(あなたの下の名前side)
私がある日、記憶を失ってから一ヶ月が経過した。
そんな長いような月日が経ったというのに、未だに私はなにも思い出せない。
同居している恋人のザキさんのことも…
私を慕ってくれている幼馴染みや友人達のことも。
時々発作的に、頭が痛くなったりはするのだ。
けど、そこまで突っかかってるのに、はっきりと思い出せない。
私は正直、焦っている。
こんなに大切な人達がいるのに…恋人がいるのに…
未だになにも…なにも思い出せない自分自身に。
時々自分を思わず攻めてしまうくらいだ。
「なんで思い出せないんだ」「早く思い出せ」
そういう言葉が頭から離れられないときがある。
ソファで読書していた私が深い溜め息をつくと、
ザキさんが心配そうな顔をして隣に座って声をかけてきた。
そんな顔をされると私は…なぜか心配させてしまっている罪悪感よりも、愛されてるんだなという嬉しさや安心のほうが勝ってしまう。
…あっちは私を心配してくれてるのに、私ったら。
ぎゅうっ
彼は私を抱きしめた。
力強いけど、優しくて暖かい。
私はこの温もりが、なによりも好きだった。
…記憶を失う前も、これが好きだったのかな、私。
そして彼は、私の肩にうずめていた顔を私に向けー。
チュッ
…柔らかい感触が、唇に広がる。
私は、その優しい数々の言葉に思わず、泣き出した。
ザキさんは、泣いている私をバカになんてせず、ただただ優しく包み込んでくれる。
…この優しさに答えるんだったら、自分を責めるとはバカらしいな、なんて思っていた。
…それから、一週間くらいが経った。
今私は、家に一人。ザキさんは買い出しに行ってる。
ここから人里までは歩いて往復すると20分くらい。
買い物の時間を含めるなら30分で帰ってくるはず。
けど…一時間経った今も、ザキさんは帰ってこない。
私はそう、呑気に呟いていた。
だけど…自分でもわかるのだ。
嫌な予感が、胸騒ぎが。
けど、ただただ買い物の量が多くて、時間がかかっているのかもしれない。
そうだった場合、なんで来たのかとか驚かれてしまう
私が様子を見に出掛けるか迷ってたらー。
ドカアアアアアアアアアアン!!
外から、大きな爆発音が聞こえた。
方向的に、この家から人里に通る道の途中くらいから。
私はそれに気づくや否や、気づいたら家から飛び出していた。
ドサッ
モブ「おいおいどうしたあ?こんなもんか?」
モブ「んじゃ、飽きてきたし…そろそろ終わるか」
モブ「炎魔法【火山の激怒】」
モブ「!…ニヤリ」
モブ「 」
ドガッ
ドゴオオオオオオン!!
モブ「鎖符【熱された鎖】」
ジャラジャラジャラ…ガシイッ
モブ「ふっふっふ、苦しそうだなぁ…やはり炎がお前の弱点だったか」
モブ「はっはっは!!このまま森ごと燃やし尽くして…」
やっと見つけたと思った私のザキさんは、赤く燃える鎖に縛られ、炎に包まれ苦しんでいた。
モブ「なんだあの女…まぁいい。見られたからにはお前も生かしちゃおけねぇ…」
バシャアアアアアアアアアアアッ
モブ「な!?水魔法だと!?くそ、炎がすべて消えた…」
私は、ザキさんをこんな目に合わせたと思われる男がなにかしてくる前に、水魔法のスペルで、ザキさんに纏う炎や、周りの炎を消し去った。
記憶がなくなっても、スペルカートや能力の使い方は体が覚えていたから。
私は鎖が消えたザキさんに駆け寄った。
…かなりのひどい火傷が身体中にある。
私は、ボロボロの彼にそう言われるまで気づかなかった。
今は覚えてないはずの彼を…私は以前の呼び方で読んでいたのだ。
…私は、この状況に見覚えがあった。
敵に一方的にやられるザキさんを…私が…?
モブ「このクソ女あああああああああああああ!!」
背後からあの男が攻撃してくる瞬間ー。
グサグサグサッ!!
モブ「あがあああああああああ!?」
私は、ガーネットのような赤い鋭利な宝石を地面から出現させ、男を串刺しにした。
そう…あのトラウマを見せてくるアイツに…ほんとにそっくりなんだよ…お前は。
なにより私の恋人をこんな目に合わせて…
モブ「ぎゃああああああああああああああああ!?」
あのあと、私は奴に制裁を加え、紫様に引き渡した。
そして私は、ザキに回復魔法をかける。
顔や身体中にあった痛々しい火傷は綺麗に消えた。
そして…私達はてを繋いで、家に帰るのだった。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!