東生くんはずるい。
そんな事できるはずないのに。
甘い声で私を誘って、拒否をさせない。
て、…いつから私は
こんなに言い訳するようになったっけ?
東生くんの綺麗な顔が近づくと
ドキドキと胸が鳴るのは
今に始まったことじゃない。
それなのに、まるで初めての時のように緊張するのは何回目だろう。
知らない。
分からない。
…分かりたくない。
今はただ、温もりに浸って触れて、
自分の気持ちを誤魔化す…。
……それで良い。
目元を細めて空気を含んだように綺麗に笑う。
だって今までは
東生くんに求められるなら
それに答えていればって、そう思ってた。
なのに…今は……。
ううん、今も。
今も…最初に言い出したのは東生くんだ。
東生くんに近づくと
朝とは違う花のような香水の匂いが漂ってきた。
東生くんがこういうのつけるはずないのは分かっている。
クラスメイトの言葉が蘇る。
…やっぱり女の子に絡まれたりしたのかな。
本人に目線をうつすと
微笑みながら首を傾げている。
こんな事をわざわざ聞くのは
さすがに重いよなと自己完結。
…でも、言ってくれてもいいのに。
私の中でなにかモヤモヤしたものが溢れかえる。
私の言葉に沿って東生くんはかがみ、
目線がやや下になる。
不思議そうに笑う彼の首元に唇を近づけた。
…跡をつけるのは難しい。
うるさい東生くんを無視して続ける。
雑なリップ音と共に彼の首元には
赤く染まる跡がひとつ残った。
嬉しいけど、と付け加えながら
その部分をさすっている。
考えた結果出た言葉はそんな冷たい一言。
東生くんも瞳孔を開けて驚いている。
とりあえず私は満足したし、目線を合わせるのは恥ずかしかったから屋台の食べ物を東生くんに渡そうとする。
目を妖しく光らせて彼は口角をあげる。
…まずい。
そう思ったのも束の間、
私は東生くんに動きを封じられてしまった。
言葉が出なかったのは、
彼のあまりの顔の良さと
私の恥ずかしい気持ちを素直に伝えられないから。
矛盾した気持ちは最近ずっとこんな調子。
彼が求めることに精一杯応えて、
この世界に囚われてくれればそれで良かった。
なのに今は、自分の欲求に彼を巻き込んでいる。
机に両手をついて私の逃げ場を無くす。
ここまでされたら
もう逃げ出すことはできない。
…跡をつけて、つけられて。
首元にピリッと感じる痛み。
じんわり熱くなる体温。
…ぜんぶ、安心して。
それが嬉しくてたまらない。
同時に苦しくて、胸が痛くなる。
自然と目には涙が溜まって
視界がぼやけてきた。
ぐちゃぐちゃした感情に追いつかない。
最初の頃から意志が変わってしまった自分の弱さに気づいて情けなくなる。
私の異変に気づいた東生くんに顔を覗かれそうになるけど、彼の首に腕を回して隠す。
罪悪感が無いと言えば嘘になる。
…まだ気づかなくていい、
気づかないまま
どうか、最後のわがままに付き合って。











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。