放課後、音楽室。
誰も来ないはずの場所で、彼はスマホを強く握りしめていた。
昼間の柔らかな笑顔は消え、低く本音を零す声。
ネクタイを緩め、壁にもたれるその姿は、
“王子様”なんて言葉とはほど遠かった。
やばい。まずい。
昔から本当にツイてない。
完璧王子様に裏の顔があるなんて。
私はバレないように息をひそめた。
なのに。
バタンッ
はぁぁ.....やってしまった
あなた、絶体絶命の大ピンチです。
一瞬の沈黙。
低い声。冷たい、というより、疲れた声。
私は慌てて首を振った。
彼は視線を逸らし、壁から離れた。
その距離が、なぜか近い。
王子様モード....
答えると、彼は少しだけ、ほんの少しだけ安心した顔をした。
ピアノの鍵盤から手を離した彼が、少しだけこちらを見る。
私は一瞬だけ考えてから、首を横に振った。
サンウォンは小さく息を吐いて、ピアノの椅子に腰を下ろした。
彼はそう言って、鍵盤に指を置く。
音を出すか出さないか、そのぎりぎりで止まる。
慌てて首を振る。
言葉を探しながら続ける。
一瞬の沈黙。
それから、サンウォンは小さく笑った。
そう言って、彼はピアノの蓋に肘をついた。
急にちゃんとした自己紹介をされて、思わず背筋が伸びる。
そう言った瞬間、しまった、と思った。
彼は苦笑する。
その笑い方が、少しだけ寂しそうで。
私は思わず口を開いていた。
彼がこちらを見る。
「普通ね....」
そう呟く声は、とても低くて、柔らかかった。
彼は私を見て、少しだけ口角を上げる。
心臓が、どくん、と鳴る。
どういう意味なんだろう。














編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。