ある男があなたの下の名前がいる会議室に入ってきた。
耳につけているピアスが、チリン・・・・と音を立てる。
男はあなたの下の名前に近づき、寝ているのを確認するかのように顔を覗き込む。
手を振り上げた。
あなたの下の名前に殴りかかろうとしているのである。
男は無表情のままあなたの下の名前に向かって殴りかかった。
しかし、当たる寸前であなたの下の名前が目を覚ました。
ちょうど起き上がったので男の拳があなたの下の名前の目の前を通り過ぎる。
あなたの下の名前は驚いてビクッと肩を震わせた。
その問いに答えようとはせず、男は再びあなたの下の名前に殴りかかる。
だが、あなたの下の名前はその拳を受け止めた。
そして眉を顰める。
そう呟くとあなたの下の名前は男の目の前で手を横に振った。
まるで埃をはらうような仕草に見えた。
その瞬間生気がなかった男の目に微かに力がこもった。
瞬きをすると男はキョトンとした表情を浮かべていた────
私は目の前の男の人と見つめ合っていた。
キョトンとした顔されても・・・・
おそらく私も似たような表情を浮かべていることだろう。
そう言われて初めて、そういえば手を掴んでいたな、と思い出した。
私はパッと手を離した。
男は不思議そうな表情を浮かべつつもさっきまで私が掴んでいた方の手をぷらぷらと振る。
・・・・この様子を見る限り嘘をついているようには見えない。
やっぱり何かしら取り憑いていたと考えるのが妥当か。
私はそんなことを考えつつもパッと笑顔を浮かべた。
質問した割には興味がなさそうだ。
私はさっきあったことを軽く説明してみる。
大袈裟に反応してみると、男はますます険しい顔になっていく。
何も収穫がなさそうだと判断したので私はそれとなーく帰るように仕向けてみる。
案の定うまい具合に乗っかってくれた。
男の人は呆れた様子でため息をついた。
そして部屋から出ていった。
私は肩の力を抜く。
無意識のうちに体全体に力が入っていたらしく、一気に体が重く感じる。
さっきついてたのは多分本体じゃなかった。
本体じゃないのに操れる?もしくは一つの感情を大きくさせることができる?
私はため息を吐いた。
今の所、それらしき気配を感じ取ることができない。
よくてもさっきあの男の子についていたような、小さいものの気配だけだ。
とりあえずこの日はこの学校にある先ほどと同じ気配のものを祓えるだけはらった。
するとあっという間に、夜が明けてしまった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!