ふわり。 ターンをしたことで揺れた髪を横目に、数分間止まることなく動かしていた体をやっと止めた。
───現在、私とあんずは零くんの頼みでダンスレッスンを行っている。
私が講師のスペシャルレッスンだ。
私と横並びになり、見よう見まねで踊っていたあんずも決めポーズでハート(これまた私のマネ)を作ってから動きを止めた。
「ぜえはあ」と息を切らしてしゃがみこむあんずにタオルとスポドリを渡せば、息絶え絶えながらもお礼を述べられた。
くつくつと喉を鳴らして労いの言葉をかけてくれる零くんは、果たして本当に心の底から労ってくれているのか。
真実はコンフィデンスマンにしかわからない。
鋭く言い放ったホッケ〜に、零くんは小揺るぎもせずにこやかに笑った。
おそらく無自覚に後ずさったホッケ〜を、零くんは身じろぎもせず観察している。
……いや、見定めている。
何の打算も無しに、ぬけぬけと己の領域に入ってきた無力な子供たちを、推し量っている。
小言を並べながらも、零くんの表情は稚気に溢れている。
今日の仕事の予定を思い出しながらホッケ〜と零くんのメンチ合戦を見つめていると、ふと、ねぇねぇ、と私は後ろから肩を叩かれた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。