僕は、自分が舞夏に
連絡し終わってから、少しだけ
心乃の様子が変わったのが
わかった。
僕にしかわからない、
微妙なものの変化だった。
心乃はふぅ、と息をつくと
テレビをつけて、"猫" と一緒に
いつものソファーに
しゃがみこむように座った。
僕は、僕にしか出来ないような事をした。
静かに横に、君と同じように座って
過ごすことだ。
僕にはそれしか出来なかった。
それで、いいと思った。
そのまま誰も何も
話さずに時が流れていった。
"猫"が動いた反応で
君の肩が僕に
少しだけもたれかかってきた。
"猫"がタイミングを
見計らったように、君の
そばを離れた。
"猫"がいた、僕と君の間に
君が代わりに手を置いた。
その瞬間、僕は君の手を握った。
静かに君は、驚いた顔で
僕を見たけど、ちょっぴり緊張して
目を合わせなかった。
君は少し笑って、泣いた。
太陽から流れた雫を感じて、
さっきよりもしっかりと
君の手を握った。
言い終わる前に、
君が僕に額と額を合わせてきた。
目を瞑ったまま、
と深く息を吐いて、
額を離した。
少し経って、
そう言って笑いあった。
目的を忘れて、二人でいつの間にか
同居していた。
テキトーな者同士だから
一緒にいても、楽だったのか。
君の笑顔に嘘はない。
いつもと同じ、明るい笑顔。
忘れない、忘れたくない。
僕の一瞬の胸のざわめきも
君の太陽のような笑顔も
僕の君への想いも。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!