初めて踏み入れたホールは意外と暗くて、
空調の回る室温は心地よく眠気を誘う。
色んな意味で頭が回らないから、
気を抜けばすぐに虚けてしまう。
そしてその度に、
東雲くんの声で現実に引き戻される。
ずっと大嫌いだった類兄のショーを見るなんて。
昔の私には到底、出来たことじゃない。
現に今だって、完全に克服したわけじゃないんだ。
そこで初めて、
ホール中に響き渡る人々の声が耳に入ってきた。
みんな思い思いに過ごしているけど、
共通点が1つあることに気が付く。
そう、ほとんどの人が笑っている。
どんな物語なんだろうとか、
演出が楽しみだとか、
これから始まるショーへの好奇心で溢れている。
席に座りながら、東雲くんは舞台を見つめ呟いた。
辛いけど、否めなかった。
だって、私も思ってしまったから……
「やっぱり類兄はすごいんだ」、と。
私には何も無くて、
類兄ばかりどんどん先へ行ってしまって。
比較されて落とされることが
苦しくて、辛くて、何よりも嫌いだった。
でも、類兄を避けていたのは
それだけが理由じゃない。
「置いていかれるくらいなら、
いっそ自分から離れてしまえば」
___無意識のうちに、
私はそんな意思に操作されて生きていたんだ。
今なら、何でも持ってる類兄よりも
惨めな私自身の方が嫌いになれる気がする。
霞んでいく視界と、
東雲くんの優しい声。
差し出されたタオルを受け取る。
膝の上に乗せたトートバッグを掴む手に力が入る。
低い機械音がホール中に鳴り響き、
薄暗い照明は一層暗く落とされる。
会場のざわめきは、
一瞬にして水を打ったように静かになる。
目の前の幕がゆっくりと両端にはける。
思わず息を呑んだ。
舞台中央、
スポットライトに映し出されたひとつの人影。
どこか悲しそうな表情で立ちすくむ類兄の、
呼吸さえも聞こえてきそうだった。
"tie"……家族間の絆













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。