第64話

#62 "T-I-E"
3,196
2024/03/14 13:00 更新
初めて踏み入れたホールは意外と暗くて、

空調の回る室温は心地よく眠気を誘う。
彰人
オレらの席は……1番後ろか
あなた
……
色んな意味で頭が回らないから、

気を抜けばすぐにうつけてしまう。
彰人
神代、ボーッとしてると危ねぇって
そしてその度に、

東雲くんの声で現実に引き戻される。
あなた
あ、うん……ごめん
彰人
…緊張してんのか?
あなた
う、うん……
ずっと大嫌いだった類兄のショーを見るなんて。

昔の私には到底、出来たことじゃない。

現に今だって、完全に克服したわけじゃないんだ。
彰人
……オレは神代の気持ち、
分かってやれねぇけど
彰人
とりあえずなんつーか…
少しは肩の力抜いたらどうだ?
彰人
周り見てみろよ
あなた
え……
そこで初めて、

ホール中に響き渡る人々の声が耳に入ってきた。

みんな思い思いに過ごしているけど、

共通点が1つあることに気が付く。
あなた
みんな…楽しそう……
そう、ほとんどの人が笑っている。

どんな物語なんだろうとか、

演出が楽しみだとか、

これから始まるショーへの好奇心で溢れている。
あなた
………
彰人
すげぇよな
席に座りながら、東雲くんは舞台を見つめ呟いた。
あなた
……うん
辛いけど、否めなかった。

だって、私も思ってしまったから……

「やっぱり類兄はすごいんだ」、と。
あなた
……
私には何も無くて、

類兄ばかりどんどん先へ行ってしまって。
あなた
………類兄、
比較されて落とされることが

苦しくて、辛くて、何よりも嫌いだった。
あなた
……私、
でも、類兄を避けていたのは

それだけが理由じゃない。
あなた
ずっと…わがままで、ごめんね……ッ
「置いていかれるくらいなら、
         いっそ自分から離れてしまえば」

___無意識のうちに、

私はそんな意思に操作されて生きていたんだ。
あなた
……ッ、
今なら、何でも持ってる類兄よりも

惨めな私自身の方が嫌いになれる気がする。
彰人
神代
霞んでいく視界と、

東雲くんの優しい声。
彰人
使うか?
あなた
あ、ありがと……っ
差し出されたタオルを受け取る。
彰人
……ここまで来たんだから、
神代センパイにも伝わるだろ
彰人
"その想い"
膝の上に乗せたトートバッグを掴む手に力が入る。
あなた
………うん
低い機械音がホール中に鳴り響き、

薄暗い照明は一層暗く落とされる。

会場のざわめきは、

一瞬にして水を打ったように静かになる。

目の前の幕がゆっくりと両端にはける。
彰人
始まるみたいだな
あなた
……
思わず息を呑んだ。

舞台中央、

スポットライトに映し出されたひとつの人影。

どこか悲しそうな表情で立ちすくむ類兄の、

呼吸さえも聞こえてきそうだった。
        "tie"……家族間の絆

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