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第1話

仙緑の窓際
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2025/10/14 10:13 更新
 仙緑の窓際
仙河緑、17歳の高校生。クラスでは窓際の席で体育はいつも見学をしている。授業にはいない時もあるし遅刻をする日もあるし、そもそも来ない日だって少なくない。

ただ、あの人は…どうしようもなく歌が綺麗。
わたしはあの人の歌がもう一度だけ聴きたくて、あの人と話したくて。

*
「結局、あの時わたしどうしたんだっけ。」

確か、
*

「っやばいもうこんな時間…居眠りしちゃった!」
午後5時50分を指す時計を睨んで窓の外に目を向ける。今は春だから部活は5時半まで。完全下校まであと10分。グラウンドにはもう誰もいないし、空もほとんど暗くなって、下の方に赤いのが残ってるぐらい。机の上に広げていたノートやらシャーペンやらを手早く鞄の中に突っ込んで帰り支度をする。

勉強なんて好きじゃないし、普段居残って勉強とかするタイプじゃない。ただ今日は天気が良くて、窓際の席がいつもよりもあったかそうで、どうしても座りたくなってしまった。
ほら、春眠暁を覚えずって言うでしょ?春が寝心地いいのなんてずっと昔からそうなんだからどうしようもないんだって。

「よいしょっ、忘れ物は…ない!席勝手に使っちゃってごめんね、えっと…」
机の持ち主の名前を確認する、もう解体寸前のクラスメイトの名前も全員まともに覚えていない。それは友達が少ないから、とかじゃなくて。あんまり気にしていなかったからだった。だから誰がどの席とか気にしたこともなかった。

「仙…仙河緑…。」

仙河緑。確か、体育をいつも見学しているあの子。普段人に興味がない私でもなんとなく記憶に残っている。いいな、と思う。
「よいしょっと…ありがと、仙河さん。」
椅子をしまって鞄を指に引っ提げて教室を出た。

夕方というにはもうかなり暗くなった誰もいない廊下に、上履きがぶつかる軽く心地よい音を響かせて歩く。

「〜♪」

唄。

誰の?


「…__!」

…こっち、から?

「最後の…さよなら…」

多目的室、窓のサッシに腰をかけて唄を、唄ってるのは…
「仙河、緑…。」

*
「?」
「今、誰か僕のこと呼んだ?」

*
やばっ、こっち見た!咄嗟に隠れちゃったけど、どうし
「キーンコーンカーンコーン」

「っ…ー!」
多分仙河さんは今!帰り支度をしてるから、パッていけば大丈夫!あと5分で出ないと怒られちゃうし!

「っ、はっ、はっ、はっ…。」
「…いない、よね。」

「…ははっ、なんだと思ってんだよ仙河さんのこと…追っかけてくるわけないし…むしろ盗み見てたのはわたしだし…。」

急いで校門から出たあともなんだか後ろが怖くて全力で走って結構きてしまった。運動部でもないのにこの運動量は普通にキツい。

「…あーあ…もっと聴きたかったなぁ…」
…え、あ、あれ?わたし、今。

『今度はちゃんと、話しかけたいな。』

*
次の日、仙河緑は学校に来なかった。

いや、そうだよね、もともとあんまりきてなかったし…。

「ガラッ!」
…!
「遅れまし、た。」

「き。」
っ…ぶなっ!あぶない、びっくりしすぎて叫ぶとこだった…。
き、来ちゃったよ!それはそれで…
仙河さんのほうを見たのはわたしだけじゃなかったみたいで気まずそうに席について窓の方に目をやっていた。流石にみんなももう視線を教卓に戻してSHRを聞き流す。
ただわたしと仙河緑だけが、空を見ていた。

(あ、汗…光ってる。走ってきたのかな…?それともあの空気、内心結構大焦りだったり…?)

否、わたしは空を見てるのではなく、仙河緑を見ているのだ。

(…はは、ちょっとキモいかも、わたし。)

(いつか、もう一度。)

*

*

「さよなら歌姫アンコールはどうする?」
(…これか、緑が歌ってたの。)

(…また、緑の唄が聴きたい。)

4月。
私たちは進級して、仙河緑は18歳の高校三年生になった。4月生まれはもう数字だけで見ると一つ年上になってしまった。大きな差があるわけではなく、ただ少しだけ早く18歳になっただけなのになんだか遠くなってしまった気がして少し悲しい。

歌声、唄声。

あの日から緑の唄声が頭から離れない。
私たちは何一つ進まない。
仙河緑にとってわたしはただのクラスメイトでしかなくて、わたしにとっての仙河緑は…わたしに、とっての、仙河緑も、多分…クラスメイトでしかない。

勝手に1人で呼び方を変えて近くなったつもりでいる。

「あーあ、体育なんて出るんじゃなかった…。すっ転んじゃったし、緑は相変わらずいないし。」

「〜♪」

「…ぁ。」

思わずこぼれた言葉を覆うように口を押さえる。
傷口がジクジクと痛んで早く処理しなきゃってわかってるのに足が動かない。

歌姫。目の前の人間はそう表すに値する唄声と、魅力があった。

*

…結局、何もしなかったのか、わたし。
あの子、今何してるかなぁ…まだ、歌ってるかな。


【緑仙1stライブ Ryushen】

「…あ。」

…もう、仙河緑はわたしだけの歌姫じゃない。もう、泣き声は聞こえない。
さよなら、わたしだけの歌姫。
そして、おやすみなさい。

いつものように黒いエナメルのパンプスをアスファルトに響かせて、ただ少しだけ跳ねながら歩をすすめる。

仙河緑、21歳。大学生。もう遅刻はしていない。
今日も、誰かの一部でありつづけて、歌い続けている。
▲ あとがき▽
しぇんのASMR聴きながら書きました。
Ryushenの衝動書きです。
「君になりたいから」と「イツライ」のMVをベースににじロックで歌われていた「おやすみ泣き声、さよなら歌姫。」をモチーフに書いたモブ視点小説です。夢小説、ではない。どうしても最後の部分が書きたいがために書きました。

余談
しぇんの雑談、ずっと限定公開ってメン限のことだと思ってたんですけどミックスリスト限定のことだったんですね。嬉し。みなさんもご自愛ください。

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