会話は連合に聞かれている
なんつって、「急げ」と言っているのにホークスは呑気に通話している
早く話してくれ、私はA組の試合を見たいんだ
私は信じたくない
信じられない
信じきれない
やっぱり怖いんだよまだ
「失う」のがさ
何か大切なものを失うことってのは、ある日突然自分以外の人間がみんな知らない言語で話し始める、みたいな
絶望とか、恐怖とか
相手が何もかもを共有してきたホークスであるとしても
自分の大切なものすら護れなければ、人を救けるなんて行為はできない
冷たくて掠れた声が、よく響いた
そのままその場でしゃがみ込んで丸まる
今よりもっとたくさんの人を護れるように
「誰もが誰かのヒーローになれる」
そう、誰かのヒーローになるために
そうやって生きて、少しずつ成長できればな、なんて
真月と七星が、クゥン、と面白がって笑った
澄濁はまだわかる、私の兄だから
契約もしてるし手の内に収めておきたいってのもあるかもしれんけど
ホークスは私と澄濁が血の繋がっている兄妹ということは知らないはずだが
けど死柄木と荼毘に気に入られてる理由ってなんだ
死柄木とは林間合宿のあの一瞬しか会ったことないし、荼毘に関しては向こうからの好意に全然気づかなかった
「え君私のこと気に入ってたの?」って思う
基本的に表情筋仕事しないんだよなあの2人
私はあの日から、「信じる」という行為自体に意味なんて無いのかもしれない、そう思ってる
信じてもいつかは無くなる
……失う
ホークスにさえ全てを話すことなんて、できなかった
兄さんですら私を裏切った
裏切った、
というのは、やっぱり私の兄なんかではなく、今まで本気でヴィランとして生きてきて、2人には私の個性の情報を売った
そういうことだ
なんなんだろうな
なんかいつも大切な人に裏切られてない?
私、罪人みたいなもんだし
いつもいつも失ってばかりで
誰も護れなかった
連合にいればいつでも兄さんと過ごせるし、話せるし、きっと楽しい
真月や七星以外ではじめて「友達になりたい」と言ってくれたトガとも仲良くできる
それにあの日の事件のヴィランを見つけ出せる
……兄さんに、「兄さん」ではない、あの呼び方をしてみたい
古びた響きでも、ずっと取っておいた、名前の発音
いっそのことヴィランとして生きて、ホークス、あなたに手錠を掛けて欲しい
それが一番、みんなのためになるでしょ
何なんだろうな、「四宮あなた」って
どうしてこんなになるまで
ずっとなにかがぐるぐるしてる
もういいのに
あの日で流し尽くしたと思った
滲んだ床のピントが合ったと思えば、粒が落ちた跡が見える
そのくらいで、と思った
自分の情けなさに呆れる
それがさらに息苦しさを増して上手く処理できない
その言葉はまるで
「人なんだからしょうがない、泣けた時に泣いた方がいい」と
背中をさすってくれるような
……私って、何のために生まれたんだろう
何のために生きてるんだろう
私が護れなかった人から見た私は、きっとヴィランなんだろうな
そういう気遣いされても、ホークスなら羽根である程度分かるだろうに
鼻声のままでも気にせずに謝った
A組やプロヒーロー、ホークス
大好きなんだ
大好きなのに
一瞬だけでも、ヴィラン連合の方が輝いて見えた
一瞬、じゃないな
もっと長い
……
やっと終わった、けど……
携帯の履歴を見て、少し絶望する
約15分の通話
急いで目を擦って立ち上がる
駆け足で授業に戻った
もうとっくに終わっていた
なんなら5試合目の準備に取り掛かっていて、あと少しすれば始まるところだった
どういうキレ方なんそれ
と思ったことは口にせず、ビシィッッという音が聞こえてきそうなほど規律よく、そして姿勢良く歩く
緑谷くんもこんな感じで対応していたのかな
彼の背中を追いかけてる今もこんな付き合い方をしているんだろうか
うーん
この幼馴染やばー……
まあ、爆豪「勝」己なんて名前なんだから、きっと勝ったと思っていたけど
やばいな、4・0無傷はさすがに驚く
相変わらず口は悪いな
……はあ、
ざんねんだなー……
へー
ふーん
ほーん
……へー????
え?今なんて?
言葉になっていない驚きに、私はもうとにかく、お口をあわあわするしかなかった
のであった ()
ちなみにミッナイ先生は「四宮も勝己もお互いに懐いている ( ? ) 」ことを知っていました
昼ごはんいつも一緒だし、林間合宿で拉致られた時も一緒だったし、それで四宮が仕事的に、さらに勝己を気にかけるようになったのを見ています
ミッナイ先生は生徒の中の「青臭さ」には常人の5倍くらい敏感です













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!