“悪い”っていうのは、案外生きやすい。
「兄さん」
深夜二十四時をまわった頃に高校の制服ではなく私服で帰宅すると、リビングから出てきた一つ下の妹の朱莉が控えめに俺を呼ぶ。
歩み寄ってくる足取りには不安や躊躇いがあり、いつものことだった。
「ねえ、どうしてこんなに帰りが遅――」
朱莉の話している途中で、すっと横を通り過ぎる。
風呂場へ直行し、荷物ごと脱衣所に持ち込んでドアを閉めた。
階段を上る少し力の籠った足音が聞こえたが、構わずに服を脱いでいった。
ーーーーー
タオルで髪を拭きながらリビングに入り、ダイニングテーブルへと近付く。そこには二枚の千円札とメモ書きがあった。
『今日も遅くなります。ごめんね』
毎日見る母の字。けれど毎回微妙に字の形が違っていて、メモが使い回しでないことがわかる。
(いちいち書かなくていいのに)
俺はメモを握り潰して小さく丸め、ゴミ箱に捨てた。千円札の方は手に取ってポケットに突っ込む。
中学二年の夏、両親が離婚した。それから母さんは仕事に明け暮れて、三年経った今も、家で一緒に過ごすことはほとんどない。
元々両親の仲が良くなかったこともあり、俺が朱莉の面倒を見ていたので、離婚があってしばらくは食事くらいしか変わっていないと思っていた。
だが――。
ガチャッとリビングのドアが開いた。玄関扉の音はなかったので母さんではない。振り返ると、予想通り朱莉がいた。
「兄さん。私、明日先に学校行くから」
責めるような声音が耳を刺す。俺はわかりやすくため息を吐いた。
(怒ってんなら話しかけなきゃいいのに)
「あっそ」
「……っ、だから、朝起きられなくても知らないからね!!遅くまで遊び歩いてる兄さんが悪いんだから!!」
「はいはいわかったって」
適当な返事を受けてますます気が立ったか、朱莉は「それだけ!おやすみ!」と言い残して勢いよくリビングのドアを閉めた。
お互い要らない労力を使った感じが否めない。
「……はぁ、だる」
ソファに寝転がってスマホをいじる。今夜一緒だった奴らからメッセージが来ていて、手早く返信を送っていく。
誰にどう思われても構わない。俺は俺のやりたいようにするだけ。
“いい子”なだけじゃ、何にもならない。











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。