今日、顧問が出張で部活に来ないらしい。
年頃の男子高校生の言う噂は、そんじょそこらの田舎の何十倍もの拡散力を持つ。
30分くらいはやく切り上げようぜ、なんて高校生らしいサボりを考えたり、なんなら休みにするか、と言って談笑したりする。
そう指差した先には、ダボッとしたハーフパンツを履いたバスケ部の生徒。
しかしその中にあなたの名字の姿はない。
なんだ、と少し興ざめしている自分に驚く。
サボれない、と知ったサッカー部員は顔を真っ青にする。
けれど、潔にとってはそっちの方が都合が良かった。
部活が長引けばあなたが来る可能性が上がる。
もしかしたら、また会話ができるかもしれない。
そんな淡い希望を胸に、少しぬかるんでいる地面を蹴り飛ばした。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!