side No.
六奏学園 旧校舎二階の端。
黒いカーテンで覆われた視聴覚室。
机上に並べられた
ノートパソコン。
双眼鏡、手作りのうちわ
非公式推しCpグッズ。
そして、教室前方にある
ホワイトボードへと
映し出されているのは、
『 六奏皇子の相関図 』
ふわりと揺れるのは、
パーマのかかった柔らかい茶髪。
丸い銀色の眼鏡を押し上げて
教卓に立ったのは
無類の恋愛好きで知られる
教務主任・城ヶ崎 奏楽。
六奏皇子非公式ファンクラブ連合
通称・「六奏会」の総合代表である。
真剣に話を聞き、
ノートをとる生徒たち。
その熱量は通常授業を
遥かに上回っている。
その場に集まっている生徒たちは
「六奏会」の中でも最大派閥を形成する
「Cp部門」の生徒たち...
...、つまるところ、
「腐女子・腐男子の集い」という訳だ。
ちなみに極少数ではあるが、
「六奏会」には「夢部門」
というものも存在する。
こちらは所謂「ガチ恋勢」の集いである。
その為かなり民度も悪い。
余談だが「Cp部門」と
「夢部門」の生徒は基本的に相容れない。
顔を合わせれば喧嘩勃発。
混ぜるな危険ということだ。
意気揚々とホワイトボードに
文章を書き連ねる。
『 1.緑黄のデート確定 』
『 2.瑞桃両片想い説 』
『 3.会長の恋の行方は 』
かなりの熱の籠った
歓声が上がる。
城ヶ崎先生は満足気に
微笑むと再び口を開く。
教室中に熱気を孕んだ
歓声が響き渡った。
議論の白熱している中、
城ヶ崎先生はホワイトボードに
一つの動画を流し出した。
生徒たちの視線は
一瞬にしてモニターへと
くぎ付けになる。
一斉に騒めく主に赤桃派。
城ヶ崎先生は再びリモコンを手に取る。
そうして、もう一つの
動画も再生され始めたのだった。
誰かのそんな一言で
口論が始まった。
視聴覚室の熱量は
文化祭や体育祭を
遥かに上回っていた。
静かな廊下に、
怯えたような藍の声が響いた。
その隣で恋鮫は優しい
声音で答える。
否定しようとした藍の
冷たく、震えている白磁の如き掌を
柔らかく、包み込むように握った。
...まるで、割れ物を扱うかのように。
光の差し込まない、薄暗い廊下を
お互いの触れ合う肩だけを頼りに
少しずつ、進んで行く。
恋鮫がそっと扉を開けた
...その瞬間、一つの声が響いた。
...時が、止まった。
ファンクラブの面々は
一様に凍り付いている。
飽くまで純粋な疑問として
問いかけてきた藍に
恋鮫は笑いを禁じえなかった。
、、、藍からの問い掛けに
ようやっと理解が追い付いてきた
ファンクラブの面々は...
...大パニックになったのだった。
数分後。
見事な、最早芸術的と
言っていいほどに
美しい土下座を前にして、
藍は未だ全てを
理解しきれてはいないものの、
小さく息を吐いた。
恋鮫はというと
にこにこしながら事実へと
訂正させている。
藍は少し戸惑ったかのように
城ヶ崎先生へ向き直った。
恋鮫の視線の先の
ホワイトボードには
恋鮫の位置から
視認できるだけで
「 紫→桃 」
「 赤→桃 」
「 水→緑 」
「 緑→黄 」
そう、書いてあるのが確認できた。
恋鮫はそっと藍の耳を
両手で塞ぐと
妖美な笑みを浮かべて
言い放った。
二人が去った後、
入口から見えない位置へと
設置されたホワイトボードに
「 瑞→桃 」と
書き加えられたのは
言わずもがなである。
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。