第12話

変わった雨乃家、変わった自分
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2025/12/30 00:00 更新

此処は、雨乃家の領地内にある城

戦に負けたのに尚、城が残っているなど
変な話だな、なんて思いながら
かつて自分の父が座っていた場所に、自分はいる
???
恋沙愛こさめ様、
???
先日の報告なのですが……
声が聞こえてそちらを向くと、
そこには少年が立っていた

整った顔立ちに映える黒い髪
目にかかるぐらいの前髪の間からは
綺麗な赤い瞳が覗き込んでいる
雨乃あめの 恋沙愛こさめ
あぁ、ご苦労様
そう言って、報告書を受け取ると
中身を読む前に、目の前の彼を見つめた

彼は、それを不思議に思ったのか首を傾げる
なんとなく、罪悪感を抱いた
雨乃あめの 恋沙愛こさめ
椿つばきにはいつも苦労させてるよな……ごめん、
椿つばき
いや、全然これぐらい大丈夫ですよ!
椿つばき
逆に、拾われた身なのに
こんなに優しくしていただけて……
椿つばき
本当に、嬉しいです、笑
そう言って、椿は笑った



椿は、名前の通り、椿の花ような赤い瞳を持っている


椿と初めて会ったのは、
こさめが崖から飛び降りて、五日後だった

崖から飛び降りて、全身を強打した
視界は次第に赤く染まっていくし
全身から力は抜けて感覚はなくなっていくし

あぁ、死ぬんだな、なんて本気で思った






それなのに、

目を覚ますと、知らない室内にいて
あぁ、生きてるんだ、なんて絶望した

きっと、この部屋は宵月の屋敷で
きっとこれから殺されるんだなって
先に自害できるものがあるか探してた


でも、それは椿の家で
椿は、偶々たまたま重傷のこさめを見つけて
焦って家に連れて手当してくれたらしい
優しいな、って勝手に思った


椿は、病で両親を亡くしたらしく
身内も誰もいない、と言っていて
じゃあ、とそのまま流れで拾った子


今では、雨乃恋沙愛の側近として、
立派にこさめのことを支えてくれている
雨乃あめの 恋沙愛こさめ
……いや、こちらこそだ
雨乃あめの 恋沙愛こさめ
あの時、椿がいなければ……
きっと、俺は死んでいる
雨乃あめの 恋沙愛こさめ
俺は……当主になるつもりなんて、
本当はなかったのだから
雨乃家に帰ると、物凄く喜ばれた
生きていらした、と泣かれた

すぐ、元服させられて
同時に当主になった
あれだけ長く結いていた髪も
綺麗に切り落として仕舞った


でも、本当は彼処あそこで死ぬつもりだった
だって、らんくんには生きてほしいから
自由に、何にも縛られずに、
笑顔で、生きてほしくて……

なら、雨乃家そもそも、なくならないといけない
じゃないと、らんくんは優しいから
ずっと、雨乃家に縛られちゃう
雨乃あめの 恋沙愛こさめ
(……でも、もうらんくんは、大丈夫)
桃葉が逃げ出した、と報告を受けたから
こさめは、心の底から安心した

だって、もうらんくんは自由なんだし
もう……こさめたちのせいで、
ここに縛られることは無いだろうから
雨乃あめの 恋沙愛こさめ
……でも、
雨乃あめの 恋沙愛こさめ
当主になったのならば
その責任は果たすと、決めた
雨乃あめの 恋沙愛こさめ
もう、無駄な争いはしないと
でも、だからこそ
こさめは、今自分がやらなければいけない
当主としての責務を全うしなければならない

これ以上、大切な人らんくんを危険に晒さない為に
これから、大切な人椿をそんな目に合わせない為に
椿つばき
……それなら、心強いです、笑
椿は、こさめの言ってる意味を汲みとったかのように
そう、ふわりと笑った

まるで、感謝をするかのように

感謝なんて、と思いながらも心の中で受け取ったとき
ふと、最近雨乃で流れている噂を思い出した
雨乃あめの 恋沙愛こさめ
……そういえば、
雨乃あめの 恋沙愛こさめ
最近内通者・・・がいるのではないか、
という噂が雨乃にはある
雨乃あめの 恋沙愛こさめ
それは、椿も知っているのか?
椿つばき
……はい、勿論
椿つばき
この前の戦の際に……ですよね、
そう、それは内通者の存在


世間一般で隠されていたこさめのことを
宵月は元から知ってたかのように感じた

そうでなければきっと、こさめのいた寺まで
辿り着くことなどないのだから

今回それを知っていたのは雨乃の人間のみ
つまり、そこに内通者がいるのでは、ということだ


椿はその時、雨乃に居たわけでは無いけれども
そんな椿でさえも、詳細は知っているそうで

戦が終わったばかりではあるのに、
今もう既に、四面楚歌の状態らしい
雨乃あめの 恋沙愛こさめ
……本当に、雨乃を潰したいんだろうね
雨乃あめの 恋沙愛こさめ
まぁ……戦で負けた後なのに、
年端の行かない俺が治めれば国は傾く
雨乃あめの 恋沙愛こさめ
……きっと、敵は其処まで
見越してたんだろうな
雨乃あめの 恋沙愛こさめ
きっと俺も……直ぐに、
あの世行きになる運命だろう、笑
自嘲気味に、そう笑う
けれども、此れは本心からの言葉だった


宵月に一度負けている、
既に戦力も削ぎ落とされている

その状態でもう一度戦って、勝てる筈が無い
なら、きっともう直ぐ、こさめも死ぬのだろう

……死んだら、どうなるんだろうな、
神様に何かされるのかな、

なんて呑気に思っていると、
そんなこさめを引き止めるかのように
椿が口を開いた
椿つばき
……でも、わたくしは、恋沙愛様が
生きてくださって、嬉しいです
椿つばき
当主の責務を背負う為に、
意図的に口調を変えたとしても
椿つばき
貴方様が生きてくださって、
私は、幸せでございます
そう言って、椿はまた微笑む
こさめの言ってほしいことを、言ってくれる


当主になって、嫡男のこさめの人格は捨てた
当主の、雨乃恋沙愛の人格に、移した
口調も、思考回路も、全部変えた
そうじゃなければ、耐えられない


でも、そんなこさめでも、そう言ってくれる椿が
こさめは、なんとなく嬉しく思えた
雨乃あめの 恋沙愛こさめ
……そう、か笑
雨乃あめの 恋沙愛こさめ
やっぱり、椿は優しいんだな、
そう言って、そっと頭を撫でると
椿は驚いた後、また微笑んだ

今度は、少しだけ……困ったように、
其れと、申し訳なさそうに
椿つばき
優しくなれたら、よかったのになぁっ、笑
椿がそう呟いたらその言葉


こさめは、そんな椿の感情に深入りはせず
けれども放っておけるはずなんてなくて

椿の方に近づき、そっと抱きしめて
優しく、椿の頭を撫でた


椿は、驚いたような素振りを一瞬見せたものの
直ぐに、いつものように笑った

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