第31話

28.
522
2026/02/13 07:50 更新











hbc
気ぃつけてなあなたの下の名前、段差あるから




あなた
うん





じわじわと

暑さが迫る夏の夕暮れ時、





今朝に
念願の退院を果たした私は

マナと共に
家の最寄駅に降り立っていた。





hbc
それにしても良かったな!
奇跡的に病気が治って
hbc
おばさん達、きっと聞いたら驚くで〜?





涼しげな風が吹く
駅のホームを


マナと一緒に歩き続ける私。







そう。

実は私、両親に
病気が治って家に帰るということを

まだ伝えていないのだ。








サプライズで登場したら
喜んでくれるかな〜、って思っての行動である。












あなた
んふ、どうかな






平然と返事をしようと試みるも

やっぱり自然と
口角が上がってしまって、


私は軽い笑みを浮かべながら
答えた。








それにしても


マナと一緒に
私の家に帰るなんて


家は違うといえど

懐かしいな、





なんて考えているときに

ふと頭に浮かんできた疑問を

口にしてみる。




あなた
てか今日、仕事は大丈夫だったの?
あなた
ヒーローの任務




するとマナは


一瞬きょとんと
目をぱちくりさせ、



にぱっと弾けるように笑顔になった。






hbc
ライ達に押し付けてきたから
それは心配せんでも大丈夫やで!





…それ、あんまり大丈夫じゃ無いんじゃあ…


特にライさん達が。






なんて思ったけど
マナが平然としているあたり、

ヒーロー達の間では



こういうのも日常茶飯事なのだろう。







あなた
なんか申し訳な…あとでお礼言っといてよ
hbc
はいはーい。あとな、ウェンがまた今度
皆でどっか行こって言っとったで





あなた
またぁ?…まぁ別にいいけどさ
あなた
行き先は?
hbc
まだ決まってへんけど
るべは水族館がいいって




あなた
絶対タコ見たいだけじゃん







そんな他愛もない会話をしながら


帰路を辿り続ける私達。





病室にあった
私物を詰めたリュックの横で、


チェーンに取り付けられた
クマのぬいぐるみが

風に吹かれて揺れていた。









引っ越してすぐ
病院に移ったから、

この街の街並みは


あまり覚えていないけれど






のどかな住宅街に


花が咲き誇る花壇がある
道を歩いていると、



心なしか
気分も1段階上がる。





あなた
…あ





通りかかった花壇で


弱々しく咲いていた


オレンジ色の丸っこい花が、

どこかで見覚えがあった気がして
思わず足を止めた。







hbc
…あなたの下の名前?どしたん





私の前を歩いていたマナが

私が立ち止まったことに気づき、
振り返って首を傾げてくる。







あなた
んや…あの花、どっかで見覚えあって




hbc
へぇ…多分これ、キンセンカやな
あなた
…分かるの?



hbc
おん。せやけど暑さに弱いから、
多分もう枯れてまう






あなた
そっか






「ほな行こ」


と言って
再び歩き出すマナに
ついていきながら、


私はふと
胸の内に引っかかっていた

その花の既視感の出どころを

思い出した。









 『 ほらあなたの下の名前、綺麗なお花でしょ 』





 『 キンセンカって言うのよ。気に入った? 』





いつの日か、


お母さんが

最後にお見舞いに来てくれた時の


情景が、頭に思い起こされる。










あー…

そっか。

あれだ。


病室にずっとあった
あの枯れた花、





キンセンカだったんだ。



生けてあった最初の頃は、

綺麗で鮮やかなオレンジ色だったっけ。








あの花をくれた時の、


お母さんの
何故か少し寂しそうな笑顔が、

はっきりと思い浮かべられた。






あの日は花を貰えたことが
めちゃくちゃ嬉しくて、

ずっと花を眺めてはしゃいでたなぁ…




なんて、
昔の記憶を懐かしむ。









そんなことをしてたら、



家に帰れるっていう実感が

やっと湧いてきて。




なんだか少し、

泣きそうになってしまった。










あなた
今帰るからね、お母さん、お父さん





久しぶりに会う家族は、

私の姿を見て
どんな反応をしてくれるだろうか。






私は期待で胸をいっぱいにしながら


家へと歩みを進めた。







はらりと


枯れかけの
キンセンカの花弁が、


一枚落ちた。









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