やっぱりコーヒーは好きだ。飲んでる間、何も考えなくて良いように思えるから。香りと深い味わいを、堪能するだけで良いのだから。
長椅子から立ち上がり、襟元に手を持っていく。
すぐに裏地から外れた感覚を受け、それを握ったまま歩き始める。
カラン、と軽い音を立てて缶をゴミ箱に放る。
小さな違和感は、空き缶と共に捨てた。
ドイツと一進一退の言い争いをしている。議題は、フランスの仕事の適正量についてだ。
未だかつて、仕事が少ないことで異議を申し立てた事があっただろうか。否、ない。
新たな仕事を与えないドイツに内心いらつくフランス。トン、と彼の肩を叩く者がいた。
それはフランスの苛立ちを加速させるには十分だった。
いやだって、と口を挟む前にアメリカが遮った。
二つ返事で承諾するフランス。彼は仕事に飢えていた。
制止するドイツを横目に、そそくさとオフィスを出ていく。
だって、椅子に座ってボーッとするだけなんて、つまらないもん。
ふと違和感を覚える。
んー…、と一瞬考える所作を見せ、意外な事を告げた。
常に天使…神…?のような形容しがたい微笑みを浮かべている国連。その彼の不機嫌な様子がどうにも想像できなかった。
何度も角を曲がり、階段を登り、歩いたことのない廊下を進んだ先に、その部屋はあった。
ガチャ、と他の部屋とは一線を画す、大きな扉を開ける。中は思っている以上に広かった。
妙に歯切れの悪い言い方に、いつもの彼を感じない。こいつは、白黒はっきりつけたいタイプのはず。フランスの愛され体質は、人の性格さえも歪めてしまうのだろうか。
高層ビルの奥まった場所にある大きな会議室。頻繁に使われるとは考えられない。汚れが溜まるのも当然か。
積もったホコリを指でなぞり、ふっ、と息を飛ばす。窓の外には絶景が広がっていた。
太陽光の差す部屋で、黙々と作業を進める二人。
何かに気づいたように、ふとアメリカが尋ねる。
はっ、と息を呑む彼。何かあるのだろうか。無性に不安になってくる。
呆れを含んだため息をつき、再び掃除に取り掛かる。
声を大にして放つアメリカ。
ほんとに。最近の国達は声を荒げるのがトレンドなのだろうか?なんて考えるくらい、騒がしい日々を送っている気がする。もっと落ち着いて、紳士的に会話して欲しいとつくづく思う。
零した刹那、アメリカが反射かのような速度で言葉を返してくる。
大きな扉に向け、手を振る。
フランスは最近、活気に満ちた空気と孤独をずっと吸っている気がする。心理的な問題だと思われるが、ふと感情の不足に気付かされる。
不意に泣きたくなるのだ。前までの関係が恋しくなるのだ。
考えると悩みばかり浮かんでくる。そんな自分も、嫌になる。これでは悪循環、負のループだ。抜け出したい、でも抜け出せない、簡単なことじゃない。
グルグル思考を巡らせる。そうしてテーブルを拭き終わる頃だ、おつかいに行った彼が帰ってきたのは。
タッタッタッ、と軽快な音が響いているのが聞こえる。切り替えて、さっきまでの顔を作る。一息ついて、少し落ち着こう。
軽く振ってから一口。香り高い紅茶と優しい甘さが調和していて、口内が心地よくなる。
話しながらのほうが楽しいだろ?と言いたげな顔で語りを続ける。
これは止まらないな、と半ば諦めで最後の仕上げに取り掛かるフランスだった。
見違えるほど綺麗になった会議室を見渡し、呟く。
気を抜いた途端、一気に疲れが押し寄せる。デスクワーク中心のフランスに取って、掃除という業務は慣れないものだった。半分ほど無くなった紅茶を片手に、あくびがこぼれた。
おまけに軽度の睡眠不足。条件は既に揃っていた。
耐えきれず壁にもたれかかる。
焦りを感じさせない彼の顔色をうかがい、フランスは揺れる視界の中、確信した。
やはり毒見はさせるべきだった、と。
睡魔には逆らえず、瞼の裏で意識を手放した。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。