何かがフラッシュバックしてくる。白い空間、何か紙に文字を書く音。そして、もがき苦しむ声が。
現実へと戻って来た時には、私は顔は真っ青で、荒い呼吸を繰り返し、冷や汗をかいていた。
ヒガンさんは、こういった場面を何度も何度も見てきたことだろう。最後まで目をそらすことなく。
真っ暗闇の中、一人ぼっちで、最愛の両親に会うことなく。
悠斗の純粋無垢な瞳はその事に気付かず…なのか、目を背け、ただただ両親を探し求めている。
気づいたら、私はしゃがみ込み悠斗を優しく包み込んでいた。
そう優しく声をかけた。
私はやっと気づいた。
彼の仕事の意味を。
そして、“彼岸の送迎人”が存在する訳に。
今度は、悠斗くんを連れて私たちは再び“岸渡りの門”を潜る、蘇芳へと戻って来た。
目の前に広がる赤い彼岸花の花畑は、快晴の空の下であろうと少し不気味なオーラを発しているように見えないこともない。
どうして覚えてるのかは分からないけど、ふと頭に浮かんだ。
昔から墓地に植えられ、血のような赤い花弁から、不吉なイメージを持たれやすいが、その花言葉は、“情熱”など明るい意味もあれば、別れなどを連想させる悲しい意味を持つ花でもある。
彼岸花畑の向こうから一組の男女の姿が見えからだ。
悠斗は晴れやかな笑みを浮かべると、私たちに向かって大きく手を振りながら、駆け出した。
目には溢れんばかりの浮かべ、頬を高揚させ、一生懸命足を動かしている。
母親はそう言うと、悠斗を優しく抱きしめ、
父親はわしゃわしゃと頭を撫でた。
やっと家族は、彼岸花の元で“再会”したのだ。
ヒガンの自宅を離れ、私は鬱蒼とした林をトボトボと歩いている。
突然人懐っこく明るい声とともに、目に前に上下逆さまの頭が現れた。
驚いて一歩身を引いたが、一人の青年が木の幹に両足を引っ掛け、ぶら下がっていただけだった。
真紅の髪はウルフカットのように襟足が少し長く、糸目で瞳は見えない。左目に泣きぼくろと、両耳の派手なピアスが目を引く。そして、暗い赤の朱殷色の長袍を身に着けている。
くるりと一回し、地面に裾をふわりとさせて舞い降り、そう名乗った。
どうやら彼は、ヒガンから聞いたのか、私が記憶喪失なことを知っているようだ。
多分、今なら自宅にいるはずだ。
顔は笑ってるように見えても、目が笑っていない。そんなように私の眼には映った。
遊はその言葉に合わせて、左手のひらをくるりと回し私に向けた。
ヒガンさんの知人が、なぜ初対面の私に用があるのだろう。
さも当然のように言われ、反射的に聞き返してしまった。
遊がやって来たことに気付いてなのか、我々の話題の中心、ヒガンもやって来て、私と遊の間に立った。
気草に挨拶をした遊に対して、
ヒガンは明らかに拒絶の意思を示した。
遊の台詞や行動が全くがっかりしていない芝居がかっているように見える。
そして、遊はヒガンを通り越し、私の傍に立つと、顔を近づけ、耳元でこう囁いた。
それは、私の奥底に眠る感情を揺さぶるには十分だった。
彼は、そう言い残すと、いつの間にか消えていった。
















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。