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第4話

8
2025/08/26 01:00 更新



 何かがフラッシュバックしてくる。白い空間、何か紙に文字を書く音。そして、もがき苦しむ声が。


シロ
シロ
っ…!はっ…はっ…
 現実へと戻って来た時には、私は顔は真っ青で、荒い呼吸を繰り返し、冷や汗をかいていた。
ヒガン
ヒガン
…シロ…すまん。もっと早く止めるべきだった…
シロ
シロ
ヒガンさんの所為じゃない…ですよ…
 ヒガンさんは、こういった場面を何度も何度も見てきたことだろう。最後まで目をそらすことなく。
シロ
シロ
それで、これが彼の記憶、そして彼の迷い未練ってことですか?
ヒガン
ヒガン
そうだ。
 真っ暗闇の中、一人ぼっちで、最愛の両親に会うことなく。
悠斗
おねえちゃんたち、だいしょうぶ?
 悠斗の純粋無垢な瞳はその事に気付かず…なのか、目を背け、ただただ両親を探し求めている。
悠斗
…おねえちゃん?
 気づいたら、私はしゃがみ込み悠斗を優しく包み込んでいた。
シロ
シロ
寒かったね…寂しかったね…苦しかったね。もう大丈夫、きっとお母さんとお父さんに会えるよ…
 そう優しく声をかけた。
シロ
シロ
そうだよね、ヒガンさん。
ヒガン
ヒガン
…ああ、この“彼岸の送迎人”が、其方の迷い未練を無くし、彼岸へと導こう。
 私はやっと気づいた。

 彼の仕事の意味を。
 そして、“彼岸の送迎人”が存在する訳に。
悠斗
ここは…?きれいなおはなばたけだね。
ヒガン
ヒガン
此岸の者と迷人が唯一出会える場、“追憶の地 蘇芳”だ。
 今度は、悠斗くんを連れて私たちは再び“岸渡りの門”を潜る、蘇芳へと戻って来た。
悠斗
でも、このおはなすこしこわいな。
 目の前に広がる赤い彼岸花の花畑は、快晴の空の下であろうと少し不気味なオーラを発しているように見えないこともない。
シロ
シロ
この赤い花はね、彼岸花っていうんだよ。
シロ
シロ
色んなお花には、花言葉っていうのがあってね、お花の種類や色によって、相手に感謝を伝えたり、励ましたりできるの。
 どうして覚えてるのかは分からないけど、ふと頭に浮かんだ。

シロ
シロ
赤い彼岸花の花言葉は“再会”…



 昔から墓地に植えられ、血のような赤い花弁から、不吉なイメージを持たれやすいが、その花言葉は、“情熱”など明るい意味もあれば、別れなどを連想させる悲しい意味を持つ花でもある。
シロ
シロ
… ほら、あの二人は、君のお母さんとお父さんじゃないかな?
 彼岸花畑の向こうから一組の男女の姿が見えからだ。
悠斗
あ…!ほんとだ!おねえちゃんとおにいちゃんありがとう…!
 悠斗は晴れやかな笑みを浮かべると、私たちに向かって大きく手を振りながら、駆け出した。
悠斗
おかあさんっ…おとうさんっ…!
 目には溢れんばかりの浮かべ、頬を高揚させ、一生懸命足を動かしている。
まあ、悠斗じゃないの!どこ行ってたの?お母さん、とっても心配して…
母親はそう言うと、悠斗を優しく抱きしめ、
もう、離れないでくれよ、悠斗。これからは三人でずっと一緒に居ような。
父親はわしゃわしゃと頭を撫でた。
悠斗
…うん!
やっと家族は、彼岸花の元で“再会”したのだ。
シロ
シロ
はあ…。
 ヒガンの自宅を離れ、私は鬱蒼とした林をトボトボと歩いている。
_@_
おじょーちゃん、浮かない顔してどうしたのかな?
 突然人懐っこく明るい声とともに、目に前に上下逆さまの頭が現れた。
シロ
シロ
っ…誰…?迷人?
 驚いて一歩身を引いたが、一人の青年が木の幹に両足を引っ掛け、ぶら下がっていただけだった。

 真紅の髪はウルフカットのように襟足が少し長く、糸目で瞳は見えない。左目に泣きぼくろと、両耳の派手なピアスが目を引く。そして、暗い赤の朱殷色の長袍を身に着けている。
遊
ざんねーん、ハ・ズ・レ。オレは遊。良い名前だろ?
遊
記憶喪失の迷人ちゃん?
 くるりと一回し、地面に裾をふわりとさせて舞い降り、そう名乗った。
シロ
シロ
…?私はシロっていいます。…遊さんは、ヒガンさんのお知合いですか?
 どうやら彼は、ヒガンから聞いたのか、私が記憶喪失なことを知っているようだ。
遊
シロちゃんか!良い名前だね。 アイツが付けそうな名前だ…。
遊
そうだね、アイツとは旧知の仲さ。
シロ
シロ
そうなんですか。えっと…呼んで来ましょうか?
多分、今なら自宅にいるはずだ。
遊
いーや、大丈夫。オレが今日ここに来た理由は、君に会うためだからさ。
シロ
シロ
(この人…少し怖いな…)
 顔は笑ってるように見えても、目が笑っていない。そんなように私の眼には映った。
遊
どうしてか分かるかい?
 遊はその言葉に合わせて、左手のひらをくるりと回し私に向けた。
シロ
シロ
え?いや…
 ヒガンさんの知人が、なぜ初対面の私に用があるのだろう。




遊
アイツにご執心の女がいるって聞いたからさ。



シロ
シロ
はい…?
 さも当然のように言われ、反射的に聞き返してしまった。
ヒガン
ヒガン
なんだ、その根も葉もない噂は。
 遊がやって来たことに気付いてなのか、我々の話題の中心、ヒガンもやって来て、私と遊の間に立った。
遊
やあ…ヒガン!元気にしてたかい?
 気草に挨拶をした遊に対して、
ヒガン
ヒガン
失せろ、ユウ。彼女に近づくな。
 ヒガンは明らかに拒絶の意思を示した。
遊
連れないなー。まあ、そんな事はどうでもいいや。
 遊の台詞や行動が全くがっかりしていない芝居がかっているように見える。

そして、遊はヒガンを通り越し、私の傍に立つと、顔を近づけ、耳元でこう囁いた。
遊
ねえ、シロちゃん。オレのところに来ない?





遊
“嫌な記憶をぜーんぶ、忘れさせてあげる”。





 それは、私の奥底に眠る感情を揺さぶるには十分だった。
シロ
シロ
……。
遊
またねー。シロちゃんに…ヒガン。
 彼は、そう言い残すと、いつの間にか消えていった。

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