【 ナベリウス・カルエゴside 】
「 キミたちのだぁーいすきなお師匠様 、
殺してもらう計画中なんだよ…知ってた? 」
年がら年中頭が沸いてるヴィッチ家の女が
ケラケラと笑ってそう言った。
心臓破りの少し前の話だ。
バラムが消息を絶っていたことを問い詰めようとしたら、返り討ちにあった気分だった。
初めは意味がわからなかった。
すぐに言い返す、 笑えない冗談はやめろ、と。
何が誰にどうやってなぜ?
分からなくても、そこを聞くより先に
「 師匠 」と「 死 」を遠ざけたかったのだと思う。
だからなぜと聞かずに否定に走った。
けらけらと、また喉を鳴らして笑う。
へんに耳に擦れる嫌な音だった。
ヴィッチ本人から言い出した癖に
食いつきがいい私に不満なのか、
無責任にも渋った顔をして ,
えぇー…と口を歪ませた
そういって少ししても物音ひとつすらしない
さらっとふわっとと最高位が出てくる辺りで
この悪魔は本当に「 悪魔 」としての頂に
確かにいるのだと思い知らされる。
現に自分では察知できなかった。
何もないと確信していた空間から、
私に額がひっつきそうなほどに覗き込まれている
シチロウの姿をようやく視認できた
白く長い髪が額に数束落ちてくる。
鬱陶しくて退けようとするが
シチロウ自体が頭を動かすのであまり意味がない。
目の下のクマが際立って見えた、
彼にとって珍しい様子ではないが
クマのでき方が数日のそれではない程度に濃い
視線があったのは初めの方だけで、私の言葉にあまり構わず、すぐにどこか一点を凝視し出す。
今解かれた魔術の残穢にその視線は向いていた
「 化け物 」という言葉が耳をかすめる。
そこには差別の色がなく、
賛美の一つなのだとわかる。
それでも、彼女が敢えて、
そう呼ばれる時と重ねてみて
一体この差はなんなんだろうと思った。
魔術を作るなど、
そんなこと千年に一度の天才だと魔界で
仰がれるような人物ですら、生涯を全て費やして、
一生をかけて成せるかどうかの芸当だ。
とんでもないことを、また……
ま、まて。自信がない?
まさかやるつもりなのか、?
どうせヴィッチのふざけたお願いだろうに
本気で引き受けているのか???
シチロウが??????
プレッシャーなんかで片付けるのか??
酔わなければシチロウはそれができると、?
そうぶつぶつ唱えながら奥に置かれた
書類の山、実験道具が山積みの巣へ
バラムはのそのそと帰っていく。
ヴィッチに言いくるめられた大型動物のようで、
ツッコミどころしかない。
脳内はたぶん「創作魔術」でいっぱいなのだろう。
1人何も知らされずに残された私は、
バラムの後ろ髪を物理的に引っ張って静止させた。
偏頭痛を自分の中に押し込んで
息をゆっくり吐いて平常心を保つ。
手短に、そう言われて言葉を省いた上に
削ぎ落としたその二言は、確かに心臓に悪かった
頭は思考を放棄して、
口は勝手に動いて意味をなした言葉が紡がれた
「 とっくに、 いつか死ぬつもりだったくせに」
淡々の罪状を述べるように、
ヴィッチはそう口にした。
言葉だけでは何も伝わらない様子のカルエゴに
観念したようにヴィッチは言うと、
左腕の袖をめくり出した。
肌には刺青のように、
デルキラの紋様とヴィッチ家の家紋が刻まれ
その間に天龍の象徴が刻印されている。
自己中を元気に報告したあとで、
やや冷ややかな声がかけられた
「 そうだなぁ、 」と、はにかんで
幼子が宝物を詰めた玉手箱を見せるように
とっておきだぞ、なんてもったいぶって
「 デルキラ様が墓場まで持って行った、
【 一生をかけてついた嘘 】について、だよ。 」
掲げた手に刻まれた刻印を手ですーとなぞりながら、
誰に向けた言葉でもないことをいう。
ヴィッチの言葉はそこで区切られた。
それ以上、知ることを許さないと線引きされた目は
一度開いて、そして閉じられる。
夢は、ある一言から始まる。
それは、ちゃんと…
確かに言われた記憶のある言葉だ。
「 初めまして、ナベリウスのかわいい坊や 」
それから、走馬灯のように「あのヒト」の記憶が
駆け抜けていって、
学生時代、そして再び現れてから…
最後に心臓破りの騒動へと移っていく。
そしていつか、自分でも気づかないどこかで
″ 現実にない、嘘の話に入れ替えられる ″
このたとえは少しおかしいかもしれない、
つまりは、 今までは記憶をなぞるような夢が
どこかを境に妙に現実めいてくるのだ。
夢との境目が曖昧になって、
所詮夢だ、と笑えない程度に
一歩引いてはいられなくなる。
とうとう不安になって目の前の「あの人」に
これは夢かと聞いてしまう。
すると毎回、それが最後になる。
その後に「あの人」が口にする言葉が契機となって
「 お別れだね、かわいいナベリウスの番犬さん」
私はそこで毎度目を覚ます。
寝覚が悪いこの夜を、
もういくつ明かしたのかは知りもしない
明け方、まだ日が昇る前に
カルエゴは教師寮へと訪れていた。
もう数年の日課である。
ダリが淹れたてのコーヒーカップを
カルエゴに手渡して、
2階のテラス席で話すのが定番だった。
カルエゴは夢を見るたび無性に不安になる感覚を、
ダリにあなたの下の名前の生存を確認することで
どうにか紛らわせていたからだ。
なぜなら、 心臓破りから…
あれから結局ここ三年、四年経とうとしてもなお
彼女が死ぬかどうかは決まってないまま、
彼女がもしも死にたくなったら
現在故障中の例の時を戻せる時計を
修理することをダリが了承する、という形に
なったからだ。
もっと簡単にいうならば、
サリバンの家系能力を支える時計は
現在ダリが所持している。
= 時を戻して自分の存在を無かったことにしたかった(=死ぬ)ということがこのままじゃできない
だから、(上の形で)やはり死にたいとなったら
それをダリに話したなら、
彼はは時計を直して彼女に渡す行動をとる。
と、いう具合だ。
だからダリに聞くのが一番早いのだ。
時計の修理を頼まれていないか、と
それを聞けば、聞こえるはずもないあなたの下の名前の鼓動すら聞こえてきそうなほどに、安心できるから。
誰もが抱くだろう、
どうしてダリは時計を修理するつもりでいるのか
修理しないとすれば、宙に浮いたままの
あなたの下の名前の「 死 」の
可能性がなくなるじゃないかという疑問は
カルエゴが初めにダリにしていた話だった。
濁すに濁された言葉の末に、
奇しくも偶然か、はたまた必然か
ダリの「 二言 」で、その場は閉められた。
と、 … 心臓破りの後その話を交わし
それから四年近く経った。
ダリが時計の修理をする、と言った期限は
四年と半年。
未だ殆どの悪魔は、あの騒動から
あなたの下の名前とやり取りができていない。
ダリに修理の連絡がないまま過ぎた
4年間は、もうあと少しで終わりを迎える。
カルエゴも、会いに行けていない悪魔の1人だった
課外で経験を積んだ日々は区切りを迎え、
収穫物を審査する季節となった
「 あなたの下の名前に求婚しに行こうと思っています 」
カルエゴは珍しく
豆鉄砲を喰らったダリの顔を軽く笑って
しかしばかり上機嫌で席を立った。
そんなカルエゴにダリは
わざとらしく呼び止めにかかる。
カルエゴが本日最後、夕方を予定していた
入間との面談予定を急きょ朝にねじ込むという
連絡を入間にかけ、慌ただしく
その場を後にするのをダリは愉快そうに見送った。
1人残されたダリはくくっと、喉を鳴らして
面白そうに笑う。
先日といったが、もう数年前の話だ 。
見事に翻弄されている珍しいカルエゴ先生が面白い
心臓破りから四年後、
確かに何かが、巡り始めようとしている














編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。