No side
時は過ぎて3日後。
予定時刻の10分前。集まったのは、相変わらずコア以外。
どうやらコアの遅刻はしょっちゅうらしい。
そして2分後。やっとコアが到着した。
こうして、何本か電車を乗り継いで目的地の孤児院へ向かう。
ルタ曰く、ロザリア孤児院は相当の森の中にあり、自然が多い場所だったという。
毎年春になれば桜が咲き、夏には向日葵が、秋には金木犀、冬は椿と、
花に満ち溢れる場所で、預かっている子供達も、よく庭で遊んでいたらしい。
ただその話を聞いて、イツキは少し考えていた。
電車の窓をチラッと覗けば、
木漏れ日がちらほら輝いて見え、涼しい冷涼な風が吹いてきた。
見渡すとそこにあったのは、本当に異世界のようなお城のような孤児院だった。
庭には、一面に咲く赤い薔薇と、太陽の光を必死に求める向日葵が咲いていた。
時々、小さな子供の声がキャッキャッと聞こえる。
おそらく庭で遊んでいるのだろう。
6人は中に入るための鉄の戸の近くに寄る。
ルタが軽く来客用のベルを鳴らすと、奥の扉から、綺麗な髪を下ろした女性が姿を現した。
案内されたゲストルームには、見渡す限りの豪華な装飾品。
天井には、小さいものの、美しいシャンデリアが輝いている。
フカフカのソファに6人が座ると、先ほどの金髪の女性が入ってきた。
金髪の女性_ローザの話を聞きつつ、小さなメモ帳に書き残すミチル。
一方、コアとイコはもう一つのソファに寝転がっている。
ただ、流石に常識的ではないと、イツキが止めてくれた。
そして、しばらく話が進むと壁に掛かっている振り子時計が鐘を鳴らす。
どうやら3時を告げたようだ。
そう言ってローザは、ゲストルームを出て行った。
その間、「protect」メンバーは、外の庭の景色を眺めていた。
一面には赤い薔薇が咲き誇っており、それはまるでレッドカーペットのよう。
そして、鉄の柵の近くには、太陽を求めて満開に咲く向日葵。
そして談笑を続けて10分後。
ローザがティーポットとティーカップ、煌びやかなケーキをワゴンに乗せて
戻ってきた。
トポトポ…
太陽の光に反射して、流れる紅茶が滝のように美しくカップに注がれる。
ルタとイツキのジュースも、同じようなカップに注がれた。
それぞれのケーキを取って、声を揃える。
そう言ってまたローザが部屋を出る。
皆口々に「美味しい!」の一点張りで、紅茶やジュースを何回もおかわりしていた。
そして一段落ついた後、話の内容はルタの魔術師になった理由で持ちきりだった。
ルタside
小さい頃から、喘息やら高熱やらが毎日のように発症してしまって。
両親もたくさん看病してくれました。
ただ、両親が共働きである以上、仕事を復帰しないといけないのです。
それで、僕をどうしようか悩んだ時に見つけたのが、このロザリア孤児院です。
別に僕は孤児ではありません。ただの病気の治療のようなもので。
それから1年くらい経って、小学1年生の頃。
どうしても学校に行ってみたかった僕は、マザーに頼んで手続きを進めてもらいました。
ただ、入学式の前日に持病が悪化して、出られなくなってしまったんです。
本当にショックでした。
それで結局、クラスに入れたのは一週間後くらいでした。
でも、ずっと寝たきりだったから、体育とかはほとんど欠席してて。
あまり体も動かせない。ご飯も日によっては食べたくない日もある。
ある意味地獄のようなものでした。
唯一勉強にのめりこめたのが救いだったんですけど。
それから3年生に上がった直後、僕はクラスメイトから暴力を受けました。
いわゆる“いじめ”ってやつです。
多分、休みとかが多くて「サボり」だと思われたのでしょう。
さらに、それで精神まで苦しくなったのか、また持病が悪化して学校に行けなくなったんです。
ずっと孤児院のベッドから空を眺めるだけの日々。
外の庭でサッカーとかをしている子達が、ずっと羨ましかったんです。
でも、僕の運命は変わりました。ちょうど中学に上がった時です。
その日も体が辛くってベッドで寝たきりだったんです。
そしたら、なぜか庭の方が騒がしくて。
それで重い体を起こした時に、見えたんですよ。魔獣が。
そしてその時にいたのが、まだ出会う前のイコで。
無我夢中でした。
一人であんな怪物と戦ったらしんじゃう。そう思ったんです。
その時に、女神様が僕の前に現れて、願いを叶えにきたんです。
それで僕が願ったのは_
そして僕は魔術師になりました。
初めなんて、自分が魔術師なのか理解していない中で戦ったから、
すごく怖かったですけど。
でも、ずっとイコがサポートしてくれるんです。
それで最後、二人で魔獣を倒して。
そうして、僕の病気は願いによって治って、中学にもまた行けるようになりました。
何より、初めてちゃんとした友達_イコに出会うことができたから。
No side
辺りを見回せば、ルタとイツキ以外のメンバーはぐっすりと眠っていた。
いい話だ、とまどろむ二人だが、しばらく経つと少し違和感を感じた。
どれだけ待っても、他のメンバーが起きないのだ。
少し頬をペチペチと叩いても、耳元で声をかけても、何をしても起きない。
すると二人は、あることに気づいた。
すると、客室の扉が勢いよく開かれる。
開かれた先にいたのは、顔の形相が変わったローザだった。
ルタが驚いたのも無理はなかった。
ローザの左中指にはまっている黒い指輪から突然、薔薇のツタが飛び出してきたからだ。
間一髪で二人が避け、天井のシャンデリアが音を立てて割れる。
その衝撃で、先程まで寝ていた残りのメンバーが目を覚ました。
そして、ローザの背後から影のように声が聞こえる。
相手はもちろん_
すると、みるみるうちにローザの足元から黒いスライムが現れる。
そのスライムはやがて、ローザの胸元まで這い上がってきた。
そう言った途端、ローザの首元まで迫っていたスライムが一気にすっぽりと顔を覆う。
そしてその姿は、トゲが鱗のように生え、血走った目でこちらを見つめる。
いつもより一段と怖気付くルタ。
やはり、目の前の愛する人物が魔獣になってしまったのが信じられていないようだ。
それでも_
そう唱えれば、銀色に輝く長距離銃が現れる。
その輝きは、例えるなら夜に見える真珠のような満月。
ルタはそっと手を組み、目を閉じて呟く。
第5話中編、いかがだったでしょうか?
今回ルタ君の過去話を入れたら、ジブンでも引くぐらいの文章量になっていました…
あの話にも入っていた通り、ルタ君はそれなりの持病を持っていました。
ルタ君が願いで病気を治したのは、イコ君を助けたかったのと同時に、
普通の子達のように過ごしてみたかったという思いもあります。
ただ、治したのは持病だけだったので、体が弱いのは相変わらずみたいです。
(寝不足なのもそのせい)
さて、いよいよ次が第5話ラスト!
無事にローザさんを救えるのか、そして前回宣言したカイリアントとの真っ向勝負は…?
これからの展開に注目です!
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。