木曜日。
いつも通り朝の支度をしていると電話が。
叶やローレンとは違い、湊は学校で待ってるらしい。
なんとなくほっとした私は
いつも通り支度をして家を出た。
学校の校門に着くと見慣れた姿があった。
差し出された手をそっと握ると
にゃはは、と嬉しそうに笑った。
湊ってこういうとこ慣れてるなって思う。
叶やローレンの時みたいに一緒に行くのも
恋人感あって凄く良いなって思ったけど
少なからず待たせてるって感じてしまうから…
湊が言うように用意も時間かかっちゃうし
迎えに来ない優しさが凄くありがたく感じた。
教室に行くまでに湊が飲み物を買いたいらしいから
自販機まで着いて行った。
にこ、と笑う笑顔はいつも通りなはずなのに
なんとなくいつもの湊じゃない気がした。
そう言いながら一歩こちらに近付いてくる。
一瞬、ほんの一瞬だけ。
私の髪をさらり、と触って
「 いっつもいい匂いする 」なんて呟いてきた。
「 なんのシャンプー使ってるん? 」とか
「 もしかして香水使ってる?何つけてるん? 」とか
いつもと変わらないやり取りなのに
どこか特別感を思わせる雰囲気を感じた。
湊だから…?
皆がいつも言ってるような"ホスト感"ってやつ?
絶妙な距離感に少し戸惑っていた。
お昼休みになるとすぐに湊が教室にやってきた。
こと、と私の机にミルクティーを置くと
「 お揃い〜 」と自分のミルクティーを見せながら笑った。
また、何気ない会話。
それでも言葉の節々に、朝と同じような
"特別感"を感じて1人ドキドキしていた。
「 そういえばさぁ 」、と
ストローをくるくると回しながら湊が口を開く。
スマホケースの中に入っているプリクラを見せると
少しだけ眉間に皺を寄せた気がした。
ほんの一瞬だったけど…
そう呟く湊は、いつも通りの笑顔を浮かべていて。
気のせいかな、なんて思ってスマホを机に置くと
湊が私の手に自分の手を重ねてきた。
驚いて顔を上げた時にはもう手は繋がれていて
優しく微笑む湊と目が合った。
顔を近付けてきたかと思えば耳元でそう囁いてくるから
一気に心臓が速くなった気がした。
…距離の詰め方上手すぎだって。
さっきまで特に気にしてる感じしなかったのに。
急に"俺だけ見てて"なんて……
ドキドキしない方がおかしいよ。
手を握ったまま教室を出ると
私達は購買に言ってお昼ご飯を買った。
少しだけ声が低くなった気がした。
湊?、呼びかけるといつも通りの笑顔。
湊が連れてきてくれたのは3年生の1番奥の教室だった。
使われてないって言われてた割には
埃もなく綺麗で、何故かクーラーもついていた。
そっと囁かれた言葉を理解する前に
湊は私の腰に手を当てて自分の方へと引き寄せた。
距離が縮まり心臓が速くなる中、湊の顔が近付いてくる。
もしかして、キス、される…?
ぎゅっと目を瞑ると、予想に反して
「 ゴミついてる 」、とだけ呟きすぐに離れた。
恋人ごっこのルールでキスやそれ以上は駄目なのに
何故か受け入れようとしていた自分が凄く恥ずかしくて
照れ隠しに咳払いをした。
何事も無かったかのようにリモコンを操作して
大きなスクリーンに映画が映された。
映画はアクションものだった。
初めて見たけど迫力があって、感動的な部分もあって
何で今まで見なかったんだろうと思うぐらい面白かった。
夢中で見ていたらいつの間にか終わっていて
私は急いでスマホの画面を見た。
大きく伸びをしながら湊の方を見ると
何だか凄く嬉しそうな顔をしていた。
湊は小さく溜め息を吐くと
少しだけこちらに体を寄せて「 それにさ 」と続けた。
私の顔を覗き込むように呟きながら
にこ、と優しく微笑んだ。
どことなくほんわかした、甘い雰囲気のまま
私は次の授業を受けることになった。
放課後。
前の授業が体育だったから汗の臭いが気になって
鞄の中を漁っているとサラとこころが話しかけてきた。
湊が一歩近付くから私も一歩下がって。
「 何で逃げるん? 」なんて言いながらも
確実に距離を詰めてくる。
「 謝らんでいいよ 」、そう言いまた一歩近付く湊から
私は反射的に一歩下がる。
私の手を掴み更にぐっと距離を詰めると
肩ぐらいまで顔を寄せてきた。
その言葉を聞いて
なんとなく肩の荷がおりた気がした。
湊は私の手を離すとにこり、と笑い軽く頭を撫でた。
湊の優しさが分かる瞬間だった。
それを後ろで聞いていたサラとこころが
「 さすがふわっち〜 」と拍手をする。
そう言い湊は私の鞄を持って手を差し出してきた。
さっきまで気にしていたのが嘘みたいに
普通に湊の隣に並んで笑っていた。
そのまま手を取りサラとこころに手を振った。
サラとこころがそんなことを言っているなんて
私と湊は全く知らなかった。
ショッピングモールに着いた私達は
何をするでもなくお喋りをしながら歩いていた。
湊は笑って、少しだけ視線を逸らした。
さらっと出てきたその言葉は
嘘でも、いつもの冗談混じりな感じでもなかった。
真っ直ぐとぶつかってきた言葉に返せないでいると
湊は私の頭を撫でてにこり、と笑った。
「 行こう? 」、その言葉に小さく頷いた。
パステルカラーを基調としたその雑貨屋は
可愛い物がたくさんあって
あれもこれも、と目についた。
小さな蝶モチーフのヘアクリップ。
可愛い物は大好きだけど
正直私には似合わないんだよなぁ…
湊は蝶のヘアクリップを手に取ると
「 じっとしてて 」と覗き込むように顔を近付けてきた。
髪をそっと耳にかけてクリップを留める。
指先が耳に触れてドキドキが伝わるかと思った。
湊の方を見ながらありがと、と微笑むと
少しだけ驚いた表情を浮かべて黙ってしまった。
全部当てはまってそうでつい笑ってしまった。
…1番4人のこと気にしてなさそうだと思ってたけど。
もしかしたら誰よりも意識してるのかも。
ゲーセンに着くと湊は真っ先に
プリ機のある場所へと足を向けた。
プリ機の中に入り背景を選ぶ。
背景が変わる間待っていると
湊が私の後ろから抱きついてきた。
そう言い私の肩に顎を乗せてくる。
待って、めちゃくちゃ近いって…!
いきなりの行動に恥ずかしくなった私は
シャッターが切られる前に手で顔を隠してしまった。
言いながら次のシャッターが切られる時。
私の頭にちゅ、とキスをしてきた。
まさかの展開に思考が追いつかないでいると
「 照れた顔も可愛い 」なんて言ってきて。
この後落書きをしたけど
"照れてるあなたの下の名前可愛い"だとか
"俺がちゅーしたから照れた"とか
"💜ふわ(彼氏) 🩷あなたの下の名前(彼女)"なんて書いてて。
終始、湊の思うつぼだった。
景色が綺麗なんだよ、と連れてこられたのは
3ヶ月ほど前にできた大きな観覧車だった。
ゆっくりと上がっていく観覧車の中で
向かい合って座り合う。
いざ面と向かうと照れくさくなって
私はずっと小さくなっていく街並みを見つめていた。
喋り出す湊に顔を向けると
真っ直ぐとした瞳で私を見ていた。
ふっと笑いながら私の手を握る。
暖かいその手から
ドキドキと速くなる脈が伝わってきた。
観覧車が下に着くまで、手を繋ぎながら
夕焼けに染まる街並みを2人で眺めていた。
観覧車を降りた後は
少しだけ遠回りをしながら家に帰った。
湊は小さく笑うと私の顔を覗き込んだ。
一瞬真面目な表情を浮かべたかと思ったら
いつも通りの笑顔に戻っていた。
私の髪を耳にかけながらにこり、と笑うと
「 あげる 」と一言呟き背を向けた。
触れられた髪には
雑貨屋で見ていたヘアクリップが。
「 湊!ありがとね 」、背を向け歩き出す湊に
声をかけると、こちらに振り向き小さく手を振った。
ヘアクリップを外し
少しの間それを眺めた後私は家に入った。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。