馬に揺られながら、そう思い空を見る
空は、俺の心模様を表すかのような、
これからの不穏な空気を表すかのような、
そんなどんよりとした曇りだった
そんな俺の様子を伺って、葉琉様が俺に声をかけた
そういう葉琉様をみて、馬鹿だなと思ってしまう自分は、
きっと、何処か可笑しいのだと思う
でも、俺の嘘をこんなにも綺麗に丸呑みにされると
どうしても思ってしまうのだ
葉琉様は、そんな俺のことなど知る筈もなく
俺に笑って声をかけた
それでも、俺が生きる方法は、これしかないのだから
そんな俺が一番滑稽なのだろうな、なんて
何処か他人事のように思った
この戦は、随分不平等だと思う
宵月家の戦力が二千程に対し、
こちら側は二万五千程あるのだ
だから、比較的戦は早めに収束するだろうけど……
なんとなく、嫌な予感がする
……こさめは……今、大丈夫なのだろうか
寺に居るとは聞いたけれど、安全な保証はない
こさめは無事であって欲しいな、
と明らかにこの場では場違いなことを
思いながらも、俺は馬を進めた
そう身分が俺より下の者が答える
彼らは俺が人質になるまで暮らしていた
陸音の国に仕える武士だった者達らしく
奴隷の俺より立場が下らしい
変な話だな、なんて思いながらも
俺は目の前に聳え立つ城を見た
それは宵月の領地、伍韻にある城の内の一つで
葉琉様は、此処を軍事拠点にする為に
俺に米を運べと命じられたから、
宵月軍の包囲を掻い潜って、城まで来たのだ
そう俺が言えば、その者達は直ぐに
城へ大量の米を持って入って行った
何時頃気が付かれるなんて、わかりきっている
宵月は、ここ一帯の中でも特に強い国で
時間はほんの少しも稼げないのだ
ならば、早めに任務を終わらせ、逃げるのが吉
そんな風に、上手くいけば楽なんだろうけど……
そんな簡単にいかないのが、戦という物なのは
俺でも十分に理解している
そう、俺は言い放った
すると、それを聞いて隠れてても無駄だとわかった
何人もの宵月の兵が、ぞろぞろと出てくる
宵月の兵は皆、顔に強い意志が見えて
使い古された良い刀を持ってた
そう、時間稼ぎなど、最初から出来ていない
我らが雨乃家に油断させるために、
宵月の兵はずっと隠れてただけなのだ
……こんなにもいたのか、と驚く
正直、ここまでの人数は予想外だったけれど、
これぐらいなら大丈夫だと安堵もした
俺は、馬から降りてそっと刀を抜いて
出てきた敵に向かって刃先を向け
そして、笑った
その次の瞬間、宵月の兵は、
俺に向かって一斉に飛びかかって来た
俺は、その一瞬の動きを見て、
少しだけ残念に思った
あぁ、まだ甘い
俺も随分舐められたものだな、
宵月の兵にしては、あまりにも隙だらけで
正直、弱すぎる
これでは……
すぐ、終わってしまうではないか
俺は、立て続けにやってきた何人もを斬る
同時に、汚れた返り血が勢いよく飛んで
俺の身につけているものに付いた
そんな俺を見て、後退る兵達
俺と対峙することに、恐怖でも抱いているのだろうか
それがまた可笑しくて、笑いそうになる
たとえ嫌だとしても、生きる為に主の命令に従うなんて
武士を志す者の、基礎中の基礎なのになぁ、笑
そんな俺の煽り文句にすぐ乗せられて、
感情に任せっきりの太刀打ちで、勝てる筈もなく
俺は目の前に来た人を、その流れで斬った
……嗚呼、俺最低だ
こんなに好きな刀を、嫌いになってしまいそうなぐらい
刀に汚れた赤を、吸わせてしまっているのだから
この時代で、生き残るには
其れ以外の方法など、存在しないのだから____
米を運び終わった味方の兵に
そう俺の名を呼ばれたのは、
俺の周囲が、人誰一人としていない
血の海へ化した頃だった
その者の出した緊迫した声を聞いて
戦の前に感じた嫌な予感が、当たった気がした
「宵月軍に、討たれました……ッ!」
でも、その嫌な予感の予想を遥かに上回る
当主が亡くなったという事実
それを飲み込むよりも遥かに早く
俺の脳内を横切ったのは
俺に唯一の純粋な楽しみをくれた
次に宵月が狙うであろう、『雨乃家次期当主』の
雨乃恋沙愛様の存在だった
俺は、急いで馬に跨り、
その場にいる他の者のことなどは考えず忘れて
彼の居るであろう寺まで、勢いよく馬を走らせた











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。