第2話

一話
472
2021/12/23 13:17
オレは優しい両親と可愛い妹の四人家族だった。妹は体が弱かったが、笑顔の可愛らしい明るい子だった。両親は共働きで妹の医療費を稼ぎながらもオレらを愛してくれていたし、幸せな日々を送っていた。オレも幼いながらに家の手伝いをしながら暮らしていたのだが、突然両親が帰らなくなった。
否、帰れなくなった。事故にあったと聞いた時は茫然としたが、妹は体調が良くないし、心配をかけられないから平静を装った。
親戚は居らず、オレ達は二人両親の帰らない家で生活を始めた。周りの人に仕事をもらい、手伝いをしながら食料を譲ってもらったりして何とか生活して行こうと頑張った。
しかし、医療費は中々集められなくて、妹は少しづつ体調は悪化していった。このままでは、妹はいなくなってしまう。それが怖くて、オレはいつもは行かない遠くの街まで仕事を探しに行った。子どもが貰える仕事などたかが知れているが、それでも行かねばならなかった。
そしてその途中で拐かされたらしい。
気付けば両手両足は繋がれていて、鳥籠の中にいた。布を被せられ、周りの状況は分からないが、幼い子供の鳴き声や少し年上くらいの人の騒ぎ声が聞こえたから、オレだけでないのは分かった。子どもの鳴き声は、大人の怒鳴り声で静かになってしまった。バチンって音がしたから、もしかしたら手を上げられたのかもしれない。ガタガタといつオレの所へ誰かが来るかも知れないと震える体を寄せてどれほど経ったか。ガラガラと運ばれる音が、一つまた一つと遠のいていき、周りの声も消えていった。
天馬司(幼少期)
天馬司(幼少期)
(連れていかれる…)
それがわかった。
天馬司(幼少期)
天馬司(幼少期)
(逃げなきゃ行けないのに、)
それができない現状に絶望する。
ギィ、と音を立てて扉が開き、とうとうオレの番が来たのだ。
天馬司(幼少期)
天馬司(幼少期)
(そうだ、それでさっきの所に…)
ぼんやりと思い出した記憶に息を吐き出す。妹はどうしているだろうか。オレを、心配してるだろうな。泣いてしまっているかもしれない。じわじわと視界が滲んで歪んでいく。先程の声が耳の奥で響いていた。
???
『その少年はウチが引き取らせてもらおう』
金持ちの道楽に買われて、どうなるかなんて決まっている。きっともう妹の元へは帰れないだろう。過酷な労働を強いられるのか、何か恐ろしい実験に付き合わされるのか…。
きっと給金など貰えないだろう。せめて給金が貰えるのなら、妹へ送れるのに…。ぽたぽたと頬を伝い、縮こませた体に涙が落ちる。
ギィ、と扉の開く音がした。ビクリと体が震え、顔を俯かせる。カツン、カツンという音と、コツコツという音、三人ほどの足音がそれぞれ違う音を立てていた。ガクガクと震える足を必死に抑えようと力を込めるも、意味はなく、カシャンと鎖がひとつ音を立てただけだった。
足音が、籠の前で止まった。バサッと大きな音を立てて布が捲られ、目の前が光で照らされる。怖くて必死に閉じた瞼の向こう側で、籠の戸が開く音と、誰かが中に入ってくる音がした。ギュッと閉じた目を恐る恐る開けば、閉じた拍子に零れた涙が手を濡らす。
流れた分を補うように滲む涙が人影を映した。布を掴む男と、その男と話す男の人影、そして鍵を開けた鳥籠の中に入って、オレの目の前まで来た影。色彩がぼんやりと映り、その鮮やかな色に目を瞬いた。
神代類(幼少期)
神代類(幼少期)
初めまして
子ども特有の、高い声だった。藤色の髪はくるんと毛先が跳ねていて、キラキラとした月の様な瞳にオレが映る。涙をボロボロに零した情けないオレの顔。呆気と見上げるオレに、そいつはへにゃりと笑った。
神代類(幼少期)
神代類(幼少期)
僕は類、よろしくね。
……To be continued

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