やっと咳も出なくなって
自由に行動できると思ったのに
休んでた分の大学ノートを借りたり
出られなかった分のバイト代を稼ぐために働いていたら
思ったよりも時間が経っていた
また期間空いちゃったな
もう忘れられてるかも
だってまさかあの時のやけ酒のせいで
あんな酷い風邪になると思わないじゃん
それの理由もてさんなのが呆れちゃう
僕ってばどんだけ好きなんだろう
一人じゃ不安だから … 誰か誘おうかな
だってあいつ
僕の風邪が治る前も治ってからも
この家に高頻度で来て飲み潰れては ,
うなくがどうとか僕がどうとか
僕に聞かせていい話なのかってくらい赤裸々に
自分に起こった出来事や気持ちを吐露して
そのまま寝落ちるのを繰り返してたから
… まぁ , じぇひょんが僕に向ける好意には
もちろん気づいていたけど
まさかうなくにまで手を出すなんて , と思った
あの時の電話でもおかしなことを言っていると思って
そんなことする子じゃないって言ってしまったけど
じぇひょんの話を聞くと納得出来た
先生には見せない面もあるよな , なんて 。
すごくめんどくさかったから
結局うなくと会い続けているのは自分の意思でしょ ,
そう言ってやりたかったけど
なんだか可哀想で言えなかった
あと色々大変みたいだから追い出すこともしなかった
どうせ次の日には家に来たこと以外全部忘れてるし
僕が言わなきゃ済む話だからね
一人でも , そうじゃなくても
僕はてさんに会えればいい
メガネをテーブルの上に置き , コンタクトに付け替えた
一呼吸おいて , バーの扉を開ける
いつも通り周りの男には目もくれず
カウンター席を目指す
… てさん , 出勤してないのかな
目立つ赤髪がいない
久しぶりに会えると思ったのに
残念だな
いつもの席に座ってメニュー表を眺める
今日は何にしよう ,
てさんが居ないなら普段飲まないやつに …
" いつもの " が目の前に置かれる
てさんは居ないのに
何でこれが出てくるんだろうと
疑問に思って顔を上げたら
想像もつかないことが起こっていた
焦りすぎ , と言って笑うてさん
ちょっと待ってよ
似合ってるし本当にかっこいいけど
なんで突然 ?
あんなに綺麗な赤だったのに
僕が困惑して何も言えないでいたら
てさんの方からイメチェンしたんだと教えてくれた
イメチェン , そっか イメチェン …
赤の方が好きかとからかうように聞かれて
危うく好きだと言いそうになった
でもその3文字を言える勇気は持ち合わせてない
そのせいでなんだか変な理由になってしまったけど
実際赤だと見つけやすかった
まぁ そもそもの話 ,
赤以外を見たことはないのだけれど
中々見ないもんね , と笑いながら
黒くなった髪をなぞる
その仕草に見惚れて , 目を離せないでいたけど
目が合う直前に焦って逸らし
手元にあるカクテルを飲み干した
初めての提案に心を踊らせていると
強いから無理して飲まなくてもいいという言葉と共に
僕の目の前に置かれたのはギムレットだった
突然のことで困惑したけど
てさんからこんな話を振ってくるのは珍しいから
真剣に考えなきゃいけないと感じた
う ~ ん … ,
好きな人が , 振り向いてくれなかったら ?
てさんが僕に振り向いてくれなかったら僕は …
振り向いてくれなくても
両想いになれなくてもいい
だって僕が勝手に想ってるだけだから
てさんから初めて言われた言葉に喜んで
ギムレットを少量 , 口に含んだ
そんな僕にてさんは微笑みだけを残し
上がる時間だからと , 背を向けて行ってしまった
… その後 , このバーでてさんを見ることは無くなった
次話から何話か てさん いはん りう のお話になります ˙ᵕ˙















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!