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第16話

月下の向日葵 中編
4
2024/05/04 00:49
No side

時は過ぎて3日後。
予定時刻の10分前。集まったのは、相変わらずコア以外。
どうやらコアの遅刻はしょっちゅうらしい。
サクシ
サクシ
…遅いな、アイツ…💢
イツキ
イツキ
まぁこれも何回も起こったから知っとるけど…w
イコ
イコ
前俺たちで出かけに行った時も遅刻してたもんね…w
ミチル
ミチル
え〜何それ!誰とで行ったの?
ルタ
ルタ
僕、イコ、コアさんです。
イツキ
イツキ
ええな〜!今度みんなで行こ〜な!
サクシ
サクシ
現に今日一緒に行くだろ。





そして2分後。やっとコアが到着した。
コア
コア
おっまたせ〜!てか、みんなもう集まってたの!?
イコ
イコ
まぁ、遅刻じゃないから、セーフ…?
サクシ
サクシ
いや、みんな待たせたからアウトだろ。
コア
コア
だからひどいって!
ミチル
ミチル
まーまーまー!とりあえず電車乗ろ?
イツキ
イツキ
そやで〜。乗り換え結構あるからな?
ルタ
ルタ
では、皆さん行きましょう。




















こうして、何本か電車を乗り継いで目的地の孤児院へ向かう。
ルタ曰く、ロザリア孤児院は相当の森の中にあり、自然が多い場所だったという。

毎年春になれば桜が咲き、夏には向日葵が、秋には金木犀、冬は椿と、
花に満ち溢れる場所で、預かっている子供達も、よく庭で遊んでいたらしい。


ただその話を聞いて、イツキは少し考えていた。
イツキ
イツキ
(さっきからルタは、まるで他人事のように話す…)
イツキ
イツキ
(ルタは庭で遊んだことがないんか…?)
ミチル
ミチル
ツキ…イツキ!
イツキ
イツキ
わぁっ!?ど、どないしたん?
ミチル
ミチル
全く…もうすぐ着くよ。
イコ
イコ
本当に森の中だねぇ…
電車の窓をチラッと覗けば、
木漏れ日がちらほら輝いて見え、涼しい冷涼な風が吹いてきた。


ルタ
ルタ
…皆さん、もうすぐです!



















コア
コア
うわぁ…!すごっ!お城じゃん!✨
イコ
イコ
すごいすごい!異世界に来たみたい!✨
見渡すとそこにあったのは、本当に異世界のようなお城のような孤児院だった。
庭には、一面に咲く赤い薔薇と、太陽の光を必死に求める向日葵が咲いていた。

時々、小さな子供の声がキャッキャッと聞こえる。
おそらく庭で遊んでいるのだろう。


6人は中に入るための鉄の戸の近くに寄る。
ルタが軽く来客用のベルを鳴らすと、奥の扉から、綺麗な髪を下ろした女性が姿を現した。
ローザ
ローザ
は〜い、どちら様…
ルタ
ルタ
…!マザー…!
ローザ
ローザ
!?!? ル、ルタ!
ローザ
ローザ
まぁいらっしゃい!随分久しぶりね!
ローザ
ローザ
あら?後ろの方々は、お友達かしら?
ミチル
ミチル
初めまして!ルタくんと同じ学校の先輩の紫川と申します。
ローザ
ローザ
まぁ…紫川家のご子息様が…
ローザ
ローザ
…とりあえず、中へご案内いたします。



















コア
コア
…ガチでお城じゃん((
イコ
イコ
ほんとそれな((
案内されたゲストルームには、見渡す限りの豪華な装飾品。
天井には、小さいものの、美しいシャンデリアが輝いている。

フカフカのソファに6人が座ると、先ほどの金髪の女性が入ってきた。
ローザ
ローザ
ようこそ、ロザリア孤児院へ。
ローザ
ローザ
わたくし、ここの管理人兼乳母をしているローザと申します。
サクシ
サクシ
乳母…だからマザーと呼ばれていたんですね。
ローザ
ローザ
えぇ。ここには身寄りのない子供を15人ほど預かっていて…
ローザ
ローザ
それぞれの里親が見つかるまで、わたくしが育てています。
ミチル
ミチル
なるほど…
金髪の女性_ローザの話を聞きつつ、小さなメモ帳に書き残すミチル。
一方、コアとイコはもう一つのソファに寝転がっている。
コア
コア
フカフカ…✨
イコ
イコ
さいっこう…✨
イツキ
イツキ
こらこら、アンタら。
イツキ
イツキ
あくまで俺たちは客人やからな?
ただ、流石に常識的ではないと、イツキが止めてくれた。















そして、しばらく話が進むと壁に掛かっている振り子時計が鐘を鳴らす。
どうやら3時を告げたようだ。
ローザ
ローザ
せっかくだから、お茶にしましょうか?
ローザ
ローザ
今ある紅茶が、ローズヒップしかなくて…
コア
コア
ローズ、ヒップ…?何それ?
ミチル
ミチル
紅茶の一種だよ。酸味が少し強めなのが特徴なんだ。
コア
コア
へ〜!おいしそ!わたし、それで!
イコ
イコ
んじゃ、俺も!
サクシ
サクシ
俺も。お願いします。
ローザ
ローザ
了解。ルタはどうする?
ルタ
ルタ
他に何か、ありましたか?
ローザ
ローザ
そうね…アセロラジュースならあるけど…
ルタ
ルタ
…じゃあ、それで。
ローザ
ローザ
そちらのお方は?
イツキ
イツキ
俺も、ルタと同じのお願いします!
ローザ
ローザ
……えぇ。おやつと一緒にすぐ持ってきます。
そう言ってローザは、ゲストルームを出て行った。


その間、「protect」メンバーは、外の庭の景色を眺めていた。
一面には赤い薔薇が咲き誇っており、それはまるでレッドカーペットのよう。
そして、鉄の柵の近くには、太陽を求めて満開に咲く向日葵。



イコ
イコ
あの向日葵、綺麗だよね〜
ルタ
ルタ
…毎年枯れると、みんなで種を集めてまた来年用に取っておくんです。
ミチル
ミチル
素敵な光景だろうな〜…
サクシ
サクシ
…そういえば
サクシ
サクシ
イツキが紅茶飲まないの、珍しいな。
コア
コア
確かに!いつも飲んでるくせに!
イツキ
イツキ
…まぁ、ローズヒップだけは、ちょい苦手なんよw
ルタ
ルタ
………

















そして談笑を続けて10分後。
ローザがティーポットとティーカップ、煌びやかなケーキをワゴンに乗せて
戻ってきた。
イコ
イコ
うわぁ!おいしそ…✨
ローザ
ローザ
熱いので、紅茶をお先にどうぞ。
ミチル
ミチル
ありがとうございます!



トポトポ…
太陽の光に反射して、流れる紅茶が滝のように美しくカップに注がれる。
ルタとイツキのジュースも、同じようなカップに注がれた。

それぞれのケーキを取って、声を揃える。
全員
いただきます!












ローザ
ローザ
では、ごゆっくり。
そう言ってまたローザが部屋を出る。
皆口々に「美味しい!」の一点張りで、紅茶やジュースを何回もおかわりしていた。



そして一段落ついた後、話の内容はルタの魔術師になった理由で持ちきりだった。
ルタ
ルタ
僕は元々、体が弱かったんです。
ルタside

小さい頃から、喘息やら高熱やらが毎日のように発症してしまって。
両親もたくさん看病してくれました。

ただ、両親が共働きである以上、仕事を復帰しないといけないのです。
それで、僕をどうしようか悩んだ時に見つけたのが、このロザリア孤児院です。
別に僕は孤児ではありません。ただの病気の治療のようなもので。


それから1年くらい経って、小学1年生の頃。
どうしても学校に行ってみたかった僕は、マザーに頼んで手続きを進めてもらいました。
ただ、入学式の前日に持病が悪化して、出られなくなってしまったんです。
本当にショックでした。

それで結局、クラスに入れたのは一週間後くらいでした。
でも、ずっと寝たきりだったから、体育とかはほとんど欠席してて。
あまり体も動かせない。ご飯も日によっては食べたくない日もある。
ある意味地獄のようなものでした。
唯一勉強にのめりこめたのが救いだったんですけど。


それから3年生に上がった直後、僕はクラスメイトから暴力を受けました。
いわゆる“いじめ”ってやつです。
多分、休みとかが多くて「サボり」だと思われたのでしょう。
さらに、それで精神まで苦しくなったのか、また持病が悪化して学校に行けなくなったんです。
ずっと孤児院のベッドから空を眺めるだけの日々。
外の庭でサッカーとかをしている子達が、ずっと羨ましかったんです。



でも、僕の運命は変わりました。ちょうど中学に上がった時です。
その日も体が辛くってベッドで寝たきりだったんです。
そしたら、なぜか庭の方が騒がしくて。
それで重い体を起こした時に、見えたんですよ。魔獣が。
そしてその時にいたのが、まだ出会う前のイコで。

無我夢中でした。
一人であんな怪物と戦ったらしんじゃう。そう思ったんです。
その時に、女神様が僕の前に現れて、願いを叶えにきたんです。
それで僕が願ったのは_
ルタ
ルタ
…僕の病気を治してほしい、です。
女神様
女神様
それが、あなたの願い?
ルタ
ルタ
この病気さえ治れば、みんなと同じように動ける、から。
女神様
女神様
…そう。いいでしょう。
そして僕は魔術師になりました。
初めなんて、自分が魔術師なのか理解していない中で戦ったから、
すごく怖かったですけど。

でも、ずっとイコがサポートしてくれるんです。
それで最後、二人で魔獣を倒して。












イコ
イコ
すごくかっこよかった!✨助けてくれてありがとう!
ルタ
ルタ
…いえ、だ、大丈夫、です…
イコ
イコ
あ、俺、朱音 衣古!イコって呼んで!
ルタ
ルタ
えっと…黄瀬、流立…です…
イコ
イコ
ルタくんか〜…うーん…
イコ
イコ
…よし!じゃあるー君!
ルタ
ルタ
…えっ?
イコ
イコ
この方が仲良いって感じするじゃん!
イコ
イコ
これからよろしくね!るー君!
ルタ
ルタ
えっと…よろしく、イコ、君。
イコ
イコ
もう〜!イコでいいのに〜!✨











そうして、僕の病気は願いによって治って、中学にもまた行けるようになりました。
何より、初めてちゃんとした友達_イコに出会うことができたから。
No side

イツキ
イツキ
…なかなかえぇ話やな。
ルタ
ルタ
そう、ですか?
イツキ
イツキ
だって、あの時イコに会ってなかったら今ここに立ててないやろ?
イツキ
イツキ
だったらこれもまた、いい話ちゃう?
ルタ
ルタ
そっか。
辺りを見回せば、ルタとイツキ以外のメンバーはぐっすりと眠っていた。
いい話だ、とまどろむ二人だが、しばらく経つと少し違和感を感じた。



イツキ
イツキ
…起きんな。みんな。
ルタ
ルタ
…イコ?皆さん…?
どれだけ待っても、他のメンバーが起きないのだ。
少し頬をペチペチと叩いても、耳元で声をかけても、何をしても起きない。


すると二人は、あることに気づいた。



イツキ
イツキ
…思ったんやけどさ。
ルタ
ルタ
…?
イツキ
イツキ
今寝てるメンバーって、全員紅茶飲んだよな?
ルタ
ルタ
…!たし、かに…!
ルタ
ルタ
そう考えると、紅茶を淹れられるのって…
イツキ
イツキ
ローザさん、やんな…?
すると、客室の扉が勢いよく開かれる。
開かれた先にいたのは、顔の形相が変わったローザだった。


ローザ
ローザ
…ぁ〜あ。ほんっと最悪。
ローザ
ローザ
あなた達も寝てくれれば、さっさと片をつけれたのに。
ルタ
ルタ
…!マザー…
イツキ
イツキ
アンタか。紅茶に眠り薬でも入れたん?
ローザ
ローザ
…そうよ。わたくしがやったのよ。
ローザ
ローザ
本当は全員眠らせて、魔術もろとも奪うつもりだったのよ。
ルタ
ルタ
そんな…っ!




ルタが驚いたのも無理はなかった。
ローザの左中指にはまっている黒い指輪から突然、薔薇のツタが飛び出してきたからだ。

間一髪で二人が避け、天井のシャンデリアが音を立てて割れる。
その衝撃で、先程まで寝ていた残りのメンバーが目を覚ました。




イコ
イコ
ぅわっ!?な、何これ!?
サクシ
サクシ
俺たち、いつの間に…?
???
くふっ。よくできました。
そして、ローザの背後から影のように声が聞こえる。
相手はもちろん_
ルタ
ルタ
カイリ、アント…!
コア
コア
アンタが、ローザさんをこんなことにさせたの!?
カイリアント
カイリアント
…さぁ?
カイリアント
カイリアント
ワタクシはただ、その方の願いを叶えただけでしてよ?
ルタ
ルタ
マザーの、願い…?










すると、みるみるうちにローザの足元から黒いスライムが現れる。
そのスライムはやがて、ローザの胸元まで這い上がってきた。
ルタ
ルタ
マザー!何してっ…
ローザ
ローザ
…わたくしの望みはただ一つ。


















ローザ
ローザ
ルタ、あなたをこの孤児院に連れ戻すこと。
そう言った途端、ローザの首元まで迫っていたスライムが一気にすっぽりと顔を覆う。
そしてその姿は、トゲが鱗のように生え、血走った目でこちらを見つめる。






ルタ
ルタ
どういうこと…
イコ
イコ
ローザさんが、魔獣に!
カイリアント
カイリアント
結果、これがあのお方の願ったことよ。
カイリアント
カイリアント
随分と前から、話は持ち出されていたのでね。
魔獣
ルタ…あなタは…わたクシの…モの…
魔獣
他のやツにナンて…わたサナイ…
ルタ
ルタ
ひっ…!
いつもより一段と怖気付くルタ。
やはり、目の前の愛する人物が魔獣になってしまったのが信じられていないようだ。












それでも_
イツキ
イツキ
ほらルタ。行くで。
ルタ
ルタ
イツキ、さん…?
イツキ
イツキ
助けるんやろ?ローザさん。
イツキ
イツキ
なら、今だけ逃げるのは禁止やで。
イツキ
イツキ
自分の手で救わんと、やろ?
ルタ
ルタ
…!はいっ…!























ルタ
ルタ
「魔術解放:月光ムーンライト
そう唱えれば、銀色に輝く長距離銃が現れる。
その輝きは、例えるなら夜に見える真珠のような満月。
ルタはそっと手を組み、目を閉じて呟く。
ルタ
ルタ
月の女神よ、僕に大いなる力を…





第5話中編、いかがだったでしょうか?

今回ルタ君の過去話を入れたら、ジブンでも引くぐらいの文章量になっていました…
あの話にも入っていた通り、ルタ君はそれなりの持病を持っていました。
ルタ君が願いで病気を治したのは、イコ君を助けたかったのと同時に、
普通の子達のように過ごしてみたかったという思いもあります。
ただ、治したのは持病だけだったので、体が弱いのは相変わらずみたいです。
(寝不足なのもそのせい)

さて、いよいよ次が第5話ラスト!
無事にローザさんを救えるのか、そして前回宣言したカイリアントとの真っ向勝負は…?
これからの展開に注目です!

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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