第3話

第3話:ライアーゲームの始まり
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2025/06/06 11:00 更新
桜の花が徐々に散り始め、春の温もりにかすかに初夏の気配が混じり出したころ。
藤宮蓮と篠原紅葉の“仮面の関係”は、表面上は順調に進んでいるように見えた。

教室では隣の席で自然に会話を交わし、昼休みは屋上でふたり並んで過ごす。
放課後には一緒に帰る姿も見られるようになり、クラスメイトたちも最初の驚きこそ和らげたものの、なおもその関係に疑問を抱いている者は少なくなかった。

――中でも、ある人物が。
市川 悠翔
なあ、藤宮
放課後の教室で、蓮に声をかけてきたのは市川 悠翔(いちかわ ゆうと)だった。
明るい性格と人懐っこい笑顔で誰とでもすぐに打ち解けるムードメーカー。
だが、蓮は彼の瞳の奥にわずかな棘を感じた。
藤宮 蓮
……何か用?
市川 悠翔
いや、ちょっとさ。お前、紅葉と付き合ってるってほんと?
藤宮 蓮
んー……どうだろうね?
蓮は肩をすくめてとぼけた。
嘘を隠すときは、真実のように言う。
真実を隠すときは、嘘っぽく言う。

それが、彼の処世術だった。

市川は少し笑ったが、その目は笑っていなかった。
市川 悠翔
へえ……まあ、紅葉って、誰ともつるまない感じだからさ。いきなり転校生とってのが、ちょっと不思議でさ
藤宮 蓮
偶然だよ。縁みたいなもん
市川 悠翔
そっか。まあ、別にいいけどさ――変なこと、しないでやってよ。あいつ、結構……脆いから
藤宮 蓮
……それ、どういう意味?
市川 悠翔
さあ? 知らないほうがいいかもね
そう言って去っていった市川の背中を、蓮はじっと見送った。



その日の夜。
蓮はベッドに寝転びながら、スマホの画面をぼんやりと眺めていた。

『柊ヶ丘学園・非公式掲示板』

そのタイトルの下には、生徒たちによる書き込みがずらりと並んでいた。

【恋バナ】篠原紅葉が男子と付き合ってるってマジ!?
【速報】氷の女王に春到来か?相手は転校生・藤宮
【真偽不明】演技って噂もあるけど、どうなの?

――やっぱり、そう簡単には終わらせてくれないか。

蓮は画面を閉じ、天井を見つめた。
自分の言動が、彼女にどんな影響を与えているのか。
たとえ“演技”でも、傷つける可能性がある以上、考えなしには動けなかった。

そのとき、スマホが震えた。
画面には、紅葉からのメッセージ。

「明日の昼、図書室。話したいことがある」

蓮は「了解」とだけ返して、スマホを伏せた。
胸の奥に、小さなざわめきが広がっていた。



翌日、昼休み。

静まり返った図書室の一角に、紅葉はすでに座っていた。
制服の赤いブレザーが、古びた本棚の茶色と妙に対照的で、彼女だけが時間から切り離された存在に見えた。
藤宮 蓮
ごめん、待った?
篠原 紅葉
ううん、私が早かっただけ
紅葉は机の上のノートを閉じ、まっすぐ蓮を見た。
篠原 紅葉
……今、学校で“ライアーゲーム”が流行ってるの、知ってる?
藤宮 蓮
ライアーゲーム?
篠原 紅葉
噂とか恋愛とかを使って、誰が一番上手く“嘘をつけるか”を競う遊び。非公式のランキングもあるみたい
蓮は驚いたように眉を上げた。
そんな話は転校してから初めて聞いた。
篠原 紅葉
それに、私たち――エントリーされてる
藤宮 蓮
嘘だろ……
篠原 紅葉
昨日の夜、掲示板に“次の注目カップルは紅葉と藤宮”って投稿があった。そこに“勝者はどちらか?”って投票リンクが付いてた
藤宮 蓮
……ゲームって、そういう意味か
篠原 紅葉
うん。この学校、想像以上に“人の感情”を楽しんでる
蓮は静かに溜息をついた。
その遊びに“本気の気持ち”が混じったとき、人は簡単に壊れる。
ましてや、紅葉のような繊細な人間が巻き込まれるのは――危険だ。
藤宮 蓮
篠原、やめようか。この関係
蓮がそう言った瞬間、紅葉の目がわずかに揺れた。
篠原 紅葉
……どうして?
藤宮 蓮
お前が傷つく前に、終わらせたほうがいい気がした
篠原 紅葉
……それでも続けたいの。私はまだ、この“嘘”が必要
藤宮 蓮
理由を、教えてくれないか?
篠原 紅葉
……今は、言えない。でも、私にとっては……必要なの
紅葉のその言葉には、何かを守ろうとする必死さがあった。
だから蓮は、それ以上は何も聞かなかった。



その日の放課後。
蓮と紅葉が一緒に下校していると、廊下の陰から市川がふたりを見つめていた。
その視線は、静かで、けれどどこか……冷たかった。

彼の手元のスマホには、ある画面が表示されていた。

【ライアーゲーム:注目カップルランキング】
第1位:篠原紅葉 × 藤宮蓮
投票数:上昇中

市川の口元が、わずかに歪んだ。
市川 悠翔
さあ、どっちが嘘つきかな……?
そして、静かにスマホを閉じると、足音もなくその場を去っていった。

その背後で、まだ“本当の戦い”が始まったことに、当事者たちは気づいていなかった。

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