お題: 屋上、未送信、ラムネ
からんころん。
ビー玉が転がる。
昔、夏祭りで買ってもらったラムネの中のビー玉が宝物で、いつの間にかお守りみたいになってた。
ころころと転がるビー玉は僕の運命をランダムに導く。
今、転がるビー玉を見失った僕は、どこに行けばいいのだろう?
はぁ。
僕は屋上で、スマホを眺めている。
その画面に写っているのはある人とのトーク画面だ。
文字がテキストボックスに打ち込まれているだけ。未送信のまま放っておかれている。
僕は考えるのもめんどくさくなりスマホをポケットに入れる。
10月も下旬。今日は特に風が強いから寒いのなんて当然だ。
風邪をひいても厄介だからもう校内に戻ろう。
そう思った時だった。
最初はあまりに強い風のせいで気のせいだと思った。
それが彼女との出会いだった。
橘さんはあの日から毎日屋上に姿を表すようになった。
流れで話しているうちになんとなく仲良くなった。
橘さんはどうやらあまり教室には行けていないようだった。
かく言う僕もあの一件から人間関係がかなりだめになってしまい、教室には全然行けていないのだけど。
学校という社会から外れているような僕らふたりは不思議なくらいに波長があった。
橘さんは明るすぎないおちゃらけ方をする。それが気を遣わせない言い方で僕は思わず感心する。
かと言って無言も気まずくはなく、お互い良い関係なのだと素直に思えた。
ある日、彼女は唐突に聞いてきた。
僕がキーホルダー代わりにつけている袋のことだった。
まだ思い出すのには抵抗がある。顔を顰めていないか不安だ。
彼女はそこで口を閉ざした。
僕は内心ホッとした。
ある日、僕が屋上へ行くと、橘さんが先に来ていた。
いつもよりかなり早いな、と思いつつ声をかけようとした。
直前で彼女が体を丸めて、静かに、泣いていることに気がついた。
少し迷ったが声をかけてみた。
僕はどうすればいいのか分からなかった。
自分の中の慟哭に気づかないふりをするのに精一杯だった。
彼女はそんな僕の様子をどう思ったのか、話を続ける。
ダメだ。そんな感情は。今ここで持っていい感情ではない。
静まってくれ。怒りよ。そんな僕の理性とは裏腹に感情はみるみるうちに膨らんでいった。
僕の怒声が響く。
彼女は急な大声に驚き、これらをキョトンと見つめている。
そう言い残すと彼女は自分のバックをひったくって帰ってしまった。
それから3日間。橘さんには会えなかった。
今まででいちばん長い、地獄のような3日間を僕は自分を責め続けて過ごした。
もう会えないのかと、自分のした事を後悔するばかりだった。
4日目、彼女は唐突に現れた。
僕は色んな言葉が頭を駆け巡り、何を言えばいいのか分からなかった。
やはり、最初に口を開いたのは橘さんだった。
出てきたのはシンプルな言葉だった。
断る理由も資格もない。
彼女の手は震えていた。
僕にはその手を握って安心させることなんて出来なかった。
代わりに自分も話をすることにした。
僕があまりに真剣な表情をしていたからか、彼女は覚悟したようにうなずいた。
僕は堰を切ったように話し始めた。
両親が1年前事故で同時にいなくなったこと。
親戚は僕を引き取りたがらず、今は施設にいること。
両親の葬儀で僕を押し付け合う親戚の姿を見てから、もう何も信じられなくなったこと。
あまりに優しかった。彼女は優しすぎた。
橘さんは少しいたずらっ子のような笑みを浮かべてこちらに近づく。
瞬間、額に強い痛みが走る。
デコピンだ。
僕は驚きを隠せなかったが、それでもしっかり呼んだ。
照れ隠しのように走り去っていった彼女を見て少し頬が緩む。
そうだ。
ひとつ途中のことがあった。
僕は急いでスマホのトーク画面を開く。
ある人とのトーク画面ーーそれは母さんとのトーク画面だった。
事故の直前、面倒くさがって送らなかったメッセージ。もう、既読がつくことはなくなった。
でも。
何が変わったのか分からない。でも、なんとなく今ならできる気がした。
彼女と出会った事で、大事なことに気がつけた気がした。
揺れるビー玉はいつだって僕のすぐそばにいる。
僕は送信ボタンを押した。
『いつもありがとう。今から帰るよ。』












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。