山の中腹の岩陰から、赤ん坊は両親の修羅場をじっと見つめている。
ナワーブ・サベダー
ほら!ガキが見てるぞ?さっさと頂上まで登っちまおうぜ…。
ルカ・バルサー
ああ、そうだな…。子供が見ている前で…するような話ではなかった…。答えに困らせてしまい…すまない…。
ナワーブ・サベダー
帰ったらガキを女将さんにでも預けて、さっきの件は話し合おう。
ルカ・バルサー
護衛の契約を…破棄すると言う…話し合いかね?それなら…今ここでも…。
ナワーブ・サベダー
そうじゃない!とにかくガキが見てる前では話しづらいから、今日はここまでだ…。
ルカ・バルサー
わかった…。頂上までは…君の手を借りたい…。報酬は…もちろん支払うよ…。
ナワーブ・サベダー
了解!お前みてぇな金払いの良い上客の依頼を、俺が破棄するわけねぇだろ?
その後は三人とも沈黙のままで、黙々と頂上を目指して進んだ。
ホムンクルス
オトウサマ、オカアサマ!サンチョウガ、ミエテキマシタヨ?
ナワーブ・サベダー
ああ、意外と楽に山頂に着いたな?バルサーは大丈夫か。
ルカ・バルサー
ううっ…吐きそうだ。何も食べていないから…胃液が逆流して…、オェッ!
ナワーブ・サベダー
おいおい、全然大丈夫じゃねぇな?だから五合目で引き返そう、って言ったのに…。
ナワーブがルカの背中を撫でてやると、ルカは嫌がってナワーブの手を振り払った。
ホムンクルス
オトウサマ、オカアサマ、ケンカハ、ヤメテクダサイ…。
ナワーブ・サベダー
喧嘩なんかしてねぇよ?あとでちゃんと話し合いするから、ガキは心配すんな。
ルカ・バルサー
弁当を持って来てあるから、絶景を見ながら食べようか?
ホムンクルス
ワタシモ、ベントウヲ、タベテ、ヨイデスカ?ミルクハ、マズクテ、モウノミタクナイ…。
ルカ・バルサー
私の弁当は辛いから子供の口には合わないと思うが…。
ホムンクルス
ソノ、エビチリ、オイシソウデス…。ヒトツ、クダサイ!
トウガラシがたっぷり入ったエビチリを、赤ん坊は手掴みで美味しそうに食べている。
ナワーブ・サベダー
やっぱりこのガキも辛党か…。バルサーにそっくりだな。
ホムンクルス
オトウサマノ、ベントウモ、オイシソウナノデ、ヒトツ、クダサイ!
ナワーブ・サベダー
ああ、良いぜ?女将さんに頼んで作ってもらったんだが、確かこれはだし巻き卵って言ってたな。
ホムンクルス
コレモ、オイシイデス!ダシマキタマゴ、モットタベタイ。
ナワーブ・サベダー
ガキの癖によく食うなぁ。俺の分がなくなっちまうよ?卵が好きなところは俺に似たのか…。
ルカ・バルサー
私のエビチリをあげるから、それ以上サベダーの弁当を食べるのは辞めなさい。
結局、二人の弁当を赤ん坊が半分ずつ平らげてしまったので、両親は空腹が満たせなかった。
ルカ・バルサー
失敗した…。この子の分の弁当も用意してくるべきだった…。
ナワーブ・サベダー
俺たちの弁当半分ずつだから、一人前と同じくらいの量を食ってんぞ?このガキ…。
ホムンクルス
オナカ、イッパイニ、ナリマシタ!モウ、タベラレマセン…。オイシカッタヨ。
ナワーブ・サベダー
そんじゃ、下山するか!今夜も女将さんの店に飲みに行きたいところだが、ガキを預けて話し合いするんで、別の店を予約できるかい?
ルカ・バルサー
初めて君と飲みに行った店なら…、研究所から少し遠いが…。
ナワーブ・サベダー
あの店か…。ガキは俺が預けて来るから、予約して待っててくれ。
ルカ・バルサー
わかった…。店の中で話すのは他の者に聞かれそうだから、二階の部屋を取っておくよ。
下山は舗装された初心者コースを通って、ナワーブは赤ん坊を背負ってバスに乗り込む。
ルカ・バルサー
私は別のバスに乗って目的地へ向かう。店で待ってるから後で合流しよう。
ナワーブ・サベダー
おう、ガキを預けたら俺もバスで行くけど二時間くらいかかるかな…。
ルカ・バルサー
色々と気持ちを整理したいから、時間はかかって構わないよ。
ナワーブ・サベダー
なるべく待たせないようにすぐに行くぜ。そんな深刻な顔するな。悪いようにはしないから。
ルカは先に到着したオシャレなバーのカウンターで塞ぎ込んでいる。
ルカ・バルサー
まさか子供の口から私の気持ちがサベダーにバレてしまうとは…。一体、どうしたら良いんだ…。
![酒場のマスター](/assets/img/official-character-icons/gentleman_9.png)
酒場のマスター
ご注文のブラッディ・サムです、どうぞ。
ルカ・バルサー
はぁ…もう終わりだ…。今まで通りの関係ではいられなくなるだろう…。
![酒場のマスター](/assets/img/official-character-icons/gentleman_9.png)
酒場のマスター
お客さん、どうかされましたか?ため息なんかついて…。
ルカ・バルサー
これから別れ話をする事になると思う…。二階の部屋を予約しておいてくれないか?
![酒場のマスター](/assets/img/official-character-icons/gentleman_9.png)
酒場のマスター
別れ話ですか…。それはさぞ、おつらいでしょうね。私で良ければ、愚痴をお聞きしますよ?
いいねして作者を応援しましょう!
第17話 酒に酔い潰れて
が好きなあなたにおすすめの小説
コンテスト受賞作品
もっと見るONE N’ ONLYオーディオドラマ原案コラボコンテスト
公式TikTokの注目動画
もっと見る![チャレンジ作家案内ページへ](https://storage.googleapis.com/prcmnovel-tokyo-prod-official/banner/challenge-stop.png)
チャレンジ小説
もっと見る- 恋愛
ヒーローと結ばれた悪役
嘘を付くのはいけないこと いけないことをするのは悪役。 悪役も市民もかっこよく救っていく それが、強く優しいヒーロー。 これは 嘘を重ねて生きてきた悪役と 悪役の嘘を見抜いたヒーローの 救いの恋愛ストーリー。 表紙は表紙メーカーを 使用させていただいています 【2021年10月30日完結】
- ファンタジー
いやだから吸血鬼たちに巻き込まれてんだって
思いを伝えることが、自分の覚悟だけで成立するのなら、どれほど楽なのだろう。 初作品 フィクション 長くなるかも ちょいちょいコメント欄で補足説明してます バトルです。流血などがNGの方は今すぐ後ろを向いてください。
- ファンタジー
なんでも買い取り屋
服、アクセサリー、小物、家具、本───── この世には買い取れる"物"が沢山あるよね。 ……けどここは違う。 お金が欲しいなら行ってみてごらん? ほら、そこの扉を開けてみて。 何の"モノ"でも買い取って貰えるよ── ──────────────────
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。