じわじわと
暑さが迫る夏の夕暮れ時、
今朝に
念願の退院を果たした私は
マナと共に
家の最寄駅に降り立っていた。
涼しげな風が吹く
駅のホームを
マナと一緒に歩き続ける私。
そう。
実は私、両親に
病気が治って家に帰るということを
まだ伝えていないのだ。
サプライズで登場したら
喜んでくれるかな〜、って思っての行動である。
平然と返事をしようと試みるも
やっぱり自然と
口角が上がってしまって、
私は軽い笑みを浮かべながら
答えた。
それにしても
マナと一緒に
私の家に帰るなんて
家は違うといえど
懐かしいな、
なんて考えているときに
ふと頭に浮かんできた疑問を
口にしてみる。
するとマナは
一瞬きょとんと
目をぱちくりさせ、
にぱっと弾けるように笑顔になった。
…それ、あんまり大丈夫じゃ無いんじゃあ…
特にライさん達が。
なんて思ったけど
マナが平然としているあたり、
ヒーロー達の間では
こういうのも日常茶飯事なのだろう。
そんな他愛もない会話をしながら
帰路を辿り続ける私達。
病室にあった
私物を詰めたリュックの横で、
チェーンに取り付けられた
クマのぬいぐるみが
風に吹かれて揺れていた。
引っ越してすぐ
病院に移ったから、
この街の街並みは
あまり覚えていないけれど
のどかな住宅街に
花が咲き誇る花壇がある
道を歩いていると、
心なしか
気分も1段階上がる。
通りかかった花壇で
弱々しく咲いていた
オレンジ色の丸っこい花が、
どこかで見覚えがあった気がして
思わず足を止めた。
私の前を歩いていたマナが
私が立ち止まったことに気づき、
振り返って首を傾げてくる。
「ほな行こ」
と言って
再び歩き出すマナに
ついていきながら、
私はふと
胸の内に引っかかっていた
その花の既視感の出どころを
思い出した。
『 ほらあなたの下の名前、綺麗なお花でしょ 』
『 キンセンカって言うのよ。気に入った? 』
いつの日か、
お母さんが
最後にお見舞いに来てくれた時の
情景が、頭に思い起こされる。
あー…
そっか。
あれだ。
病室にずっとあった
あの枯れた花、
キンセンカだったんだ。
生けてあった最初の頃は、
綺麗で鮮やかなオレンジ色だったっけ。
あの花をくれた時の、
お母さんの
何故か少し寂しそうな笑顔が、
はっきりと思い浮かべられた。
あの日は花を貰えたことが
めちゃくちゃ嬉しくて、
ずっと花を眺めてはしゃいでたなぁ…
なんて、
昔の記憶を懐かしむ。
そんなことをしてたら、
家に帰れるっていう実感が
やっと湧いてきて。
なんだか少し、
泣きそうになってしまった。
久しぶりに会う家族は、
私の姿を見て
どんな反応をしてくれるだろうか。
私は期待で胸をいっぱいにしながら
家へと歩みを進めた。
はらりと
枯れかけの
キンセンカの花弁が、
一枚落ちた。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。