初兎の声に、少しだけ視線が向く。
その一言が、妙に静かに響いた気がした。
一瞬、言葉が詰まる。
何度も言ってきたはずの自分のことなのに、
こうして改めて口にするのは少しだけ怖かった。
喉の奥が、わずかに重くなる。
言い終えた瞬間、胸の奥が少しだけざわついた。
指先で、頬に残っていた湿り気をなぞる。
悲しくもない。
苦しくもない。
それなのに、身体だけが先に反応する。
その時だった。
ぽたり、と小さな音がした。
視線を落とすと、床の上にひとつ。
透明ではない、小さく光る“星”。
初兎が、少しだけ感心したように呟いた。
その言葉に、なぜか胸の奥が少しだけ揺れる。
今まで、そんなふうに言われたことはなかった。
さらっと出たその一言に、思わず顔を上げる。
一瞬、意味が分からなかった。
小さく返す。
自分にとっては、ただ“困るもの”でしかなかったから。
初兎は普通に頷いた。
その迷いのなさが、逆に不思議だった。
その言葉に、呼吸が一瞬止まる。
誰かに“しんどい”と当てられるのは、
思っていたよりも鋭かった。
結局、それしか言えなかった。
沈黙が落ちる。
でもその空気は、不思議と嫌ではなかった。
初兎は少しだけ視線を外してから、ふっと笑う。
その言葉は軽いのに、
どこか逃げ場を作ってくれるような響きだった。
そう付け足して、肩をすくめる。
“お互い”。
その言葉が、静かに残る。
初兎は軽く手を上げる。
そして振り返る前に、もう一度だけ言った。
その背中が遠ざかるのを見ながら、
ゆっくりと息を吐く。
手のひらの中に、まだ少しだけ“星の余韻”
が残っている気がした。
“痛いのも、怖いのも、半分こ”
その言葉だけが、
静かに頭の中で繰り返されていた。











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!