ガクくんは恐るべきことに、翌日には歩き回っていた。
朝起きてみれば刀也さん朝ごはんできたよーなんて呑気に言うものだから僕は仰天して、無理が祟った重い体を引きずってガクくんに掴みかかった。
もっと寝てろと言ったが当の本人はけろっとしていて、目に包帯を巻きつけたまま元気に生活していた。
目隠しされていても歩けるのかと訊いてみれば、目という一器官が無くなったところで神力で物を見ることはできるから問題ないというのが彼の言い分だった。
便利だな神力って。心眼みたいなこともできるんだな。
僕は宣言通り、一週間をガクくんの隣で過ごした。
家や学校には連絡しつつも行かなかった。
ガクくん曰く僕は521回もこの一年を繰り返しているらしいから、521年プラス普通に生きてきた16年分の身近な人たちの思い出を持っている。もう充分だったのだ。
それよりもガクくんと過ごすことの方が重要だった。
僕らの最後の一週間は、二人で料理をしてみたり夏祭りの真似事をやってみたりと随分穏やかで気の抜けた日々だった。
そしてとうとう8月22日がやってきた。
ガクくんがどこからか引っ張り出してきた浴衣に身を包み、神社の縁側に二人で腰掛けた。
二人で話し込んでいるうちに徐々に日が暮れてあたりは暗くなり、蛍が飛び始めた。
「花火はあっちの方らしいっすよ。」
ガクくんが暗い空を指差した瞬間、そこに大きな赤い花が咲いた。
小さな花がそれを追ってパッと花開き、一瞬遅れて重低音が鼓膜を揺らす。
「おお…こんな穴場があったとは…」
8月22日の花火は、僕にとって絶望の象徴だった。
この花火が終われば、僕の積み重ねた一年は跡形もなく消えてしまうから。
だからいつしか花火を見るのをやめた。
しかし、この神社から伏見ガクと見る花火はまた違った味があった。
同じ花火を新鮮な気持ちで見つめた。
「綺麗っすね刀也さん。」
「夏って感じがするな…」
寄り添うように並んで座り、隣にガクくんの息遣いを感じながら花火に見入った。
はたして目隠しされた状態で神力に頼って見る花火が美しいのかというツッコミは野暮なので控えておいた。
無言で次々と打ち上がる花火を眺める時間が続いた。
花火が咲くたびにその光がガクくんの顔に当たって妖艶な狐顔を浮かび上がらせた。
熱帯夜の蒸し暑い空気の中で僕らはただひたすら花火に見入った。
これが僕らで過ごす最後の時間だと互いに知っていたから。
この時間を一秒も取りこぼさないように。











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!