寮を出て歩いていると、薄い色のツンツンした髪が視界に入る。
そのまま歩き進める。
何気に勝己って変な所で気遣ってくるわよね。歩幅合わせてくれてる。
それとも歩幅小さいのかしら?
「なぁ聞いた?」
「ヒーロー科A組ライブやるんだって。俺たちの為に」
「私たちの為って何それ?自意識過剰なんじゃないの?」
「ほんといい気なものだよ」
勝己の様子を見てみると、まぁ嫌そうな可愛い顔。
寮に戻って来て早々共有スペースに呼ばれた。
どうやら文化祭の事で決める物がまだあるらしい。
すると勝己は無言で範太から棒2本受け取り、何か叩き始めた。
焦凍と話していると大声が耳に響く。
ん…なに、勝己?
…やっぱりさっきの言葉気にしていたのね。
その後順調に進んだ。
寧人は嫌みたらしく笑いながら話す。
壊理はあたしの服に捕まる。
ゴンっと音が鳴り倒れ込む寧人。
出久がぶつかる。
もしかしてこれがジェントルとラブラバ?そうね背丈が確かにそう。
出久は近くの家のような建物を眺めた。
…ジェントルが個性を使うならばあたしはすぐ出久を守る。
空気の幕が出久に立ち塞がる。
あたしは出久の前に金糸を張って跳ね返し、モーディスに代わりキャッチする。
サフェルで走り、出久は飛び、ジェントルを追いかける。
鉄鋼の組み置かれた場所で繰り広げられる戦い。
落ちそうな鉄鋼を金糸で止め、出久も力で保つ。
逃げれば追いかける。
草の茂った場所に倒れた二人を、出久は押さえつける。
ラブラバの個性を使ってまた起き上がる。
もう〜〜なんなの!!
…笑った。
良かったね壊理、出久。
片付けに回ろうと壊理から離れると、背後からトントンと肩を叩かれた。
振り返ると出久が微笑んでいて、なんだろうと見上げる。
…あたしのことも気にしていてくれたのね、本当に優しい子。
まるでカスライナの様ね。
その後、あたしは出久に誘われてルミリオン、壊理と一緒に文化祭を回った。
宴よりは催し物の精度は低いが十分楽しめた。
夕日の沈むオレンジ色の光を浴びながら、あたしたちは校門にいる。
壊理の寂しい雰囲気を掴むと、出久は何処からか赤い物体を取り出す。
…あれがリンゴ飴っていうのね…オンパロスにはなかったわ。
壊理はそれを頬張ると、嬉しそうに笑いながら呟く。
その日は通常通り寮で過ごしていた。
そろそろかな、と石板…テレビを覗くと、やはりエンデヴァーの戦いが映されていた。
焦凍がいる、隣に。
…どれだけ嫌っていたとしても。
知って仕舞えば他人の様には振る舞えない。
エンデヴァーは高々と舞い上がり、ハイエンドを地面へ叩きつける。
勝利のスタンディング。いや、始まり。
えぇそうね、燈矢のことも含めて、全ての始まり。
決着が見えると、焦凍は座り込んで息を整えようとする。
…昔のあたしだったら、あそこに加勢しに行ってたかな。
昔のあたしだったら、焦凍に寄り添っていたかな。
なんだかもう、愛を感じ取れなくなったな。
ヒアンシーは焦凍にイカルンを抱えさせ、精神的安定を図った。
案の定落ち着いた焦凍に、ヒアンシーはまだ不安そうに見つめる。
焦凍がパニックになっていたのは覚えている。
落ち着かせる…ならヒアンシーのはず。
あたし、ヒアンシーに貸した記憶、ない。
先生に告げられ運動場γに出た。
初期と段々コスチュームが変わって来ている。
徐々に、あの頃に近付いているのを感じさせる。
運動場で待機していると、B組がやって来る。
あら、合同練習?
神託には見なかったかも。もしかしたらそんなに重要なシーンじゃ無いのかもね。
人使は首に捕縛布を巻き、口元に変声機マスクを着けている。
コスチュームは体操着。
とても素敵な目標。
叶うわよって伝えたい。
あたしの個性、本当に暴走したら制御なんて出来ないと思う。
なんたって世負いの子の肉体に世負いの子が宿るんだもの。
あたしの体を借りたカスライナは多分、制御不能の獣状態になってしまう。壊滅の運命を歩む者。
…それに、あたしのこれは個性では無いから…イレイザーヘッドの抹消は効かない。まだ言ってないし、彼も抹消ではなく捕縛布で制御しているから気が付いていないはず。
暫く眺めていた。
…なんとなく、視線を離したくなくて試合を見つめる。
今は響香達と取陰達の対戦。
『決めてんだよ!俺ァ!勝負は必ず完全勝利』
『4:0無傷』
『それが!本当に強ぇ奴の勝利だろ!』
違う、それは圧倒的力量の差が無いと出来ない勝利の方法よ。
相手が弱く無いと出来ない。
君は自身で傷を付けてしまうの、痛々しくて見てられない、信じられない程の…。
ねぇ…もし輪廻をしていなければ、もしも神託を知らないまま生きて…過ごしていれば…
あたしは普通の女の子になれていたのかな。
もっと素敵な生活を送れていたかな、キュレネ?
長夜月…ちゃんと良いところで戻してくれたんだ。有難いわね。
でも…
まだ良いわ。
お願いして良いかしら?長夜月。
長夜月はその場で、雄英校舎の窓に手をつけた。
歳月を使うと、窓は割れ始める。
また再び窓に手をつけ、歳月を呼び覚ますと綺麗に戻る。
教室の机でぼーっとしていると、Mt.レディとミッドナイトが教室にやって来る。
何人か呼ばれた後、あたしも壇上に上がらせられた。
インタビューって…何を話せば良いのかしら?
メディアっていうのもよく分かってないし…。
あたしは空中に蕾を創り、弓を引いてそれを穿つ。
すると蕾から綺麗な花弁達が舞う。
あたしは三奈と透と百に連れられ、部屋に行くとふわふわした洋服が用意されていた。
共有スペースに戻ると、皆が準備を進めていた。
静寂な部屋に、一人あたしがポツンとしている。
今日は大晦日という、一年の節目の日らしい。
プロヒーローの護衛で皆は家に帰っているらしい。1日だけ。
あたしはといえば、親のいない家に帰る必要性も無く理由なく寮にいる。
電話越しに聞こえる焦凍の声に、少し驚く。
あたしを誘うなんて思わなかった。
エンデヴァーのインターン…何があったっけ…ええと…
確か時期的にホークスが連合に…
まぁ、近くで眺める分には都合良いかな。
あたしたちは冬にふさわしい服装で、エンデヴァーの前に来た。
…焦凍は長袖なだけだけど。二人はマフラーを巻いている。可愛いわね。
あたしは制服のブレザーの袖を途中まで捲り、布を纏っていた。
おしゃれで可愛いでしょう?
街を歩いていると、エンデヴァーがいきなり走り出す。
硝子操作の個性。終焉とか言っていたわね。
侮らないで欲しいわ、終焉なんて。
路地裏にエンデヴァーが入り込むと、そこを叩こうと奴の仲間が向かって来る。
も、ホークスが着いて対処した。
その後、ホークスと別れエンデヴァー事務所に向かった。
皆はサイドキックの子達と話していたが、あたしは聞いていなかった。
というより、他の音に耳を澄ましていた。
ホークスとエンデヴァーの思考。連合の声。
思っていたより…あまりにも警戒心が無さすぎる。もしくは気付いた上で踊らされているか…
連合の施設に金糸を張った。テルミヌスの協力もあって。
あの子、あたしの願いなら大体聞いてくれるものね。
エンデヴァーが部屋から戻って来る。
そこから、何日か経った日。
神託通り焦凍の家に行った。
礼儀正しく挨拶してくる可愛い子は、焦凍の姉で燈矢の妹、冬美。
美味しそうなものを黙々と頬張る。
…さて、順調に進んでくれるといいんだけど。
…かわいい。
…子の、小さな反抗。
受け入れ難い大人への、気付いて欲しいという反抗。
大丈夫、順調に進んでる。
そう言って立ち上がった夏雄。
「緑谷君達に片付け手伝わせちゃってわるいなぁ」
「手伝わせないほうが2人にわるい」
「私だって夏みたいな気持ちがないわけじゃないんだ。
でも、チャンスが訪れてるんだよ。焦凍はお父さんの事どう思ってるの?」
「この火傷は親父から受けたものだと思ってる」
「お母さんは堪えて…堪えて…あふれてしまったんだ。お母さんを蝕んだあいつ…そう簡単に許せない」
「でもさ、お母さん自身が今乗り越えようとしてるんだ」
「どうしたいのか正直自分でもわからない…親父をどう思えばいいのか…まだ何も見えちゃいない」
すると突然勝己が扉を開けた。
轟くん、と出久は声をかける。
…出久ってば、本当に主人公なのね。
燈矢、体質が母に似て熱に弱い。
その上父の炎司よりも火力は高く、最高峰を目指せた。
己を燃やさなければ。
倒れかけたあたしの背後に、素早く龍霊を滑り込ませた。
あ…丹恒…。
「あの麓にヒーローたちがいる!
我々は後方で住民の避難誘導だ!」
バーニン、エンデヴァーのサイドキックが高らかに声を上げる。
超常解放戦線。
もはや連合よりも更に大きくなった隊。
ホークスの参入のおかげで、情報をつかんだ。
やはり公安はやる事が違う。
「前線が動いた!私たちも行くよ!」
バーニンの合図に、皆が走り出す。
次の場面は、すでに更地になった街を眺めている所だった。
…長夜月、何したのかな。あれらの氷は温度がある。
つまり焦凍か、あるいはもう一人の氷の個性の子。
あれは長夜月の六相氷ではない。
辺りを見ると、少しだけ。長夜がいた。
記憶か。
ありがとう、長夜月。
ミッドナイト、クラスト…他にも、犠牲は沢山。
あぁ、止めたい、止めたいよ。止められないよ。
死龍ボリュクスを召喚した。
あたりは土煙が立っていて、とても見渡せそうにない。
出久は…勝己は…焦凍…は、…お茶子…はぁっ、…
蕾が空に浮かび、勝手に破裂する。
地面には沢山の花が咲いていて、ロードが出来ていた。
壁は硝子張りになっていて、外にも花畑が続いている。
楽園のような花畑の景色が消えると、目の前には処刑人がいた。
…いや、処刑人に似たあたしだ。
…さぁ、あたしに全ての制裁を。
心臓を貫かれた。
1,2,3,4,5,
鳩尾から黄金が溢れ出る。口内は鉄の匂いがした。
あたしは立ち上がり、歩き出す。
無線で伝えられた、震えた声。
『エデン 神薆莉薆』
『心臓を4箇所、鳩尾を刺され、顔面にヒビ割れ。』
『意識不明の重体です』
見る見る内に、エデンの心臓に金糸が集まる。
そして歳月が目を覚まし、エデンの身体が治っていく。
目を開くと、側にはボロボロのプロヒーロー達。
皆目を大きく開けて此方を覗く。
そして瞬間、無線で伝えられた。
『エデン 神薆莉薆』
『意識取り戻しました!!!!』
歳月の力が薄らとしか残っていない。
自身の蘇生に殆どを尽くしたか…。
そうやって笑う出久は、マスク越しに可愛らしいと思った。
歴代継承者との会話の最中、出久はオールマイトから貰ったトンカツを食べている。
可哀想だから傘を差した。
出久はとうとう、恩師オールマイトの手を振り払った。
『皆がまた安心して過ごせる様に』
『皆がまた普段通りの生活を送れる様に』
『皆とまた笑って過ごせる様に』
金糸を伝ってくる出久の心情。
素敵…だね。
『神薆さん、聞こえてる?こいつは… 』
『ディクテイター、タルタロスのダツゴク、刺客。』
『今度こそオール・フォー・ワンの居場所教えてくれるといいな』
金糸伝う音が聞こえると教えた出久は、伝って説明をしてくれる。
『知ってます…いま、解決策を…』
あたしの腕を強く掴まれ、倒され、袋叩きにされる。
皆の持っている物は大した凶器じゃない。大して痛くもない。
…そろそろ来てくれるはず、ねぇ?
空から小さな爆発の塊が降りてくる。
…やっと来てくれた、良かった。
あたしはすっかり安堵する。
勝己は出久に向かって、自分の口角に親指を向けて言った。
あたしはただ、皆が出久を引き戻そうとしているのを眺めていた。
『死柄木にぶっ刺された時、言った事覚えてっか?』
『覚えてない』
『“一人で勝とうとしてんじゃねェ”だ。続きがあるんだよ』
『身体が勝手に動いて…ぶっ刺されて…言わなきゃって思ったんだ』
『てめェをずっと見下してた。無個性だったから。
俺より遥か後ろにいるハズなのに俺より遥か先にいるような気がして。』
『嫌だった。見たくなかった。認めたくなかった』
『だから遠ざけてたくて虐めてた。
否定することで優位に立とうとしてたんだ。
俺はずっと敗けてた』
『雄英入って思い通りに行くことなんて一つもなかった。
てめェの強さと自分の弱さを理解してく日々だった。』
『言ってどうにかなるもんじゃねェけど』
『本音だ、出久』
『今までごめん』
『ワン・フォー・オールを継いだおまえの歩みは理想そのもので何も間違ってねぇよ。
けど今、おまえはフラフラだ。
理想だけじゃ超えられねぇ壁がある。』
『おまえが拭えねぇもんは俺たちが拭う』
『理想を超える為におまえも雄英の避難民も街の人も…もれなく救けて勝つんだ』
出久がふらつくと、勝己が支えた。
『“ついてこれない”なんて言ってごめん』
『わーってる』











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。