比べるものじゃないけども、居心地が全然違う
旅人さんは触れたらまずいと
両手を上げたまま 硬直している
勘違いしてほしい
この人を独り占めしたい
振り絞った震えた声
届いた…かな?
恐る恐る顔を確認すると
鳩が豆鉄砲くらったみたいな表情
肩を押し返されて距離をとられる
奥さんも彼女さんもいないとは言っていたけど
好きな人は別でいるのかもしれない
今から振られて冷たいシャワー生活で
今後 気まずい隣人になるんだ
考えていたものよりかはマシな結末だったけど
明日の職場も 隣人とも
普通の顔して会える自信がない
キリキリと痛む胃を押えながら
なるべくいつも通りに振舞って出勤をする
少し事務作業の仕事を多く回されるくらいで
職場は案外平穏な日々
旅人さんとはなかなか顔を合わせるタイミングがなく
給湯器も直ってしまった
もしかしたら、逃げられているのかもしれない
また後日、話をするって言ったって
連絡先を知らない
隣だからいつでも会えるなんて
愚かな考えだった
無意識に溢れ出すため息
外回り帰りでたまたま寄ったコンビニで
あるものが目に入った
職場から目と鼻の先にあるスタジアム
頻繁にイベントが行われていて
あまり気に止めていなかった
サッカーと大した繋がりはない
元彼が出ている試合を何度か見に行った程度
それも何年前の話やら
週末予定もなく、
家にいても考え込んでしまうだけ
気分転換も兼ねて 同期に付き合うことにした
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!