは類の苦悩も
あなたの下の名前の辛さも分からないけど
寧々
東雲くんが言ってた通り、
すれ違ってただけでしょ
寧々
そのすれ違いを今日ここで
終わらせるだけなんだから
寧々
そこまで思い詰めなくて
いいんじゃない?
幼なじみならではの僕達を想う言葉は、

あたたかくて優しかった。
あぁ…そうだね
いつもの僕らしく、頑張るよ
寧々
うん
寧々
じゃあわたし、
あっちの用意してくるから
あぁ、よろしく頼むよ
寧々
ん…また後で
寧々が去っていく。

時間を確認すると、

上演まであと15分といったところだった。
………
えむ
あっ!類くんはっけーん!
小道具の確認を終えたところで、

今度は明るく弾む声が僕の名前を呼ぶ。
おや、えむくん
どうしたんだい?
えむ
あのねあのね!ちょっと来て欲しいの!
えむくんは僕の袖をクイッと引っ張る。

つられて立ち上がると、今度は腕を引かれた。
わっ…
連れて行かれたのは舞台袖。
えむ
本当はダメってこと、
わかってるんだけど…
そう言ってえむくんは、

舞台袖の幕をほんの少しだけめくった。

その隙間から見えるのは、

ほぼ満席状態の観客席。
えむ
見てみて!お客さん、いっぱいいるよ
あぁ、嬉しいね
えむ
うん!しかもね…
えむくんは、後方の左隅を指差した。
えむ
あそこにいるの、あなたの下の名前ちゃんじゃないっ?
…!
えむくんの指差す先には、

確かにあなたの下の名前が座っていた。

その隣には東雲くんもいる。
あなたの下の名前………
えむ
あたしね、この舞台、
成功しそうな予感がするんだ
えむくんはゆっくりと隙間を閉じると、

僕に向かって微笑んだ。
えむ
類くんの想い、あたしたちで
あなたの下の名前ちゃんに届けようね!
………あぁ
ちょうどその時。
類、えむ、こんな所にいたのか
寧々
もうすぐ時間になるから、
スタンバイ行くよ
振り返ると、司くんと寧々が立っている。
えむ
はーい!
では、いつもの円陣に……
と言いたいところだが
類、今日の一言はお前に任せよう
えっ…僕かい?
寧々
今日の主役は、類だから
えむ
類くん、お願いします!
司くん、寧々、えむくんの順に目を合わせる。

その後、深呼吸をひとつ。
__みんな、よろしくね
そして…この舞台、楽しんでいこう
W×S
おー!
4人の心がひとつになる音がした。

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