金曜日。
今日で恋人ごっこが終わる。
月曜日の昼休みに急遽始まった恋人ごっこ。
最初は皆と恋人みたいに接するなんて
出来るのかなって思ってたけど……
皆、私を楽しませようと頑張ってくれて
私を好きっていう気持ちを大事にしてて
それを一生懸命伝えてくれた。
今日は……、雲雀。
月曜日からずっと待っててくれて
昨日の夜はラインで
「 明日が待ち遠しい 」なんて言ってくれた。
朝ご飯を食べ終えた私は荷物を持ち家を出た。
学校に着く手前の信号。
スマホを見ながら待っていると
後ろから「 わっ! 」と大きな声が。
「 もー、こっちがびっくりするって 」と言いながら
私の手にこつん、と自分の手を当てた。
なんだか子供のような無邪気さを感じた。
そう言うと鞄の中から何かを取り出した雲雀は
「 はい、どーぞ 」と手渡してきた。
私がこの前コンビニで美味しかったって言ってた
カフェオレ……
「 やば 」、そう言いあからさまに視線を逸らす雲雀に
「 どういう意味? 」と問いかける。
授業の始まりのチャイムが鳴る。
雲雀は私を教室まで送ると
「 また後で来ますね 」、そう言い走って行った。
休み時間になり次の移動教室の準備をして
サラとこころと廊下へと出る。
お喋りをしながら歩いていると
少し前の方で友達と話している雲雀が目に入った。
雲雀の周りには男女含めて数人が集まっていて
楽しそうにしている雲雀を見て自然と笑みが溢れた。
私に気付いたのか大声で名前を呼んできて
その瞬間周りにいた子達も一斉にこちらへ視線を向ける。
めちゃくちゃ見られてるじゃん……!
私は学校内でもそこまではしゃいだりしないし
あまり注目を浴びるようなこともない。
一方雲雀は俗にいう陽キャタイプで
友達も同じような感じの子達が多い。
私と関わってて
雲雀が悪く思われたりしないかな……
男友達
「 雲雀、先輩のこと大好きだよな 」
男友達
「 いっつも先輩の話してくるし
好きなのが滲み出てるよなぁ 」
女友達
「 先輩可愛いから当たり前じゃん 」
女友達
「 え、かわいいー!顔真っ赤 」
男友達
「 雲雀じゃなくて俺でもいいっすか! 」
雲雀の友達にからかわれている私の前に
ぐっと入り込みながら「 だめ 」と一言。
その言葉にまた顔が熱くなってくる。
再びからかい始める友達を制止しながら
「 先輩後でね 」と言う雲雀に手を振りその場を後にした。
恋バナ…なのかどうかは分からないけど
2人と盛り上がりながら次の教室へと向かった。
友達のこと勘違いしちゃってたけど……
普通に良い子達だしなんかごめんなさい…
面と向かっては言えないから心の中で謝るのだった。
お昼休み。
サラとこころは委員会の用事の為
私は1人お弁当を持ってウロついていた。
屋上、テラス、中庭、と周っていると
前から雲雀が息を切らせて走ってきた。
少しだけ拗ねた素振りを見せながら
私にお茶と何種類かのお菓子を差し出した。
手を握り連れて来られたのは小さめのベンチ。
木漏れ日が当たるそこは
グラウンドが見渡せる場所にあって
風が通って気持ち良かった。
ささっとベンチに落ちた落ち葉を落とし
「 先輩どーぞ 」と優しく笑った。
さらっとそんなことを言う雲雀に対して
私は照れているのを隠すように咳払いをした。
苦笑いを浮かべながらも
そこは素直で、若干食い気味に答えてきた。
俯き気味にそう呟いた。
雲雀の目は凄く、真っ直ぐだった。
手を止めていた私に気付いたのか
雲雀はそう言い私のお弁当をじっと見てきた。
照れ臭そうに微笑むと
口を開け、差し出した卵焼きを頬張った。
もぐもぐと美味しそうに食べると
「 美味すぎ 」と呟き柔らかい笑顔を見せた。
先程貰ったお菓子を見せる。
何種類かあるお菓子の中から
苺味のポッキーを取り出した。
お弁当を横に置きポッキーを咥えながら
雲雀の方へ顔を向ける。
雲雀は小さく「 え、 」と言い
思考停止したように固まってしまった。
……あ。何してんの私。
恋人ごっこで彼氏彼女だとしても
いきなりポッキーゲームみたいなことし出して。
キャラじゃないし雲雀も困ってるじゃん。
「 あはは、なんちゃって 」なんて呟き
顔を逸らそうとしたけど
雲雀は私の後頭部に優しく手を回して
自分の方へと引き寄せてきた。
真っ直ぐと見つめられる視線から目が離せなくて。
至近距離で雲雀の綺麗な顔を見つめていると
ぽき、という音と共に離れていった。
言いながら私の口元に付いていたであろうチョコを
ハンカチで拭いてくれる雲雀は
いつもの可愛い後輩ではなく、男の顔をしていた。
初めて見る雲雀の顔に
今度は私が思考停止してしまった。
放課後。
私は雲雀からのラインを見ながら
デートに向けて準備していた。
雲雀
天気良くて暑いから髪くくった方がいいかも!
こういうとこ気にしてくれて助かるなぁ。
高めのポニーテールに髪をくくり
持ってきていたシュシュをつけた。
少ししてから雲雀からラインが来て
校門で待ってる、とのことなので急いで向かう。
校門の前まで来ると
こちらに気付いた雲雀が嬉しそうに笑った。
制服のポケットから2枚のチケットを取り出した。
笑いかけると同じように笑ってくれて。
私達は手を繋いでいざ、夢の国へと向かった。
入場手続きを終えて一歩中に入ると
先程までの現実世界とは違い
非現実的な、まさに夢の世界だった。
入場ゲートを背に写真を撮る。
心做しか距離がぐっと近付いていて
少しだけ顔が熱くなってきたのが分かった。
撮った写真を見て満足そうに笑うと
「 この写真宝物にします 」なんて言ってきて。
真っ直ぐな言葉に嬉しくなった。
平日と言えど華金の夕方。
アトラクションもかなりの人が並んでいて
ポップコーンやグッズ売り場も混んでいた。
でも夢の国フィルターがかかっているのか
それとも、"雲雀と来ている"からか
普通の道でも自販機でも見ているだけで楽しく思えた。
私達はお揃いのカチューシャを購入して
それを付けながら園内を歩いていた。
雲雀が指差すその先には
可愛らしいキャラクターをモチーフにした乗り物。
見た感じ上下に動くだけだと思うけど……
あれなら私もいけるんじゃない?
顔を背ける雲雀が気になったけど
乗りやすそうな物から乗っといたほうがいいよね。
私は雲雀の手を引き
その乗り物の近くに駆け寄った。
シートベルトを着用して少ししたら
愉快な音楽と共に乗り物は動き出した。
上下に動きたまに左右に揺れる。
ふわり、と宙に浮く感覚がして下を見ると
立っている人の頭ぐらいの位置まで上がっていた。
がくん、と更に上まで上がると
先程とは比にならない程のスピードで回り出した。
早っ……、そう思ったのも束の間、
乗り物はその場でぐるぐると回転しながら
上下左右に揺れだした。
降りた後私は思った。
これは絶対的に、恋人同士で乗るものじゃない…!
近くのベンチに倒れ込むように座る私に
持ってきた水を手渡してくれた。
ごくり、と一口飲んだ後
隣に座る雲雀に抱きつくようにもたれかかった。
次のお客さんを乗せてぐるんぐるんと回るそれを
指差しながら、私は小さく息を吐いた。
雲雀は優しく笑いかけると
「 なんか食べ物買ってくる 」と私の頭を撫でて
ポップコーン売り場へと走っていった。
少し落ち着いた私は遠くから手を振る雲雀に
にこり、と笑い先程撮った写真を見返していた。
男
「 え、可愛い子が1人で夢の国ー? 」
男
「 俺彼女と喧嘩してさ?寂しいから一緒に周ろ? 」
私の腕を掴もうとする手から逃げようと立ち上がると
タイミング良く戻ってきた雲雀に引き寄せられる。
いつも通りの笑顔だけど目は笑ってなくて
私に触れる手は少しだけ力が入っていた。
ぐっと更に腰を引き寄せられて雲雀との距離がより縮まる。
相手は小さく舌打ちすると
少し離れたところでまた女の子に声をかけていた。
夢の国でナンパ……ほんとやめてほしい。
雲雀は何か言おうとしたけど照れ臭そうに笑いながら
買ってきたポップコーンを渡してきた。
あれから今度はゆっくりしたのにしようと
メリーゴーランドやあまり激しく動かない乗り物に乗って
ポップコーンや夢の国ならではのものを食べたり
2人で話しながら園内を周ったりした。
夕方になり日が影ってきて。
私達はキラキラと輝くパレードを見ていた。
煌びやかな装飾が光るワゴンで
キャラクター達が楽しそうに踊っていて
凄く、幸せだなと感じた。
雲雀は「 でしょ 」と言い小さく笑う。
しばらくパレードを眺めた私達は
最後にシンデレラ城を見に行こうと歩き出した。
皆思うことは同じで。
夜のシンデレラ城を一目見ようと
たくさんの人が集まっていた。
雲雀が「 こっち来て 」と手を引くから着いて行くと
あまり人がいない階段のような場所にやってきた。
私達は腰を下ろして目の前のシンデレラ城を見上げる。
昼間とは違いライトアップされたシンデレラ城は
幻想的なプロジェクトマッピングが映し出されていて
豪華なモザイク画やガラスの靴などが綺麗に輝いていた。
息を呑む美しさとはこのことだ、と実感させられる。
お互い向き合うように顔を合わせた。
いつも伝えてくれるように真っ直ぐで
視線を逸らすことなんて許されないような目。
私は雲雀の顔を見上げながら言葉を待った。
苦笑いを浮かべつつも
私からは視線を外さなかった。
一瞬悲しそうな表情を浮かべた雲雀は
私の髪を触るように頭を撫でた。
飾り気のない、最後まで真っ直ぐな言葉をくれた。
駆け引きも、意味深な言い回しもなくて
雲雀らしいな、と私は小さく笑った。
"もう一度一緒に過ごしたい"という気持ちが
夜のシンデレラ城の灯りに照らされながら
私の心に静かに伝わってきた。
雲雀と別れて今日までの5日間のことを考えながら
ゆっくりと湯船に浸かった。
正直な思いだった。
5人全員、私のことを1番に考えてくれてて
好きって気持ちもたくさん、色んな形で示してくれた。
ドキドキしたり、困惑したり、
感情が目まぐるしく変わっていったけど。
やっぱり1番は、皆とこうやって過ごせて
嬉しかったし、凄く楽しい、と思えた。
5人の中に気になってる人はいた。
明日も含めてこの6日間で決めろというのは
無理がある、と最初は思っていた。
でも。
5人と恋人同士のように過ごしてみて
友達として好きなのか、恋愛感情として好きなのか。
ゆっくりではあったけど
確実に私の中で分かっていった。
ちゃぷん、とお湯が跳ねる音を聞きながら
心に決めた"あの人"の顔を思い出していた。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。