春の光が窓から差し込む午後の教室。
まだ新しい制服の袖が少し長くて、
湊は手をそっと握る。
担任の言葉に促され、黒板の前に立った彼女は、
少し戸惑いながら頭を下げた。
その瞬間だった。
教室の空気が、一瞬だけ変わった気がした。
騒がしいクラスが一瞬静まり返り、
誰かが思わず声を漏らす。
耳に飛び込んできたその名前に、
雫は小さく目を見開く。
でも、それにすぐ返事はできなかった。
ただ、頭の奥で心臓の音だけが大きく響いていた。
どこかで聞いたことのある名前。
けれど、はっきりとした記憶は浮かばない。
けれど、その名前を聞いた瞬間、
胸の奥が、どうしようもなく騒ぎ出す
放課後の音楽室。
窓から差し込む夕日が、鍵盤を黄金色に染めていた。
雫は、静かに座り、ピアノに指を置いた。
そして、ごく自然に、あるメロディを奏でる
その旋律は、自分がどこで覚えたかもわからない歌。
でも、なぜか歌詞も音も——全部、
指と喉が覚えている。
音楽室の外で、誰かがその歌声に立ち止まった。
そしてスマートフォンを取り出し、録画を始める。
数日後——SNSに、その動画が投稿された。
《この声、神代湊じゃないの……?》
《新しい子? でも声が完全に一致してる……》
《マジで本人だったら泣く》
《#湊の帰還 #歌姫の再来》
その動画は一晩で数十万再生を超え、
かつて神代湊のファンだった人々がざわつき始めた。
そして、雫のもとに、一本の連絡が入る。
『君の歌声、探してたんだ。』
『芸能事務所“ STARTO ENTERTAINMENT”だ。話を聞かせてくれないか?』
そうして、彼女はもう一度——
「アイドル」という光の中に、呼び戻される。
それが、自分の“運命”だとも知らずに。
続く








![# 攻略対象より悪役に惚れました . [ 冬司ver ]](https://novel-img-gcs.prepics-cdn.com/prcmnovel-tokyo-prod-converted-images/p/463Ienje96SMnaxqeg7tvIaFh9p1/cover/01K566339R5TNCGP01WCWNSK9G_resized_240x340.jpg)




編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!