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第1話

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2023/01/28 23:41 更新









JONG
JONG
………………………マジで………ウザい。












携帯電話の画面には……

ジン兄さんの名前が表示されていた。



僕は容赦なく、電源ボタンを2回押して

接続を切断する。












…………もう、このまま……


……僕の家まで帰ろうか……








でも、帰るのに必要なだけのお金なんて

………持ってもいない。








お金も、自信も………優しい気持ちも……

何も持ってない自分が………情けなくて笑える。






……………このまま……………

どこかに……飛び込んで………

深く沈んでしまえばいいのに。








………僕には………なんの価値もない。



























宿舎を飛び出してしまった理由は、

はっきり覚えていない。


きっかけは、ちょっとした事だった。



食事の準備をしろとか、騒ぐなとか……

そんな、たいした事の無い理由だった。



すぐに動かなかった自分も悪いが、

だんだんと広がる険悪な空気のなか………

誰も、助け船を出してくれはしなかった。



自分が悪かったくせに………



そんな甘い考えが

顔や態度に出てしまい……



ジン兄さんに反発した態度を取り……

終いには怒らせてしまった。








……………でも、僕に……………


「ちゃんとしろ」と言った、


あのジン兄さんの顔が………目が………



……………許せなくて。







普段はふざけてばかりで、

自分だって、ちゃんとしてないくせに……



僕の全部を否定するような……あの瞳が……




……悔しくて……寂しくて……。





自分が悪いと、素直に認める事も出来ず、

ジン兄さんに謝れもせず……

重たい空気に潰されそうになって………



堪らずに、その場から逃げ出してきてしまった。




















宿舎から、道なりにまっすぐ進む。




あちこちをウロウロするよりも、

できるだけまっすぐ、遠く、宿舎から離れたかった。 



酔って浮わついた大人とすれ違う度に、

胸がザワついて………イライラした。




大人って…………………

ただ歳が上ってだけで………

それだけで……偉ぶって……ムカつく。
















JONG
JONG
…………………………寒い………






パーカーのみで出てきたので、

夜風が身体をすり抜けていくように冷たい。



吸い込む空気もキンと冷えていて、

歩いても歩いても、身体は暖まらなかった。




どこか………夜風が当たらない場所は無いか

……周りを見回すと……



いつも移動の車から見ていた公園が目に入った。




そこには大きな船の形をした遊具があり、

船体が細長いトンネルになっていた。



夜の闇の中……公園の外灯に照らされ……

少し傾いた遊具の帆船は、

浅瀬に寂しく……座礁しているように見えた。









JONG
JONG
……なんか………僕、………みたいだ……………






少しは風が防げるかもしれないと、

そのトンネルの中に身を滑り込ませる。





夜風はだいぶ凌げるが、

トンネルの中も冷えていて、やはり寒い。


それでも、外を歩くよりはマシかと

仕方なく、そこに座りこむ。





夜食の前だったため、空腹なのがこたえた。

ポケットに入っていたキャンディの二つのうち、

ひとつを口に放り込む。







いつもなら……みんなでリビングに集まって

食事をしている時間だ。





誰かがふざけて……誰かが止めたりして……

おかずの取り合いをしたり

皿洗い当番を、やったやってないで揉めたり……








あのテーブルに7人で集まれば……

嫌な事も、不安も……みんな、忘れられた。







そこに流れているのは……


兄弟7人で、騒がしく奏でて、響く……


心地のよい……幸せな音楽たちだった。








兄弟たちの笑った顔を思い出すと……

………途端に、寂しさが襲ってきた。










JONG
JONG
…………………………帰りたい…………








………そう口には出したが、

………まだ頭の中には……


ジン兄さんに責められた時の記憶が、

鮮明に蘇ってくる。









あんなに、腹を立てることも無かったのに……

宿舎を飛び出すような事でも無かったのに。





頭では分かっていても………

心と身体は素直に動いてはくれなかった。



ジン兄さんを睨み付けて、

年下らしからぬ態度を取ってしまった事。




みんなとの楽しい食事の時間を、

ぶち壊してしまった事。





心配して何度も電話をかけてきてくれたのに……

拒絶してしまった事……。












宿舎を出てすぐ……戻れば良かった。










自分が悪かった、と……


すぐに、謝れれば良かったのに……





















……………………後悔ばかりだった。
































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