あなたside
カチ カチ カチ カチ
時計の音だけが、辺りに響く。
薄暗い待合室で一人、手を握り締める私。
夕日の光が窓から差し込む。
不安が渦巻く私の心とは裏腹に、綺麗な光。
唯一の人工灯は、私を嘲笑うかのように光る。
『 手術中 』
何分待ったか、分からない。
一向に消えない、赤い光。
とっくに五分を過ぎている。
「 持って五分。 」
絵里の言葉が、脳内で響く。
お願い、
お姉ちゃんを奪わないで…!!
玲王と凪君、そして絵里が駆け寄ってくる。
ランプを見て、察したらしい。
悔しそうに顔を歪める。
四人で、只管待ち続ける。
無言の時を過ごして、無力さに嘆いて。
でも、誰も泣かなかった。
お姉ちゃんは生きる。
そう、信じていたかったから。
ふっとランプが消える。
びくっとして、手術室の扉を見つめた。
医師の方が中から出てくる。
その口が開かれるのを、緊張しながら待つ。
目を見開く。
喜びが駆け巡り、言葉にならない声となる。
成功……
生きてる…!!
医師の方に病室を教えて貰い、向かう。
ガラガラガラッ
扉を開けると、ベッドが目に映る。
横たわっているのは、お姉ちゃん。
微かに、胸が上下している。
駆け寄って手を握れば、温かい体温。
お姉ちゃんが生きている事を、物語っていた。
安心して、息をつく。
良かった、
誰も失わなかった……
「 分かってた、 」なんて呟く絵里。
寂しさと切なさが浮かぶ表情。
私は、絵里の手を握った。
そう。
生きている限り、必ず戻って来れる。
お姉ちゃんも、巫先輩も。
絶対戻って来る。
それは必然だから。
コン コン コン
警察の人が胸ポケットから紙を取り出す。
丁寧に折り畳まれたそれを、差し出された。
………?
警察の方を見送り、紙を開く。
『 あなたの呼ばれ方ちゃんへ 』
綺麗な字で書かれた言葉。
その下へと、視線を滑らせた。
───
あなたの呼ばれ方ちゃんへ
僕は、君への好意を理由にしていただけだったみたいです。
僕はただ、誰かに愛して欲しかった。
確かに僕は君の事が好きでした。
でも、それは歪んだ。
何の気の迷いか、殺人まで犯そうとしていた。
愛に飢えていた、なんて、言い訳にしかならないよね。
でも、君のお陰で気づけました。
大切なものは、すぐ近くにあるんだと。
君の幸せを壊そうとした事、本当にごめん。
幸せになってね。
巫 龍斗
───
……大切なものは、すぐ近くにある、か。
そうかもしれない。
巫先輩は、気づけたんだ。
これからは、真っ直ぐな愛を持てるはず。
安心して、紙を閉じようとした。
ひらっともう一枚、紙が落ちる。
『 絵里ちゃんへ 』
……、
手紙だろう。
絵里に、紙を渡す。
絵里はじっとそれを見つめ……
幸せそうに、でも辛そうに、泣き笑いをした。
絵里が握る紙には、一言だけ。
『 桔梗の花を、貴女に。 』
……回りくどい、
でも巫先輩らしい。
そんな、愛の伝え方。
色んな話をした。
今までの事、これからの事。
気づけば、太陽は沈んでいて。
私達は、病室で眠りについた。
今度こそ、過去には戻らない。
そう、信じてる。
聞き覚えのある声で、目を覚ます。
……目を覚ましたんだ、
笑いが込み上げる。
お姉ちゃんは、今日の朝早くに目が覚めたらしい。
意外と早い目覚めに、驚かれたそう。
流石お姉ちゃん……笑
名前を呼ばれ、玲王を見る。
その嬉しそうな表情に、全てを悟った。
立ち上がり、玲王に抱き着く。
玲王は私を受け止めて笑った。
貴方だけは、誰にも奪わせない。
貴方だけは、絶対に守る。
貴方となら、何をしても幸せ。
貴方となら…………何だって出来る。
これは私と玲王の、幸せへの物語。
「 貴方だけは。」 𝐹𝑖𝑛𝑒













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!