どうやら、転校生が来るらしい。
大体興味がないので、先生の話を聞きながら窓の外を眺め、窓の外から流れてくる春の温かい風に吹かれながら、
先生が「氷織の隣」というので、転校生の席のことか、と理解した僕は、
隣の机を僕の手でトントン、と軽い音を鳴らすと同時に、ぱっと転校生の顔に目を移す。
ほんのり赤みを帯びた、暗赤褐色のような色合いの深く落ち着いた雰囲気がある瞳、
春風に揺られるさらさらの黒髪がやけに美しく感じた。歩く姿までも画になる、”美人”といえる。
僕の物差しで図るのも失礼だが。
「よろしくお願いします。」など、丁寧な挨拶をした後に、「えっと…」と、名前を伺ってくる。
透き通るような、きれいな声。ずっと聞いていたくなるような声だった。
間を開けないように挨拶を振り絞る。
「氷織羊や。よろしゅう」と、少し無愛想になってしまった。
なぜだか、その後の先生の話が耳に入って来なかった。
いままでこんなことちょっとくらいしかなかったのに。
なんとか授業を真面目に受けられる様になった三限目、筆箱に入れたはずの消しゴムがない。
なぜ気づいたのか、あなたの名字さんが机の端にそっと消しゴムとノートの切れ端を置いてくれた。
今日は貸すね。明日とかに返して。私は予備があるから大丈夫だよ。
と、かわいらしい、きれいな文字でかいてあった。
お礼を言わねばと思い、ぱっと目を向けるとあなたの名字さんもこっちをみていた。
なので、
と口パクで伝えた。
翌朝、あなたの名字さんに消しゴムを返しに行こうと、自分の席に座ってなにか小説を読んでいるあなたの名字さんに声をかけた。
するとどうしてだろうか、読んでいた小説のような本をささっと後ろに隠してしまった。
何でも無かったかのように振る舞って、明るい声色で話す。
どうして隠したのだろう。それが無性に気になり、聞いてしまった。
嘘つくの下手か、と喉まできた言葉を抑え、
と、大げさに凹んでみた。案外、
あっさり言ってくれた。
ただ条件があるらしく、「絶対引かないでね?」と。
別に引かんけど。
読んでいた小説を差し出してきた。慎重に開けながら、ちらっとあなたの名字さんの顔を確認すると、
何故か赤く染めていた。
と申し訳なくなってしまった。
だが後に引くわけにもいかず、ちらっとみてみた。
思わず声が出てしまった。
まさか、突然転校してきた隣の席の子が…
”腐女子”だなんて。















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!