第16話

修羅場に子は鎹
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2024/07/04 20:03
山の中腹の岩陰から、赤ん坊は両親の修羅場をじっと見つめている。
ナワーブ・サベダー
ナワーブ・サベダー
ほら!ガキが見てるぞ?さっさと頂上まで登っちまおうぜ…。
ルカ・バルサー
ルカ・バルサー
ああ、そうだな…。子供が見ている前で…するような話ではなかった…。答えに困らせてしまい…すまない…。
ナワーブ・サベダー
ナワーブ・サベダー
帰ったらガキを女将さんにでも預けて、さっきの件は話し合おう。
ルカ・バルサー
ルカ・バルサー
護衛の契約を…破棄すると言う…話し合いかね?それなら…今ここでも…。
ナワーブ・サベダー
ナワーブ・サベダー
そうじゃない!とにかくガキが見てる前では話しづらいから、今日はここまでだ…。
ルカ・バルサー
ルカ・バルサー
わかった…。頂上までは…君の手を借りたい…。報酬は…もちろん支払うよ…。
ナワーブ・サベダー
ナワーブ・サベダー
了解!お前みてぇな金払いの良い上客の依頼を、俺が破棄するわけねぇだろ?
その後は三人とも沈黙のままで、黙々と頂上を目指して進んだ。
ホムンクルス
ホムンクルス
オトウサマ、オカアサマ!サンチョウガ、ミエテキマシタヨ?
ナワーブ・サベダー
ナワーブ・サベダー
ああ、意外と楽に山頂に着いたな?バルサーは大丈夫か。
ルカ・バルサー
ルカ・バルサー
ううっ…吐きそうだ。何も食べていないから…胃液が逆流して…、オェッ!
ナワーブ・サベダー
ナワーブ・サベダー
おいおい、全然大丈夫じゃねぇな?だから五合目で引き返そう、って言ったのに…。
ナワーブがルカの背中を撫でてやると、ルカは嫌がってナワーブの手を振り払った。
ホムンクルス
ホムンクルス
オトウサマ、オカアサマ、ケンカハ、ヤメテクダサイ…。
ナワーブ・サベダー
ナワーブ・サベダー
喧嘩なんかしてねぇよ?あとでちゃんと話し合いするから、ガキは心配すんな。
ルカ・バルサー
ルカ・バルサー
弁当を持って来てあるから、絶景を見ながら食べようか?
ホムンクルス
ホムンクルス
ワタシモ、ベントウヲ、タベテ、ヨイデスカ?ミルクハ、マズクテ、モウノミタクナイ…。
ルカ・バルサー
ルカ・バルサー
私の弁当は辛いから子供の口には合わないと思うが…。
ホムンクルス
ホムンクルス
ソノ、エビチリ、オイシソウデス…。ヒトツ、クダサイ!
トウガラシがたっぷり入ったエビチリを、赤ん坊は手掴みで美味しそうに食べている。
ナワーブ・サベダー
ナワーブ・サベダー
やっぱりこのガキも辛党か…。バルサーにそっくりだな。
ホムンクルス
ホムンクルス
オトウサマノ、ベントウモ、オイシソウナノデ、ヒトツ、クダサイ!
ナワーブ・サベダー
ナワーブ・サベダー
ああ、良いぜ?女将さんに頼んで作ってもらったんだが、確かこれはだし巻き卵って言ってたな。
ホムンクルス
ホムンクルス
コレモ、オイシイデス!ダシマキタマゴ、モットタベタイ。
ナワーブ・サベダー
ナワーブ・サベダー
ガキの癖によく食うなぁ。俺の分がなくなっちまうよ?卵が好きなところは俺に似たのか…。
ルカ・バルサー
ルカ・バルサー
私のエビチリをあげるから、それ以上サベダーの弁当を食べるのは辞めなさい。
結局、二人の弁当を赤ん坊が半分ずつ平らげてしまったので、両親は空腹が満たせなかった。
ルカ・バルサー
ルカ・バルサー
失敗した…。この子の分の弁当も用意してくるべきだった…。
ナワーブ・サベダー
ナワーブ・サベダー
俺たちの弁当半分ずつだから、一人前と同じくらいの量を食ってんぞ?このガキ…。
ホムンクルス
ホムンクルス
オナカ、イッパイニ、ナリマシタ!モウ、タベラレマセン…。オイシカッタヨ。
ナワーブ・サベダー
ナワーブ・サベダー
そんじゃ、下山するか!今夜も女将さんの店に飲みに行きたいところだが、ガキを預けて話し合いするんで、別の店を予約できるかい?
ルカ・バルサー
ルカ・バルサー
初めて君と飲みに行った店なら…、研究所から少し遠いが…。
ナワーブ・サベダー
ナワーブ・サベダー
あの店か…。ガキは俺が預けて来るから、予約して待っててくれ。
ルカ・バルサー
ルカ・バルサー
わかった…。店の中で話すのは他の者に聞かれそうだから、二階の部屋を取っておくよ。
下山は舗装された初心者コースを通って、ナワーブは赤ん坊を背負ってバスに乗り込む。
ルカ・バルサー
ルカ・バルサー
私は別のバスに乗って目的地へ向かう。店で待ってるから後で合流しよう。
ナワーブ・サベダー
ナワーブ・サベダー
おう、ガキを預けたら俺もバスで行くけど二時間くらいかかるかな…。
ルカ・バルサー
ルカ・バルサー
色々と気持ちを整理したいから、時間はかかって構わないよ。
ナワーブ・サベダー
ナワーブ・サベダー
なるべく待たせないようにすぐに行くぜ。そんな深刻な顔するな。悪いようにはしないから。
ルカは先に到着したオシャレなバーのカウンターで塞ぎ込んでいる。
ルカ・バルサー
ルカ・バルサー
まさか子供の口から私の気持ちがサベダーにバレてしまうとは…。一体、どうしたら良いんだ…。
酒場のマスター
酒場のマスター
ご注文のブラッディ・サムです、どうぞ。
ルカ・バルサー
ルカ・バルサー
はぁ…もう終わりだ…。今まで通りの関係ではいられなくなるだろう…。
酒場のマスター
酒場のマスター
お客さん、どうかされましたか?ため息なんかついて…。
ルカ・バルサー
ルカ・バルサー
これから別れ話をする事になると思う…。二階の部屋を予約しておいてくれないか?
酒場のマスター
酒場のマスター
別れ話ですか…。それはさぞ、おつらいでしょうね。私で良ければ、愚痴をお聞きしますよ?

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