リビングに残された俺達の間には、
重々しい空気が漂っていた。
ふと、声が落ちた。
ちょっと低くて、落ち着いてる、優しい声。
返事をするでもなく、ぼんやりと、
割れたグラスの破片を見つめる。
彼の本音は、いったい何なのだろうか。
理解してほしい“本心”は、どのようなものなのだろうか。
俺にはわからない。
わからない、けど———
俺には、ほとけっち自身も、
自分の本心を理解していないように思える。
隣から、酷く掠れた声がした。
握りしめられた拳。
赤く染まりかけた瞳がまた揺れる。
かしゃん
カッターが落ちた。
…まろは、凶器を自分から遠ざけていたはずなのに。
なんで、ここに。
まろの手が、カッターへと伸ばされる。
こっちに向かってまっすぐ、
様々な負の感情が飛んでくる。
一枚の刃に込められて、全部、全部、彼の想いが。
思わず目を閉じた
———その時。
刺さるような音がしたけれど、
俺の身体には、傷一つついていなかった。
恐る恐る、目を開いてみる。
まろが向けたカッターは、俺でなく、
ないくんの腕に刺さっていた。
半透明の腕に、じわりと赤が広がっていく。
その色さえも、まるでガラス越しに見るみたいに淡く滲んでいた。
まろの瞳に、青が戻る。
手が震え始めた。
微かに出された声。
それは、弱弱しかったけれど、
強い意志を秘めていた。
青の瞳が、大きく見開かれる。
それと同時に、まだ止まっていない赤色が目に入った。
まろがカッターを捨て、
救急箱のある方へと走り出す。
かしゃん
また、音がした。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!