第86話

85.貴方だけは。
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2023/12/23 06:43 更新
あなたside





カチ カチ カチ カチ


時計の音だけが、辺りに響く。


薄暗い待合室で一人、手を握り締める私。


夕日の光が窓から差し込む。


不安が渦巻く私の心とは裏腹に、綺麗な光。


唯一の人工灯は、私を嘲笑うかのように光る。




『 手術中 』




何分待ったか、分からない。


一向に消えない、赤い光。


とっくに五分を過ぎている。




「 持って五分。 」




絵里の言葉が、脳内で響く。




お願い、


お姉ちゃんを奪わないで…!!





御影 玲王
あなたの呼ばれ方!
あなた
……玲王、







玲王と凪君、そして絵里が駆け寄ってくる。


ランプを見て、察したらしい。


悔しそうに顔を歪める。






柊 絵里
ごめん、私が先輩を止めてれば…っ!
あなた
ううん、絵里が居なかったら、あのまま死んでた。絵里の応急処置のおかげだよ。
柊 絵里
……曲がりなりにも、医療関係者の親が居るから…
あなた
うん、ありがとう。絵里が居て良かった。
柊 絵里
……そっか、








四人で、只管待ち続ける。


無言の時を過ごして、無力さに嘆いて。


でも、誰も泣かなかった。


お姉ちゃんは生きる。


そう、信じていたかったから。





ふっとランプが消える。


びくっとして、手術室の扉を見つめた。


医師の方が中から出てくる。


その口が開かれるのを、緊張しながら待つ。








医師
手術は、" 成功 " です。一命は取り留めました。
あなた
……っ!!








目を見開く。


喜びが駆け巡り、言葉にならない声となる。


成功……


生きてる…!!







医師
応急処置が功を奏しました。
あなた
……ほんとにありがとう、絵里。
柊 絵里
…あなたの呼ばれ方に沢山迷惑かけたから、少しでも償いになれたら…
あなた
そんなの要らないよ。助けてくれて、ありがとう。
柊 絵里
…うん。
医師
まだ目を覚ましませんが、その内覚ますでしょう。完全に回復するまで入院ですが、
あなた
大丈夫です。…有難う御座います。
医師
いえ、助けられて良かったです。病室は此方になりますので……









医師の方に病室を教えて貰い、向かう。




ガラガラガラッ




扉を開けると、ベッドが目に映る。


横たわっているのは、お姉ちゃん。


微かに、胸が上下している。


駆け寄って手を握れば、温かい体温。


お姉ちゃんが生きている事を、物語っていた。



安心して、息をつく。


良かった、


誰も失わなかった……






御影 玲王
……終わった、な。
あなた
…うん。
凪誠士郎
漸くかぁ…
あなた
長かったよね、
柊 絵里
……先輩、どうなるのかな…、
あなた
……もう未成年じゃないからね、それなりの罰は食らうと思う…けど、
柊 絵里
……そっかぁ…
御影 玲王
検察官逆送になるかもな、
柊 絵里
………うん、









「 分かってた、 」なんて呟く絵里。


寂しさと切なさが浮かぶ表情。


私は、絵里の手を握った。







あなた
巫先輩は、ちゃんと帰ってくるよ。帰ってきて、ただいまって言ってくれる。それまで、一緒に待とう?
柊 絵里
……そうだね。








そう。


生きている限り、必ず戻って来れる。


お姉ちゃんも、巫先輩も。


絶対戻って来る。


それは必然だから。





コン コン コン







警察
失礼します、警察です。
あなた
……さっきはお世話になりました…、
警察
いえいえ。事情聴取を…と言いたい所ですが、疲れていますよね。まだ未成年でしょう?親御さんは…
あなた
親には連絡をするつもりです。
警察
あぁ、なら良かった。後日事情聴取をお願いしたいんですが…
あなた
大丈夫です。予定合わせておきます。
警察
感謝します。あ、それと…





警察の人が胸ポケットから紙を取り出す。


丁寧に折り畳まれたそれを、差し出された。


………?





警察
事情聴取の際、巫さんから渡してくれと頼まれたものです。
柊 絵里
………先輩から、?
警察
はい。自分は仕事があるので、これで失礼します。







警察の方を見送り、紙を開く。


『 あなたの呼ばれ方ちゃんへ 』


綺麗な字で書かれた言葉。


その下へと、視線を滑らせた。



───



あなたの呼ばれ方ちゃんへ

僕は、君への好意を理由にしていただけだったみたいです。
僕はただ、誰かに愛して欲しかった。
確かに僕は君の事が好きでした。
でも、それは歪んだ。
何の気の迷いか、殺人まで犯そうとしていた。
愛に飢えていた、なんて、言い訳にしかならないよね。
でも、君のお陰で気づけました。
大切なものは、すぐ近くにあるんだと。
君の幸せを壊そうとした事、本当にごめん。
幸せになってね。

巫 龍斗


───



……大切なものは、すぐ近くにある、か。


そうかもしれない。


巫先輩は、気づけたんだ。


これからは、真っ直ぐな愛を持てるはず。


安心して、紙を閉じようとした。



ひらっともう一枚、紙が落ちる。




『 絵里ちゃんへ 』




……、






あなた
絵里。
柊 絵里
……?
あなた
先輩から、絵里に。
柊 絵里
…え、







手紙だろう。


絵里に、紙を渡す。


絵里はじっとそれを見つめ……





柊 絵里
……ふふ、何で今なの……







幸せそうに、でも辛そうに、泣き笑いをした。



絵里が握る紙には、一言だけ。





『 桔梗の花を、貴女に。 』





……回りくどい、


でも巫先輩らしい。


そんな、愛の伝え方。









色んな話をした。


今までの事、これからの事。


気づけば、太陽は沈んでいて。


私達は、病室で眠りについた。



今度こそ、過去には戻らない。


そう、信じてる。










.
あなたの呼ばれ方。







聞き覚えのある声で、目を覚ます。



……目を覚ましたんだ、







永原莉奈
風邪引くわよ?笑
御影 玲王
昨日、あのまま寝てたみたいだな。
柊 絵里
うー、体痛い…
凪誠士郎
眠……







あなた
……ふふ、









笑いが込み上げる。


お姉ちゃんは、今日の朝早くに目が覚めたらしい。


意外と早い目覚めに、驚かれたそう。


流石お姉ちゃん……笑








御影 玲王
あなたの呼ばれ方!







名前を呼ばれ、玲王を見る。








御影 玲王
今日は何月何日だと思う?





その嬉しそうな表情に、全てを悟った。


立ち上がり、玲王に抱き着く。






あなた
10月1日!







玲王は私を受け止めて笑った。









御影 玲王
正解!











貴方だけは、誰にも奪わせない。


貴方だけは、絶対に守る。


貴方となら、何をしても幸せ。


貴方となら…………何だって出来る。




これは私と玲王の、幸せへの物語。







「 貴方だけは。」 𝐹𝑖𝑛𝑒

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