第3話

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2025/09/18 06:00 更新
rm
離して!!!!!
割れるような叫び声が響く
君は連れて行かれる俺を大粒の涙を流して止めようとしていた
それでもその手首は鎖のようにしっかりと繋がれている
距離が開く
段々と君の姿が小さくなる
そんな状況でも最後に君から聞こえた言葉は

syu
彩斗…ごめん…
rm
楓斗!!!!!
君との間に越えることができない壁ができたのはそれからだ
青空が果てしなく広がる海のように見えた
波打つように流れる雲がその海を泳いでいる
どれ1つ同じ形をしていない雲はいつにも増して立体感がある
空高くまで広がっているであろうこの雲
入道雲、つまり夏なのだ
我に返れば蝉の鳴き声が耳に届いた
これでもかと照りつける太陽に対抗するかのように
いつの間にか俺は夏を感じさせる環境に見とれていたらしい
急に後ろから声をかけられた
そいつが渡してきたペットボトルを笑顔で受け取る
スパイクの紐を結び直して汗だくの顔をタオルで拭いた
水を飲んで顔をあげたときにふと口にした
rm
あの桜の木…
rm
…綺麗な葉桜だ
熱風が頬を掠めた
今にも太陽は山に隠れそうだ
辺り一面が朱色に染まって普段とは全く違う風景が広がる
烏は自分の巣へと飛んで帰っていく
自転車に乗った中学生は己の家へと帰っていく
目に映る者は皆誰かが待つ家へと帰っていく
その光景を見るとどうも俺だけ取り残されたように感じる
広い世界の片隅に放置されてしまったかのようにも
けれど事実そうではない
俺も例外なく帰る家がある
父さんが待つ、我が家へと
夢を見る
友達ではない、誰か大切な人との夢を
俺は兄弟は居ないらしいし、親戚ともあまり顔を合わせない
なぜか俺は少し前のことが思い出せない
厳密に言えば中学校に入学した辺りから前のことだ
まるでごみ箱に捨てられたかのように全く残っていない
母さんの顔は知らない
どんな姿なのか、どんな声なのか、誕生日も、性格も
なにも分からない
だからこそ今は父さんと2人で暮らしているのだろう
中学2年のときだっただろうか
俺は1回だけ父さんに聞いたことがある
「俺の母さん、なんでサッカーの試合見に来てくれないの?」
試合の応援にも、授業参観にも、三者面談にも
俺の母さんは1回も来てくれたことがなかった
そう聞いたときに俺の父さんは驚いたような表情をした
そしてすぐに俺から目線をそらして空の方を見た
父さんが本当に小さな声でこう言ったのは覚えてる
「…仕事が忙しいんだってさ、大変らしい」
仕事、か
ねぇ父さん
俺、分かるよ
父さんが嘘をつくときはいつも空の方を向く
だから別の理由があるんだよね
俺にも言えない、大切な理由が
あの日からもう母さんについて聞いたことはない
いや、聞けなかった
いつも父さんの目は烏のように黒かった
けれどその日はいつにもまして黒かったから
開いてはいけない扉を開いてしまった気がした
俺は直感的にそのことを理解してしまったようで
気付かれないようにそっと扉を閉じた
ドライヤーで髪を乾かしていたときに思い出した
あれからもう4年
今でさえ母さんのことを聞こうなんて思ったことはない
でもあれからなにも変化はなかった
俺にとっての日常はずっと続いたままだった
コンセントを抜いてリビングへと向かう
そこには焼酎片手にほんの少し顔が赤い父さんがいた
rm
…晩酌?
「ば、晩酌とは人聞きが…いや、事実だけどな」
rm
そっか…珍しいね
「どうせ週末だからな、彩斗も何か飲むか?」
rm
じゃあココア
「はいはい」



父さんの顔が明らかに赤い
絶対に酔ってるであろうことが未成年でも分かる
そのせいか急に話しだした
「なぁ彩斗」
rm
なに?
「彩斗の彩は彩りって書くんだよな」
rm
そうだけど
「よく考えたもんだよな、この名前」
rm
父さんが考えたんじゃないの?
「いや、紗奇が考えた名前だ」
rm
…紗奇…?
「知らないのか?」


『お前の母親だよ』


rm
…は?
「いやぁ彩斗が産まれるときに由来を考えてな」
「人と関わって、色彩豊かな人生にしてほしいって願いだ」
「あと色んなことができる多才、ってのもあったかな」
rm
…俺の…名前の由来…
「まぁ事実彩斗はたくさんのことができる人だけどな」
「願い通りになって万々歳だよ」
rm
ねぇ父さん

rm
会えるかな、俺



rm
いつか、母さんに、直接会えるのかな





「…どうだろうな」
「俺らはもう…





『離婚してるからなぁ』










rm
…ちょっと待て…
rm
離婚してるって…言った…?

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