第2話

わたしの声じゃない気がする
219
2025/09/28 12:33 更新
春の光が窓から差し込む午後の教室。
まだ新しい制服の袖が少し長くて、
湊は手をそっと握る。
先生
先生
じゃあ、自己紹介して貰おうか。
担任の言葉に促され、黒板の前に立った彼女は、
少し戸惑いながら頭を下げた。
瀬名雫
……瀬名雫です。
よろしくお願いします。
その瞬間だった。
教室の空気が、一瞬だけ変わった気がした。
騒がしいクラスが一瞬静まり返り、
誰かが思わず声を漏らす。
クラスメイト(モブ)
えっ……“湊”……?
クラスメイト(モブ)
声……似てない? ほら、あの人に……
クラスメイト(モブ)
……神代 湊……?
耳に飛び込んできたその名前に、
雫は小さく目を見開く。
でも、それにすぐ返事はできなかった。
ただ、頭の奥で心臓の音だけが大きく響いていた。
瀬名雫
神代あなた…。
どこかで聞いたことのある名前。
けれど、はっきりとした記憶は浮かばない。
けれど、その名前を聞いた瞬間、
胸の奥が、どうしようもなく騒ぎ出す
瀬名雫
 なんで、そんなに苦しくなるの……?
放課後の音楽室。
窓から差し込む夕日が、鍵盤を黄金色に染めていた。
雫は、静かに座り、ピアノに指を置いた。
そして、ごく自然に、あるメロディを奏でる
瀬名雫
♪〜止まったままの時計に私の声を
重ねるよ……
その旋律は、自分がどこで覚えたかもわからない歌。
でも、なぜか歌詞も音も——全部、
指と喉が覚えている。
瀬名雫
 この曲……なんで、歌えるの?
音楽室の外で、誰かがその歌声に立ち止まった。
そしてスマートフォンを取り出し、録画を始める。
数日後——SNSに、その動画が投稿された。
《この声、神代湊じゃないの……?》
《新しい子? でも声が完全に一致してる……》
《マジで本人だったら泣く》
《#湊の帰還 #歌姫の再来》
その動画は一晩で数十万再生を超え、
かつて神代湊のファンだった人々がざわつき始めた。
そして、雫のもとに、一本の連絡が入る。
『君の歌声、探してたんだ。』
『芸能事務所“ STARTO ENTERTAINMENT”だ。話を聞かせてくれないか?』
そうして、彼女はもう一度——
「アイドル」という光の中に、呼び戻される。
それが、自分の“運命”だとも知らずに。
続く

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